第2章 人形の初授業
武器を手に入れたから、とりあえず教会で彷徨いてる幽霊どもを試し斬りしてみることにした。
水晶の大剣、思ったより手に馴染む。
反撃してこないザコを斬るのは、フルーツカットみたいなもんだ。
【なんてストレス発散ミニゲームなんだよ。】
何体か倒して、ようやく金持ちになれた——ソウル貨がゼロから百枚ちょっとに増えた。
大した額じゃないけど、ゼロよりはマシ。
ソウル貨。
この輪廻世界の共通通貨だ。
これから買い物、強化、アップグレード、全部これでやることになる。
でもこのゲーム、一番理不尽な仕様があるんだよな。
死んだとき、持ってたソウル貨が倒れた場所の近くに落ちるんだ。
制作陣いわく「ソウル貨はお前の魂の一部。死には代償が必要で、ソウル貨がその代償だ」と。
だから俺は画面の前で遊んでるときは、手に入れたらすぐ使うようにしてた。
転生してきた今ももちろん例外じゃない。
シエルのところで、強化用の香灰を二つと普通の布地を一枚買った。
今つけてる粗悪な布地より、これに替えたら防御力はかなり上がるだろ?
少なくとも教会の外に出てもすぐには死なないはず。
でもソウル貨が少なすぎて、まずは一番大事なところを強化するしかなかった。
首。
このゲームでは、ボスの処刑演出が一番好きな場所。
もちろんボス自身の急所もここだ。
【制作陣は首切断フェチなのか、それとも単純に斬首して血が吹き出す様が見たいだけなのか、ホント理解に苦しむ。】
でもこの新しい身体、いったいどうやって強化すりゃいいのか、さっぱりわかんねえ。
昔セレスを操作してたときは、魔薬を飲むだけで済んでたのに。
「ちびぬいぐるみちゃん、まだ何か買う? もう無銭みたいだけど♡」
「買わない買わない、ただこの布地をどう使えばいいのか考えてただけ。」
「守護者様に聞いてみたら? 彼女ならきっと知ってるわ♡」
「お前、売ってる側なのに使い方知らねえの?」
【しまった! うっかり口に出しちゃった!】
【なんで俺はこんなに不注意なんだ!】
「シエルを困らせないで、ちびっ子。」
シエルが怒ると思ったんだ——だってこのゲーム、正式版以降はNPCの知能がべらぼうに高いからな。
でも先に口を開いたのは、シエルの隣に立ってるコーラだった。
【あちゃー! 武器をアップグレードする分のソウル貨を残すの忘れた!】
【しかもこの武器の特性すら確認してない。いざ自分でやると、慌てちゃうもんだな。】
「ごめんシエル、そういう言い方するつもりじゃなかった。」
もちろん謝るべきとこは謝る。
これも制作陣の悪趣味だよな?
商人は自分の商品の使い方なんて知らなくていい。
売り買いするのが仕事なんだから。
「うーん、考えてみたら、あなたの言う通りかもね♡」
「もし私がこの商品の使い方を知ってたら、もっと値段を吊り上げられちゃうじゃない?」
「じゃあすぐにでも教会中の本を漁らないと♡」
【値段吊り上げる?! それどんな理屈だよ?】
【一回お節介なカラスになっただけでそんな罰を受けるのか?】
【うううう、次から絶対に余計なことは言うまい。】
でも気づいたんだ。
シエルがこのセリフを言ってるとき、隣のコーラがずっと彼女を見てたって。
俺は鈍いけど、空気は読める。
あの目つき——朔が俺を見るときと同じだった。
【「救出したら出現する」っていう設定が削除されたなら、あの場所は別の重要アイテムの湧き地点に変わったってことか?】
そう決めた。
少ししたら自分の強化を終わらせて、旧バージョンでコーラを助けてたエリートモンスターの場所に行ってみよう。
俺は朔の前に向かった。
彼女が祈ってる姿はいつだって綺麗で、邪魔したくない気持ちでいっぱいだった。
「用事? リリィ。」
彼女は祈りを終えて、こっちを向いた。
「うん、聞きたいことがあるんだけど。この普通の布地って、どうやって使うの?」
「どこを替えたいの?」
「首。」
「やってあげる。必要?」
「うん。」
【朔のとこで布地替えてもらえるのか。】
【そうか、縫ったりほどいたりするのはずっと朔の仕事だったもんな。】
【布地の交換も彼女の役割の一つだろ? なんで今まで気づかなかったんだ。】
朔は丁寧に俺を持ち上げて、首の粗悪な布地を替えてくれた。
その後すぐにシステムを開いてステータスを確認した。
メニュー画面には、アイテム、道具、装備、状態——全部ある。
でもセーブ、ロード、ゲーム終了だけはなかった。
【どうやら今回の転生で、マジで超ハードな人生……いや、ぬいぐるみ生をやることになったらしい。】
でも俺の特性は、元の主人公セレスのものを完全に引き継いでいた。
迷える旅人、選ばれし者、破局の者、不死の者、無痛の者……
たいした効果のない肩書きが並ぶのは、もういつものことだ。
【待てよ、なんでセレスのスキルまで俺にあるんだ!】
やっとわかった。
ぬいぐるみのまま大剣を持てる理由が。
【天賦の才】:お前は均衡を維持する「掃除屋」だ。輪廻世界は強きお前を必要としており、お前は全てを学べる。
【つまり、セレスが休眠中でも、俺は全部を覚えられるってことか。】
【なら話は簡単だ——ぬいぐるみの身体をカスタムキャラとして扱えばいい。】
【俺はやっぱり主人公補正の道を歩んでるってわけか。】
でも「掃除屋」になることが本当に唯一の結末なのか?
五年間、俺が何度も戦ってきたあのボスたち。
最後はみんな無念そうに、苦しそうに、一筋の【遺燼】になっていった。
装備や武器と交換できる以外は、ほんの少しのソウル貨だけが残る。
テスト版のせいかもしれないけど、あの子たちの【遺燼】には何のメッセージも表示されず、ただ「名無しの遺燼」としか書いてなかった。
あの子たちにはちゃんと名前があるのに。
だから、これがずっと一番心残りだった。
殺し合いが本当にこのゲームの最終目的地なのか?
【どうやら今回の転生は、俺自身に別の道を探せってことなのかもしれないな。】
【なんとなくそう思う。】
でもこのステータス……マジかよ?
HP350、MP75、スタミナ100——これデフォルトの最高難易度じゃねえか。
簡単モードだとHP500スタートだぞ。
攻撃力55。あんなに強力な大剣を装備してようやくこれ。
防御力はもっと悲惨で、あの普通の布地を足しても30にやっと届く。
しかも最初のマップが破晶嶺。
この水晶の大剣は完全に不利で、ザコと五分五分だ。
他のステータスは全部効果半減。
【こりゃ完全に終わった。】
【そろそろ旅立つ時期だとしても、ちょっと外に出るのが怖くなってきたな。】
俺は仕方なくため息をついた。
でも世界は待ってくれない。
セーブもロードも転生のバグで消えたかもしれない。
だからなおさら時間を無駄にできない。
今、この世界の安定を制御する力は、【砕】の力を持つフラグが握っている。
もし時間をただ過ごさせれば、世界はバラバラになり、ゲームは永久的な失敗を迎える。
「外に出るよ、朔。」
「自分が何をすべきか……思い出したの? リリィ。」
「そうだよ。準備ができてなくても、世界を救いに出かけないといけないだろ?」
「この世界を……砕け散らせるわけにはいかないからね。」
「気をつけて、リリィ。」
「私、いつでもここにいますから。危なくなったら、絶対に戻ってきてくださいね。」
朔はそう言いながら、手を俺の胸の上に置いた。
【いきなりボディタッチ!】
【ぬいぐるみの身体に心臓の鼓動がないことを願う!】
【こんなに早く自分の気持ちをバラしたくないんだ!】
「愛の炎は永遠に燃えています。」
「あの舞い散る炎の光に従ってください。それがあなたの進む道を示してくれますから。」
「わかった。ありがとう、朔。」
そして朔は迷わず近づいて、俺の額にキスをした。
眉の弧まではっきり見える距離だった。
【システム通知:守護者の祝福を受けました。スタミナ回復速度+20%。】
【この祝福ってこんな風に発動するのかよ?】
【わわわわ——もう、一生顔洗えねえ!】
【あああ、誇りを持ったプレイヤーならちゃんとしろよな!】
【よし、メインクエストもそろそろ進めるか。】




