12 お嬢様の本(エイミー視点)
「クックック……お嬢様の突飛なアイディアには驚かされるな」
お嬢様のお世話を終えて、使用人用の食堂で食事をしていると、同僚であるマイケルが正面の席に着いて話しかけてきた。
私はエイミー・ロス。グラース公爵家に雇われている侍女でローズマリーお嬢様の専属として働いている。
「別にお嬢様の突飛な行動は今に始まったことではないでしょう?」
「そりゃそうだが、まさか本を作ると言い出すとはな」
ちなみに、話しているマイケルは侍従としてグラース公爵家に勤めていて、王立学園で同窓だったことから頼みごとをするのに便利な存在だ。
同じ子爵家で学園でも何かと絡むことが多かったし、グラース公爵家で勤めてからも何かと絡むことが多い。
「まあ、確かに本というのは意外ではあったわね」
「だろ? これまでのお嬢様は庭で走り回ったり、動物なんかに興味を持っていたけど、まさか本とはなぁ」
お嬢様は公爵令嬢でありながら勝手に自分で身支度をしたり、外で駆け回るのが好きだったりと普通とは違う点が多かった。
とはいえ、マナーや勉強自体は好きだったので問題視されていなかった。
「そもそも、お嬢様は屋敷に書斎があることも知らなかったようだから、誰かから聞いて興味を持ったんじゃない?」
「誰にだよ? お嬢様は専属であるお前と常に一緒にいるのに、お前が知らないうちに本のことを聞くなんておかしいだろ」
「……」
そう言われると答えに窮するわね。確かに私はお嬢様の傍に常にいるから、私が知らないということはおかしい。
お嬢様だけなのは自室にいる時だけだから、他の誰かと話すときは私がそばにいるのよね。
「まあ、確かにおかしいけれど、何か問題がある? お嬢様の作ろうとしてる本は公爵家に利益をもたらすだろうし、子供の遊びというには計画性があるわ」
「……それは」
「公爵家に不利益になるようなら、あるいは子供の遊びで公爵様の邪魔をするなら止めるけれど、そうじゃないならお嬢様の好きにさせるのが私の仕事よ」
「……まあ、それもそうか」
書斎にある本を読み漁ったり、そこにある本から新しいジャンルの本を作ろうと考えるのは確かに子供とは思えないし、どうしてそう考えたのかは気になる。
だけど、公爵家の利益につながれば、公爵家で働いている私たちの利益にもつながる。
そう考えれば、お嬢様の手伝いをしようという気にはなっても、邪魔しようという気にはならないわ。
「それに、お嬢様の新しい本を作るってアイディアは貴族女性を救うわ」
「は?」
マイケルが目の前で何を言ってるんだ? って顔をしているけれど、これ以外に思い当たる言葉がないわ。
「男性にはわからないかもしれないけれど、貴族女性は常に太らないように戦っているの」
「あ? 女がプロポーションを気にするってのはわかるが、お嬢様の本と何の関係が?」
「は~。貴族女性が常にお茶会を開いているのは知っているでしょう?」
「ああ、社交の一環だろ? 男はチェスだったり狩猟だったりするけど、女はお茶会が多いよな」
マイケルの言うように、貴族男性はチェスや狩猟をしつつ社交をするけれど、貴族女性はお茶会で社交を行うことが多い。
たまに乗馬をたしなむ人もいるけれど、少数派ね。
「だから、貴族女性は太りやすいのよ」
「いや、そんなこと言われても……」
「貴族女性のお茶会って言うのは社交でもあるけど、娯楽の一環でもあるの。色んな人のうわさ話をすることで知識を仕入れたり、暇な時間をつぶしたりしてるってわけ」
「……まあ、言いたいことはわかる」
「お嬢様の新しい本が娯楽になるなら、お茶会の回数を減らすことができるわ」
「そんなもんかね」
「貴族男性はいつもそうよね。こっちの苦労なんて知らないくせに、やれ太るなだとか、やれドレス代がだとか」
「なんだ? 婚約者か恋人にでも言われたのか?」
「はあ!? 貧乏子爵家の娘である私に婚約者なんて上等なもんがいるわけないでしょ! お父様よ、お父様。こっちは子爵家のつながりを強化するためにお茶会に出てるのに、それでラインが崩れたらドレス代で出費がかさむだのなんだの文句を言ってきて……」
「ああ、あの親父さんなら言いそうだな」
思い出したら、ムカついてきた! まったく、お父様ったらお母様のアクセサリーや弟のスーツにはお金を掛けるくせに、私には文句ばっかり。
ま、だからこそ王立学園を卒業すると同時に公爵家へと就職したわけだけど。
「……というわけで、お嬢様の新しい本づくりは手伝いたいわけよ」
「そうな。需要があるのなら、こっちも嫌とは言わんよ。公爵家の利益につながれば、こっちの給料アップにもなるだろうし」
「ま、それもあるわ。公爵家の給料に不満はないけれど、お金はあればあるだけ嬉しいしね」




