幕間 音楽堂
教会に戻り、青い蛍に触れた。
遺燼祭壇に入る。三つ目の空きスペースに、【ソノラの遺燼】を置いた。
木の部屋がまた広がった。フラグとコロティアのベッドが両側にずれて、真ん中に新しいベッドが増えている。
ベッドのそばに、ゆっくりと人影が浮かび上がる。
ソノラ。目を閉じて、口元にあの笑み。
「おや? ここが休める場所なの?」
彼女は辺りを見回す。
「なかなか狭いね。」
「これ、あげる。」
あの女からもらったものを渡す。
「私に? 本当? ありがとう、小さなやつ。」
ソノラはそれを受け取り、くるくる回しながら眺めて、耳に付けた。
【全然イヤリングに見えない。】
「みんな……持ってるんですか?」
コロティアが手話で尋ねる。
「違うよ。誰かの頼みで、ソノラだけに渡したんだ。」
「そうなんですね……」
コロティアが微笑む。
フラグは何も言わず、ソノラの耳飾りを一瞥した。
「どれもすごく面白いメロディーだね。」
ソノラは耳飾りを撫でて、にこにこしている。
「みんなの心音は、小さなやつに向いてるんだろ?」
「リリィって呼んでいいよ。」 訂正する。
【なんでみんな俺にあだ名をつけたがるんだ?】
「心音なんて、どうでもいいものだ。」
フラグが突然言った。
「また不正直な人がいるね。」
ソノラが首をかしげる。
「ところで、あんたたちもリリィに救われた人たちなの?」
コロティアがうなずく。
「喋れないの?」
ソノラはコロティアがずっと手話をしていることに気づき、視線を首の支えに留める。
「その怪我、どうしたの?」
「馬に……蹴られて……顎の骨が……完全に砕けました……だから……話せません。」
コロティアがゆっくり手話する。
【前に見たあの記憶の断片、蹴られたのは彼女だったんだな。】
「可哀そうに。」
ソノラが一歩近づく。
「もっと便利な方法を教えてあげるよ。」
耳飾りを撫で、指先で弾く。二本の細長い音叉が手首から伸びる。彼女はコロティアの手を取り、音叉で手首をぐるりと巻く。
コロティアは思わず引っ込めようとしたが、ソノラの顔を一目見て、止めた。
音叉がそっとひとつにまとまる。半透明の、音符を引き伸ばしたようなブレスレットが、コロティアの手首の両側に浮かび上がる。
「どういたしまして。」
ソノラが手を離す。
「これで感情をもっとストレートに伝えられるよ。心から誰かを好きになったら、それを使って遠慮なく演奏しなよ。」
コロティアのブレスレットが軽く震えた。俺には三つの音符が聞こえた。
低い、高い、低い。
【……彼女を好きだって? 俺のことか?】
コロティアの顔が一瞬で赤くなった。ブレスレットから高低のメロディーが途切れなく溢れ出る。
【そのメロディー……俺にはわかるんだ。「あなたに出会えて嬉しい」「あなたがあきらめないでくれてありがとう」】
メロディーが途切れた。コロティアが顔を覆った。
【……なんだか照れるな。】
「あの不機嫌そうな顔のお姉さんにも、このメロディーは伝わるんでしょ?」
ソノラがフラグの方へ顎をしゃくった。
「ただうるさくなっただけだ。」
フラグは無表情。
【不機嫌そうなお姉さん……確かに似合ってる。】
「あんたたちのところ、ほんとに殺風景だね。」
ソノラは辺りを見回して、首を振った。
「英雄を長くやってると、趣味を失くしちゃうの?」
「お前——」
フラグの言葉は最後まで届かなかった。ソノラはもう背を向け、横の壁に向かってメロディーを叩いていた。
壁に扉が現れた。
近づいて開ける。中は音楽堂だった。ピアノ、ハープ、オルガン……様々な楽器が一列に並んでいる。
「三人とも、ちょっと息抜きしない? 習ってもいいし、私の曲を聴いてもいいよ。」
「ぜひ見たい!」
急いで言う。
コロティアのブレスレットが軽快な音符を連ねる。フラグは入り口に立ったまま、動かないけれど、去りもせず。
ソノラはピアノの前に座り、指を鍵盤に置く。
「この曲、まだ覚えているといいんだけど。」
最初の音を奏でる。
——メロディーが流れ出す。雪を頂いた山の上に立ち、雲海を見下ろすような。平原に寝転んでオーロラと共に星を数えるような。裸足で砂浜を歩き、潮の満ち引きが足首を打つのを感じるような。
あまりに心地よかった。
俺はふと気づいた。こんな風に静かに座っているのは、久しぶりだ。
【自分はまだ帰れるんだろうか?】
この姿は俺のものじゃない。この名前はゲームの名前だ。この体は……所詮セレスのものだ。
【いったいどうやってこの世界に来たんだ?】
「トントントン。」
誰かがドアを叩いた。
「もう終わりか?」
フラグが外に立っている。
「もっと騒がしいかと思ったのに、つまんないね。」
【ずっと外で聴いてたのか?】
好感度パネルが動いた。
【—システム通知:音楽堂の強化——攻撃力・敏捷性・魔法力がそれぞれ5%上昇します。戦闘開始後35秒間持続。—】
【一回きりなのかずっと続くのかわからないな。】
パネルを閉じようとしたら、バッグの中で何かが動いた。
開けてみる。
狼の頭だ。拳大で、黒い。一つ目の縦目が立っていて、二本の耳骨が突き出ている。首はなく、直接尻尾が繋がっていて、頭より一回り小さい。隅で丸まっている。
それが動いている。関節がこきこき鳴って、今にも目を覚ましそうだ。
【あの女がくれたものはやっぱり変だ。でもどうしようもない。捨てるわけにもいかないだろ? もし役に立つかもしれないし。】
ひとまず仕舞っておこう。




