11 エイミーの説得
「というわけで、二人の話を本にしていいか聞いたのよ」
「なるほど。販売されるかどうかは別として、まずは貴族の説得用ですか。……まあ、大丈夫でしょう。別に子爵家の秘蔵話をしたわけではありませんしね」
「わたしも大丈夫です。男爵領なら誰でも知っている話ですし」
「そう? ありがとう。販売することになったら、もう一度確認をとるからね」
二人が納得してくれたことで、話してもらいながら物語を手元の紙に書き込んでいく。
この世界にやってきてから職業本や神話ばかりを読んでいたけれど、やはり人に聞かせるのが目的の物語を知るとやる気がみなぎってくる。
「お嬢様、戻りました」
物語を書き留めていると、エイミーが戻ってきた。
「あら、早かったわね」
「そうでもありませんよ。集中なさっていたようですから、時間の感覚がおかしくなっているのではないですか?」
壁に掛けられた時計に目をやると、確かにエイミーが出て行ってから相当の時間が経っていた。あれれ?
別に集中していたってほどじゃないけど、何回も話を聞き返したりしていたから、思っていたよりも時間が経っていたみたい。
「で、お父様の方からの返事は?」
「そちらの本を作成した貴族との面会をセッティングする、と」
「あらあら、お父様にも改めてお礼を言わないとね」
ふふ、二人から物語を聞き出したのは早計だったかと思ったけれど、エイミーが有能だったから無駄にはならなそうね。
「で、お嬢様は何をなさっていたのですか? 見たところ、手元に本がないようですが」
「二人から地元の伝承や寝物語を聞いていたのよ。教訓になりそうな話が多かったから、この本を作った貴族との面会が上手くいったら本にしてもらおうと思ってね」
「なるほど」
「エイミーも何か物語を知ってる?」
「知っていますが、子爵領なら誰でも知っているような話ですよ?」
「二人にも言ったけれど、子爵領で誰でも知っていても、公爵領では誰も知らない話でしょう?」
「……そういうことでしたら、いくつかお話ししましょう」
そうして、エイミーから伝承や寝物語をいくつか聞いたけれど、やっぱり先に話してもらった二人とは違った話でこちらも面白い。
もちろん、定型というか基本の形はあるけれど、それでも注目する点や注意を払う場所が違うのよね。
「そんなに面白いものですか? 言っては何ですが、私の話もエイミーの話も変わらないでしょう?」
「あら、そんなことないわよ。貴方の領地には森があるのでしょう? それにエイミーの領地には大きな湖が」
「確かにあります」
「お嬢様にお教えしましたか?」
侍従とエイミーはそれぞれ、私の言葉に驚く。
「別に難しいことではないわ。貴方に話してもらった寝物語では危険な森に子供たちが冒険に行く話があったし、エイミーの方では湖に出かけた子供たちが魔物に襲われる話があったわ」
「そう……ですね」
「確かに……しましたね」
「寝物語には子供に危険な場所を教えるという意味があるから、その領地で危険な場所が舞台になっているものよ。そう考えると、それぞれの領の特色が現れていて面白いでしょう?」
この手の教訓話は聞いているだけでも、その土地の危険な場所や土地柄がわかって面白いのよね。
子供が多い地域では無謀な子供が痛い目にあう話があるし、逆に少ないと子供をとにかくかわいがるような話が出てきたりする。
「……なるほど」
「あんまり納得していないようだけど、みんなも子供を育てるようになったら本の重要性がわかるんじゃない? 子供って何でも知りたがるもの」
「…………まるで、子供を育てたことがあるようなことを言いますね?」
「ふふ、何を言っているのかしら? 私が子供だからわかるのよ。みんなにいろんな話をねだっているのも、私が知りたいからだもの」
「それはそれは、説得力がありますね」
「でしょ? みんなの子供も私みたいになったら大変よ。本が読みたい、いろんなお話が聞きたい、って。そうなった時にお話がまとまっている本があったら便利でしょう?」
みんなは私の言い分に納得したのか、クスクスと笑っている。これは上手い方便だなと思う。
本を作るのも物語を集めるのも私の欲望が理由だけど、子供は好奇心の塊で、自由に外で遊ぶのが難しい貴族の子供にとって本は重要なものになるだろう。
そのために物語を集めている、本を作ろうとしている、ということにしておけば、貴族の大人たちは納得せざるを得ないわよね。




