第12章 浮遊体
堡塁の入り口に立った。
鉄の扉は半開きで、誰かの凱旋を待っているかのようだった。でも蝶番は錆び付いていて、全然動かない。少しずつ体を押し込むしかなかった。痛くはないけど、綿が体中でぐちゃぐちゃに動いて、なかなか気持ち悪い。
中は外よりずっと暗かった。空気には橋の上よりも濃い鉄錆の匂いが満ちていて、それに何とも言えない別の匂いが混ざっていた——ずっと湿っていたのがすっかり乾いたような。嫌な匂いじゃないけど、ちょっと落ち着かない。
もっと怖いものが待ってるかと思った。でも歩いていくと、俺の移動に合わせてぼんやりと灯る松明だけで、守兵も死体もなかった。ただ行き止まりの扉の向こうだけが、かすかに光っていた。
あれは何だ?
近づいて覗いてみると、どうやら士官の居室らしい。扉を力いっぱい押し開けた。
床には雑多な物が散らばり、隅には何個か箱が積まれていた。漁ってみる——空っぽだった。
【箱モンスターじゃなくてよかった……なるもんじゃない。】
「あいたっ!」
ほっとした拍子に、後頭部を何かで叩かれた。体勢を崩して箱の中にひっくり返り、蓋まで閉まってしまった。
【なんだよ?!】
「打!」
自分の頭の上に向かって叫んだ。
箱の蓋が吹き飛んだ。何かが蓋から落ちてきた。
「ぷぎっ!」
【浮遊体? しかも当たり判定まであるのか?】
結構な音を立てて落ちたのに、すぐに跳ね起きた。襲いかかってくるかと思った。
ところがそいつは逆に遠くへふわふわと離れて、机の下に隠れた。
【前のバージョンじゃ見たことないぞ……】
「あの……人の話、わかる?」
あ、俺も人じゃないか。
「……」
自分の頭を叩いた。浮遊体が喋れるわけない。
「傷つけたりしないから。もう箱に閉じ込めないでくれ。」
そう言いながら近づいた。
手が触れそうになった瞬間——ツンと鼻を刺す、あの馴染みのある錆びた匂いがどっと押し寄せた。手の甲に赤い錆びが浮かんだ。布地にどうして錆びるんだ?
慌てて手を引っ込めた。
その動作に浮遊体が驚いた。急に飛び上がり、もともと腐っていた木の机を倒した。
机の上から一通の手紙が舞い落ちた。
拾おうとしたら、また飛んできて遮られた。
「見たいだけだ。悪意はない。」
そいつは微動だにしない。どっちから回っても、遮られる。
【この手紙、唯一明かりのついてる部屋にあったんだ。絶対重要アイテムだ。】
その時、青い蛍が入り口からふわっと入ってきて、手紙の上に止まった。
【青い蛍? ずっと追ってなかったけど……そういえば教会を出たときの方向はこっちだった。たぶん護馬甲の暴走に間に合わなかっただけか。】
やっぱり、この手紙は重要だった。
特殊アイテムなら、蹄鉄で気をそらしてみるか?
「へへ、これ見て。」
バッグから蹄鉄を取り出した。浮遊体は案の定そっちに気を取られた。
俺は転がって、手紙を掴んだ。
急いで振り返る——怒られたら嫌だから。ところが浮遊体は逆に静かになった。
【……俺のこと、わかってるのか?】
手紙を開ける。
今回も記憶の映像はなかった。文字はかすれて一部しか読めない。紙には血痕が残っていた——書いた人が最後の瞬間に残したものだろう。
「橋はもう持ちこたえられません。後方へお伝えください……」
「第四軍団、約束通り最後の瞬間まで守り抜きました……」
「……救出は不要です。」
最後の一文はとても強く書かれていた。刀で刻みつけたかのように——
「ただし彼女に伝えてほしい。俺は恥をかかなかったと。」
【後ろには何て書いてある? 本当に読めない。宛名の名前までもが滲んでる……】
【でもこの手紙は特殊アイテムで、コロティアのマップに出てきた。きっと彼女に関係してるはずだ。】
【「彼女に伝えてほしい、恥をかかなかったと」——その「彼女」ってまさか? 何だかただならぬ関係っぽいな。】
【……なんで俺がそんなこと気にするんだ。】
手紙を閉じて、浮遊体を見る。そいつはまだそこにいた。
【そうだ、教会に戻らないと。手持ちのソウル貨ならあの服が買える!】
立ち去ろうとしたら、浮遊体がついてきた。俺が一歩進むと、一歩浮く。振り返ると、止まる。
「ついてきてどうした? 手紙がほしいのか? まだ渡せないよ。」
「……」
まあいい。ついてくるならついてこい。もしかしたらこのマップの新しい乗り物かもしれない。
「速く浮けるだろ? 教会まで送ってくれないか?」
浮遊体は理解したように、黙って俺の下に潜り込み、輪になった。
空中を浮いて移動するのは確かに烁殻虫よりずっと速い——この輪、見れば見るほど浮き輪をはめてるみたいだ。
こんなに早く新しい乗り物ができるなんて……烁殻虫に悪いな。
でも……なんでシステムから乗り物の通知がずっと出ないんだ?
【まさか……いや、とりあえず戻ってからだ。】
浮き輪に乗って、黙り込んだ堡塁を振り返った。
【手紙の文字は滲んでて、守橋将軍と第四軍団のことしか書いてなかった。コロティア本人については、彼女のマップだってこと以外、何の手がかりもない。】
【どうやら真実はここにはないらしい。】
まあいい、戻って朔に聞いてみよう。
浮き輪が速度を上げて、教会の方へ漂っていった。




