第7章 蹄鉄
「リリィ……リリィ、どうしたの? 早く起きて……」
朔の声? どうしてここで朔の声が聞こえるんだ?
ばっと目を開ける——教会の天井だ。
いつ戻ってきたんだ? 体の下は冷たい石の床で、隣では篝火がパチパチと燃えている。
よかった、シエルの売り場は明るくなってる——彼女は戻ってきていた。
「俺……どうやって……戻ってきたんだ?」
「やっと起きたね。」朔がしゃがみ込んで、眉をひそめる。「どうしてあなたは気絶した状態で転送されてきたの?」
「よくわからない……篝火にも触れてないし。ただ人影を見ただけで、それで……」
「人影? それが誰だか見えたの?」
「いや。」
シエルが横から歩いてきて、まだ開けてない包みを握りしめている。
「それって、あなたが言ってた『大師』なんじゃないの♡」
「たぶん違う……でも確かじゃない。あの人は元々そういう神出鬼没な人だから。」
朔が手を差し出す。手のひらには錆びた塊が乗っている。
「あなたが戻ってきたとき、すごく錆びた匂いがしたの。うつ伏せで倒れていて、私がひっくり返したら、これが下に挟まってたのよ。」
蹄鉄だ。錆びて元の形がほとんどわからない。
「これは……」
「ごめんなさい、勝手に炎で感知してみたの。前の欠片たちみたいに、特別な役割があるみたい。」
「そんなの謝ることないよ。教会の中のよくわからないものに対して警戒するのは当然だ。」
手を伸ばして受け取ろうとする——動かない。朔がそれを地面に置いてくれた。
手を乗せる。
記憶が流れ込んでくる——
まず、蹄鉄を打つ音。リズムは安定していて、手つきは正確だ。打っている人はきっととても慣れている。馬が痛がって鼻を鳴らす音さえも聞こえない。
次に、一つの映像。どこからともなくスポットライトが当たっていて、誰かが馬のたてがみを撫でている。顔は馬の頭に隠れて、男か女かもわからない。
その人は撫でながら、馬の首をポンポンと叩いた。
それから光が消えた。
闇の中から馬の嘶き、蹄を蹴り上げる風の音、そして骨の砕ける鈍い音が聞こえてきた。
記憶が途切れた。
「そうだよ、朔。これは確かにコロティア様に関係してる。」
【でもこの蹄鉄、出どころがおかしすぎる。あの場所には青い蛍の案内なんて全然なかったのに……】
「うん、もうそうやって彼女たちを呼ぶのに慣れたみたいね。」
【俺は「様」をつけるのはよそよそしい気がするけどな。俺にとっては、もうみんな好きなんだ。】
【好き度のランクがあれば、みんなこの枠に入る。ただ一番好きなのは……】
【ああ、また変な方向に考えがそれた。】
シエルが横を何度も往復して、何度も俺を見て、やっとの思いで近づいてきた。
「ほい、あげる。」
縫合剤を俺の胸に押し込んだ。
「気絶して帰ってくるなんて、びっくりしたよ……死んだかと思ったよ♡」
【こいつ、心配してくれてるのか?】
「大丈夫だ。」
「大丈夫ならいいけどね。」シエルはぶつぶつ言いながら立ち上がり、スカートをパンパンと叩いた。「もし本当に死んだら、あたしの商品、誰に売るんだよ。」
口ではそう言ってるけど、目は結構真剣だった。
俺は彼女を見た。
【あの誤解のせいで、いつの間にかこんなに仲良くなってるなんてな……】
シエルは見つめられて落ち着かなくなり、振り返って売り場へ歩いていった。
「何見てるんだよ、使えばいいだろ。次からはお金もらうからね♡」
二歩歩いて、急に立ち止まり、首をかしげた。
「そうそう、ありがとね、ちびぬいぐるみちゃん♡」
そして振り返らずに歩いていった。
コーラが鉄を打つ音はずっと止んでなかった。でもさっき、こっちを一目見た。たった一目だけ。
俺は朔に向き直った。
「もう少し聞きたいことがある。」
「どうぞ。」
「瀕死になった烁殻虫を保護して戻したんだろ? あいつが今どうなってるか見せてくれないか?」
朔は少し間を置いた。
「烁殻虫? 私こそ聞きたいのだけど、あなた、あれを外に置き忘れてきたんじゃないの?」
「朔が連れ戻したんじゃないのか?」
「ごめんなさい、私じゃないの。」
【朔じゃない? じゃあ誰だ? あいつは明らかに炎の塊に連れ去られたんだぞ……】
ちょっと待て……烁殻虫を連れ去った炎は何色だった?
頭の中に一つの映像が浮かぶ——
青。
朔のあの金赤色じゃない。遺燼祭壇の中の蛍と同じような……青。
「……もしかして、フラグか?」
思わず口に出してしまった。でも違う気がする。
フラグはもう遺燼祭壇の中にいるんじゃないか? どうしてあそこに現れるんだ?
朔は何も答えなかった。ただ俯いて、その蹄鉄をひっくり返した。
「……ひとまず、しまっておきなさい。」
口調はとても静かだった。
でも俺にはわかった。彼女は何か知っている。言わなかっただけで。




