第10章 完全な心音
遺燼祭壇に入ると、すぐにフラグのため息が聞こえた。
「これで何度目だ、おもちゃちゃん。本当にやることがないんだな。」
「自分から話しかけてきた? だいぶ仲良くなったんじゃないか、フラグ。」
「言わなかったことにして。」
コロティアが手話をしながら、目尻に笑みを浮かべている。
「嬉しいです……また会えて……リリィ……魔法は……慣れましたか?」
「おかげでかなり強いモンスターに勝てたよ。」
「そうですか……お役に立てて……嬉しいです。」
【すげえ、コロティアとちょっと話しただけで好感度がまた20%も上がった。】
コロティアの目には、優しさの奥に愛しさが隠れている。朔の神性とは違うのに、心臓の鼓動が止まらなくなる。
【なんで遺燼祭壇に入ってもこの心音が鳴り続けるんだ? 変だな。】
【それにさっき朔に「彼女への好きとは違う」って言ったばかりなのに、本当にドキドキしちゃダメだろ……】
【やっぱり俺は優しい人が好きなのは変えられない。どんな優しさにも弱いんだ。】
「それで……リリィは私たちに……何か用ですか?」
コロティアが手話で聞く。
「この世界で青い蛍が何度も出てきてさ。あなたたちが俺を探してるのかなと思って見に来たんだ。」
「独りよがりもいい加減にしろ、おもちゃちゃん。そこまで会いたくはないよ。」
フラグがまた毒づく。
「私は……会いたかったです……」
コロティアが慌てて手話した。
「それで、二人はうまくやってる? 喧嘩とかしてない?」
「もちろんしてません……フラグの言うことをよく聞いてますから……」
コロティアは笑いながら手話する。
「喧嘩なんてできるわけないだろ。話す話題もないし。」
「さっきまでリリィの話をしてたじゃないですか……」
コロティアが新しい手話をした。でも俺は天賦の才のおかげで理解できた。
「俺の話?」
「お前……この手話もわかるのか?」
フラグの声が少し気まずそうだ。
「なんだ? 二人で新しい言語でも作ったのか? 秘密の話に便利だから?」
コロティアはフラグを一瞥し、ゆっくり手話した。
「手話とは……ちょっと違う……彼女が教えてくれた……ずっと寝てるわけにも……いかないから。」
【そうだよな。このゲームのキャラは食事はしなくても、睡眠は必要なんだ……俺は別だけど。死んだら寝たも同然だし。】
「じゃあ、フラグは手話のできる人を知ってるんだ?」
と聞いた。
「お前も見たはずだ。記憶の中の小さな女の子。」
【フラグがようやくその話をしてくれた……って、好感度いつ70%になったんだ?】
【二人で話してるだけで好感度って勝手に上がるのか?】
「そういえば、ソノラって知ってるか?」
【コスモがソノラの世界に来れたなら、彼女たち同士は知り合いなのか気になる。】
「知らない。誰だ?」
「この輪廻世界の主だ。」
「知らん。そもそも人と知り合いたくないんだ。面倒くさい。」
「もしこの世界の主なら……リリィが連れてきてくれるよね?」
コロティアがこちらを見る。
「そうするよ。でも先に言っておくけど、あいつは何でも聞こえるんだ。」
「何でも聞こえる? じゃあ読心術も使えるのか?」
「多分使えないと思うけど……確かじゃない。」
「はあ、また面倒なやつか。」
フラグがため息をつく。
「もう一つ聞きたいんだけど、『完全な心音』って何だと思う?」
「なぜそれを聞くんだ?」
心音の話になると、コロティアは少し照れていた。
「ソノラを祭壇に来られるようにするための鍵なんだ。でも全然意味がわからなくて。」
「どうでもいいものだよ。」
フラグがすぐに答えた。
「少なくとも……あなたに出会う前は……それはとても静かでした。」
コロティアはむしろそう言った。
【なんだかすごく甘い言い方だな。】
「じゃあ、ソノラはそれを聞きたいと思うだろうか?」
「彼女は……何か言ってた?」
コロティアが聞く。
「心音は旋律だって言ってたよ。」
コロティアは少し考えて、ゆっくり手話した。
「それなら……彼女にとって……心音は……彼女が一番好きな音楽なんだと思います。」
【そうか。どうして気づかなかったんだ。】
【たぶん、ソノラを倒した後の二週目に、この心音を……彼女に奏でてみることができるかもしれない。】
【……そのためには、まず彼女に勝たないとだけど。】




