第6章 虫母
「行ってくる、朔!」
「うん、気をつけてね。」
毎回これを言うたび、なんだか家族みたいだな。
今回は転送しなくていい。自分で晶砕獣を片付けられるからな。
あいつらは実は犬みたいなもんで、攻撃するときに歯ぎしりみたいな声を出すんだ。
飛びかかってくるタイミングで大剣を高く掲げて一振り——ちょうど硬直が取れる。着地したところにもう一太刀。
しばらくしたら復活しちゃうけど、もう怖くはなくなった。
この群れを倒し終えると、空に青い蛍が現れた。
やっぱり、特殊エンドにも案内があるんだ。制作陣、なかなか親切だな。
烁殻虫に乗って、すぐに洞窟の前に着いた。
道中は体当たりと騎乗攻撃でザコをたくさん倒せた。金稼ぎがどんどん楽になってる。
でも洞窟に入ったら、烁殻虫がなんと俺を降ろした。
縮こまってぶるぶる震えてる。どうやら洞窟の中にとんでもないものがいるらしい。
バッグを開けると、中に水晶の欠片が入ってた。
【なんだこれ?】
取り出して見ると、下に紙切れが挟まってた。
「破晶嶺専用の乗り物に役立つよ。1000ソウル貨、戻ったら忘れずに払ってね♡」
——シエルの字だった。
【1000ソウル貨?!こんなに高いのか? 買うって言ってないのに、なんで勝手にバッグに詰め込んだんだ?!】
まさかシエルがこんなに狡猾な悪徳商人だったとは。
でも彼女が無理やり押し付けたのには何か理由があるのかもしれない。
この底が見えない洞窟、烁殻虫に乗らなきゃ絶対に下りられない。
飛び降りたら死ぬに決まってるだろ?
洞窟の入り口の篝火を灯したけど、朔はいなかった。
【メインクエストの篝火じゃないからな……朔も「会いたい」と思っても出てこないのか。ちょっと悲しい。】
水晶の欠片を烁殻虫に渡してみた——そしたらなんと、一口で食べた。エサを見つけたみたいに。
それから震えが止まった。
もう一度乗って洞窟の中へ進むと、今度は降ろされなかった。
【やっぱりエサやりは大事なんだな。俺がいるってことをわからせたら、マイナス状態が解けたわけだ。】
すぐに、洞窟の中の音がどんどん増えていった。
烁殻虫が動くときの音と混ざっていて、最初はただの砂利の音かと思ってた。
視界が開けて、広い場所に出た。
【ここも戦闘があるのか? 前に来たことないから、一発で倒せるか微妙だな。】
案の定、巨大な烁殻虫が地中から出てきた。
明らかにメスだ——体がもっと長く、お腹には水晶の卵がびっしり這っている。
ちょっと気持ち悪い。匂いも感じる。
画面越しじゃ五感全部が揃うことはないから、こんなモンスターは怖くない。
でも今は違う。卵も体も全部水晶でも、視覚的な衝撃がきつい。
【洞窟の小ボス:烁殻虫母】
【なるほど、烁殻虫が怖がってたのは自分の母親だったのか。】
まあいい。乗り物がいるおかげで移動は完全について行ける。
虫母も体当たりしてくるだろうから、前振りの間に何発か斬り込んでおく。
ところが、近づいたら虫母の体から卵がすぐにボロボロと落ちて、瞬時に割れ、無数の晶刺があらゆる方向に飛び散った。
急いで前に突進し、地面の卵を踏み潰す。
烁殻虫はダメージを受けないけど、俺は受ける。
飛んでくる晶刺はやっぱり完全には避けられなかった——二本刺さった。
【烁殻虫に乗ってるときは転がれないしアイテムも使えない。でもこれに乗らなかったら虫母に挑むなんてなおさら無理だ。】
【まあいい、刺さったままにしておくか。痛くないし。】
虫母が一声嘶くと、小さな烁殻虫の群れが呼び寄せられた。HPは低く、一太刀一匹。
そいつらの動きを観察する——壁を這い出てきて、着地するまでは攻撃してこない。
だから地上の小虫を片付けたら、すぐに壁際に移動した。
スタミナを消費し続けて、壁ごと薙ぎ払う。小虫たちに攻撃する隙を与えない。
最後のスタミナは、虫母の尻尾の首に使った。
【こいつも双頭虫だろ?】
嘶いた後、虫母は少しの間動かない。
傷ついたときだけ、地中に潜って位置を変える。
位置を変えるとき、俺はその場で動かない——虫母が地中から出てきてロックオンするのを待って、出てくるときの振り返り噛みつきをかわすだけだ。
頭を引っ込める速度は普通の烁殻虫より遅い。ちょうど追い打ちが入れられる。
【慣れだ。一度見れば技を覚えられる。】
ましてやセレスの【天賦の才】がある——攻め方を覚えたら、どんどん上手くなる。
でも虫母に第二段階があるとは思わなかった。
第二段階になって、ようやく本当の体当たりを始めた。
しかも曲がってくる。
【しまった! 避けきれない!】
そのまま烁殻虫から叩き落された。
乗り物から落ちると同時に、刺さってた二本の晶刺が勝手に抜けて、150ダメージ。
【ディレイダメージ? くそっ!】
あの体当たりは、一時的に乗り物に乗れなくなるだけでなく、烁殻虫が致命傷を防いでくれたにもかかわらず、200ダメージも食らった。
ダメージが高いのはわかってたけど、ここまでとは。
【これがボスか?】
あいつのスキルには前振りも後隙もほとんどない。頻度は普通の烁殻虫の何倍も高い。
【終わった。愈伤棉を使ってるときは速度が落ちる。避ける間もなく即死だ。】
でも今は愈伤棉を食べる以外に何ができる?
減速状態で仕方なく薬を飲む——画面の前でボタンを押すより反応が遅いのは当然だ。
視界がぼやけて、足が少しふらつく。
瀕死の感覚。反応がガタ落ちだ。
体当たりがもう二メートルまで迫ってる。転がっても衝撃を食らう位置だ。
【死ぬな。復活したら水晶の欠片はまだあるのか? 烁殻虫が入ってきてくれなかったら、もっと倒せなくなる。主人公になってまだちょっとしか経ってないのに、もう詰むのか?】
200ダメージ——死んだ——
【システム通知:守護者の隠し祝福を発動しました。一度限り、全快復活。】
【なに? 朔がくれたのか? それってむしろヤバくない? 今発動しちゃったら、フラグ戦のときはどうすんだ? もう一度朔にお願いできるのか?】
全快復活した後、やっぱりダメージは引き継いで、150減った。
でも復活中、モンスターは無敵フレームの影響で数秒間スローになる——その一瞬を狙って、一撃重く首筋に叩き込んだ。
虫母は断末魔の叫びをあげて倒れた。
3000ソウル貨と水晶の欠片三個を入手。
【さすが洞窟の小ボス、結構くれるな。これでしばらくは烁殻虫のエサ代に金を全部使わなくて済むぞ。】
虫母の死体の向こうで、青い蛍が再び現れ、そして消えた。
近づいて地面のものを拾った。
【システム通知:安定した晶核の欠片・その一を獲得しました。】
考える間もなく、記憶の断片が頭に流れ込んできた——
「いや、娘を奴に捧げるわけにはいかない!」
男女の声。誰かの両親のようだ。
次の瞬間、目の前が血の海に——まるで自分の頭から血が流れ落ちて、目を覆ったかのように。
血がすぐに流れ尽きると、一対の目が現れた。ほんの一秒半。
ゲーム経験豊富な俺なら、瞳孔だけでそれが何の生き物か見分けられる。
——ドラゴンだ。
目の間隔から見ても、巨竜だ。
記憶が終わった。
【なんだこれ……さっぱりわかんねえ。破晶嶺にドラゴンなんていなかっただろ。何度もプレイしてきたけど、一度も見たことないぞ。】
【新しく追加された? ベテランほど初心者っぽくなるってか。】
洞窟を出ると、青い蛍はもう赤い蛍と同じ方向に飛んでいた。
【ついに……フラグと向き合わなきゃいけないのか。】
【でも今の俺のステータスじゃ、全然足りねえよな。】




