第3章 人形の初陣
教会を出た途端、何匹かの晶砕獣に囲まれた。
二刀で終わる相手なのに、全然反応できねえ。
一匹は噛みつき、もう一匹は飛びかかる——
気づいたら教会の中に戻ってた。
【……これ、ちょっと気まずいな。】
「おかえり、リリィ。私のこと恋しくなった?」
篝火の前に戻った俺を見て、朔が優しく微笑む。
「あの晶砕獣にやられちゃって……」
「晶砕獣って怖いですからね。でも、勝てないなら逃げることを覚えないと♡」
【シエルにも俺と朔の会話が聞こえてるのか?】
そういえば、前にコーラも俺とシエルの話を聞こえてたっけ。
もう、なんで俺までセレスのあの鈍さに染まってるんだ。
勝てないなら逃げる。
でもこの短い足でどれだけ逃げられる?
出会ったら即死じゃねえか。逃げる余地なんてあるのか?
「黄金色に輝く炎の光に従ってください、リリィ。きっとあなたの助けになるものがありますから。」
「黄色い光か……わかった。」
【朔がヒントくれた。じゃあまずはそれを見つけて追いかけよう。】
篝火のそばで縫合剤を自分の体に吹きかけて、ほつれのデバフを消した。
縫合剤は無くならなかった。よし。
ほつれのデバフが何段階も重なると、たぶんセレスの傷と同じようなもんだ。
動きが遅くなって、最大HPが減る。めちゃくちゃ損だ。
ぬいぐるみの場合も同じだ。
血は流れなくても、綿が飛び散って動きにくくなり、防御力が永久に下がるかもしれない。
それも同じくらい損だ。
「また出発するんですね? 気をつけてくださいね。」
「うん、朔。すぐに戻ってくるよ。」
【今の俺じゃ、遅く戻ろうにも無理なんだけどな。】
もう一度教会を出る。
晶砕獣にまだ見つかってないうちに、教会の壁ぎわを擦りながら、ぬいぐるみの最高速で逃げた。
【疲れた……危険から離れるの、難しすぎるだろ。】
振り返る——え、これしか進んでないのか?
もう倒れるくらい疲れたってのに。
顔を上げると、二種類の違う色の炎の光に気づいた。
空中に浮かんでて、動いてるから、俺はいつも親しみを込めて「蛍」って呼んでる。
赤いのはメインクエストの案内。ずっと主人公に寄り添ってきた。
でも本来は、たまに方向を示すだけで消えるものだ。
けどな、制作陣がセレスに設定したのは「迷える旅人」。
わかりやすく言うと、大路痴だ。
だから昔、たまに出るメインの案内が消えると、セレスは道を探せなくなった。
俺が「メインはこっちだ」ってわかってても、セレスは「あっちじゃないの?」とか言って、そのまま動かなくなる。
笑っちゃうよな。
たぶん俺も、あの蛍がいなかったら同じだろう。
金色のほうは——テスト版じゃ見たことなかった。
どうやらサブクエか重要アイテムの案内っぽい?
とりあえず、そっちに従ってみよう。
少し歩いて、何匹かはぐれ晶砕獣を倒したら、HPがもうすぐ底をついた。
しかも、回復薬を買い忘れてた!
ぬいぐるみの回復薬がどんなものかも見たことないのに。
なんでこんなに間抜けなんだ?
このまま死んだら、また教会からやり直しかよ?!
幸い、すぐ近くに篝火が見えた。
【助かった助かった!】
「リリィ、お疲れさま。」
朔だ!
でもなんで教会の外にいるんだ?
「会いたかったから。愛の火であなたのところに転送できるんです。ほんの数分だけど、あなたに会えて、私、嬉しいです。」
【会いたかった……なんてこと言うんだよ……照れるじゃん。】
【え? ぬいぐるみでも赤くなるのか?! 目立つな! 目立つな!】
「この先にエリートモンスターがいます。気をつけてください。」
「これからの行動を楽にするために、あいつをひっくり返すことをおすすめします。」
「ひっくり返す?」
「そうすれば乗り物として捕まえられます。破晶嶺を移動しやすくなりますから。」
【乗り物? ぬいぐるみだからこその新システムか?】
【前にセレスを操作してたときはそんな便利なもんなかったぞ。】
【それとも……マップ全体が広がったのか?】
でも乗り物があるならそれに越したことはない。
この短い足じゃ、このマップはいつまで経っても終わらない。
急いで香灰を体に塗り込んだ。
【システム通知:強化抗性の香灰を使用しました。砕耐性が40%上昇しました。】
【40%? こんなに高いのか? よかった、ソウル貨を何に使うべきかわかったぞ。】
足元から振動が伝わってきた。
よし。エリートモンスターも待ちきれないようだ。




