第1章 不安な安眠
祭壇から出ると、コロティアのイベントが未処理のままになっていた。
視界の隅に細かな光点が現れて、そっと瞬いている。よく見なければボタンが歪んだだけだと思ってしまいそうなほどだ。
【……まあいい。彼女と交流したくないわけじゃない。でも好感度が満タンになってしまって、どう向き合えばいいのかまだ考えがまとまっていない。】
何せ朔に対する気持ちはまだ宙ぶらりんだ。彼女はいろんなことを隠しているけど、言いたくないなら無理に聞くつもりもない——なるようにしかならないし、急いでどうにかなる話じゃない。
祭壇から出てくると、婪がすぐに寄ってきた。手を伸ばしてその首を叩く。
「彼女はどうなった? どうなった?」
「大丈夫だ。彼女は優しい人たちと一緒にいる。もう傷つくことはない。安心しろ。」
「よかった……よかった……」
婪の声が突然途切れた。もがくでもなく叫ぶでもなく、体が炎に包まれて消えていった。まるで先延ばしにできなくなった何かを成し遂げるかのように。
炎が去った後には、あの頭骨と尻尾だけが残された。骨の節は微動だにしない。
【……なんでだ?】
一瞬呆けて、無意識に手を伸ばした——もう動かなかった。
死んだだけだ。最初の姿に戻っただけだ。頭骨と尻尾だけ、光もなく、残り火もなく、何も残っていなかった。
「大師」の光術が勝手に手の甲へと移動してきた。
それを拾い上げる。とても軽い。かつてあんなに長い距離を運んでくれたとは思えないほど。他のアイテムと同じように、バッグにしまった。
振り返ってもう一度祭壇に入る。
ニクスがベッドのそばに立って、マントの皺を整えていた。俺が入ってくるのを見て顔を上げる——視線は俺に留まらず、手に持っているものへと落ちた。
彼女はそれを受け取らず、ただ静かに見つめていた。
「……役目を終えたんだな。」彼女の声は平坦だった。「そうなることはわかっていた。」
「ニクス……」
「私の力が暴走した時、あいつはもう死んでいた。彼女が首だけを持ち去った。戻ってくるかもしれないけど、俺のことは忘れるかもしれないって言ってた。」
彼女は一瞬間を置いた。
「彼女は嘘をつかなかった。でもあいつにはヘリアの炎がついている……長くはもたなかった。」
彼女は泣かなかった。目は赤くなっていたが、涙は落ちなかった。
【……彼女が悲しくないわけじゃない。もうとっくに泣き終わっていたんだ。】
俺はその場に立ち尽くし、婪の頭骨を持ったまま、どこに置けばいいのかわからなかった。
「……預かってくれるか?」 と聞いた。
ニクスは手を伸ばして受け取った。指先が骨に触れた時、わずかに力が入った。それがもういなくなったことを確かめるように。
「……うん。」
彼女はそれをマントの内側にしまった。
「何度も言っただろ」 フラグが壁に寄りかかって、抑揚のない声で言った。「私たちの世界の産物は、他の世界では生きられないんだ。」
「お悔やみ申し上げるよ、小さなやつ。」 ソノラは珍しく笑わなかった。「喪うことは日常なんだ。」
「リリィ、泣きたいなら泣いていいよ。」 コロティアが言った。
「……お悔やみを。」
カタイナはそれだけ言った。目は見えず、顔はまだ真っ黒だが、声は以前より落ち着いていた。
もう一度ニクスを見る。彼女はもう背を向けて、みんなに背を向け、うつむいてマントの中の骨を見つめていた。
視線を戻してコロティアの方へ向く。あの光点はまだ彼女のそばでそっと瞬いている。
「……何か言いたいことがあるのか?」
「もっと近くに来てくれないか?」
後ろでソノラが「おおっ」と言った。一瞥してから、それでも近づいた。
木の家が動き始めた。一瞬で他の人たちが消え、俺とコロティアだけがまったく別の空間に立っていた。
木の家より静かで、より温かい。暖炉があり、古い絨毯があり、とても古そうなベッドがあった。
コロティアはその場に立ち尽くした。体にはまだあの鉄の枠がついているが、錆びた防具は普通の服に変わっていた。
「……ここは……私の家……」
手を伸ばして壁の木の柱に触れた。声は何かを起こさないようにと怯えるように小さかった。
「どれくらい……戻ってなかったんだろう……」
彼女は泣いた。涙がこぼれ落ちるが、拭おうとしなかった。
「父さん……母さん……戦争であなたたちを失って……なぜ私だけが……」
【……あまりに大きな反応で、どう声をかければいいのかわからない。】
近づいて肩を叩く——手を下ろした瞬間、違和感に気づいた。
下を向いて確認する。五本の指。ぬいぐるみの小さな手じゃない。人間の手だ。腕を、体の輪郭を見る——元の姿に戻っていた。
でもセレスじゃない。耳はまだある。毛むくじゃらで、髪はいつもより長く、見たことのないパジャマを着ている。
【これは何だ……俺自身の人の姿か?】
コロティアが顔を上げて俺を見た。彼女は一瞬呆けて、その視線を何秒も俺の顔に留めた。
「……あなたはリリィなの?」
「うん、俺だよ。」
「そんなあなた……すごく綺麗……」 彼女の声は震えていた。「ふわふわの耳……きれいな髪……それに……本物の……目。」
彼女は俺を抱きしめた。
あまりに現実的だった。体温、重さ、心音——すべてが本物だった。慌てて身が固まったが、押し返さなかった。
「……一緒に寝てくれないか?」 彼女の声が肩に埋もれた。「このまま抱きしめて。」
何か言おうとしたが、ベッドが後ろに現れていた——彼女がそっと引くと、二人で柔らかい寝台に沈んだ。
彼女は強く抱きしめ、呼吸が次第に落ち着いていった。ようやく安心して目を閉じられる場所を見つけたかのように。
しばらく彼女の顔を見つめた。眠っているが、目の端の涙はまだ乾いていなかった。
【……好感度が満タンになるとこうなるのか? 特別なCGかなにかかと思ってたけど、本当に寝に来ただけだった。】
起きていようと思ったが、まぶたがどんどん重くなった。暖炉の火が燃え、彼女の息は軽い。いつ目を閉じたのか、自分でもわからなかった。
再び目を覚ますと、教会の篝火のそばに座っていた。
手を見る——ぬいぐるみの手に戻っていた。
【……あれは彼女の願望空間だったのか? 彼女は本当にただ眠りたかっただけなのか?】
考える間もなく、異変に気づいた。
篝火が激しく燃えている。コーラの槌が上がっては下り、同じ動作を繰り返している。シエルは商品を持っては置き、また持ち上げる。朔は石の台座に座り、横顔を炎の明滅に照らされている——誰もが動いているのに、一人として止まれない。
窓の外を見る。
さっきまで晴れていたのに、次の瞬間には雨が降っている。光が明るくなっては暗くなり、すべてが加速している。何かが時間のねじを緩めたかのように。
【……ヴィロシの世界だ。】
覚えている。追風競技場、永遠に一位を争い続けるあの場所——だからこそ教会がこんなに速く浸食されたのだ。
超速の力、時間までもねじ曲げてしまう。ただ特別なCGに入っただけで、出てきたらこんなことになっていた。
立ち上がり、誰の名前も呼ばなかった。
炎が目の前にある。
踏み込んだ。




