第3章 ココアとリボン
俺が考えついた唯一の方法は腐蝕術だった。この腰袋に金属部品があるかどうかはわからないけど、袋の中で刺剣を抜くわけにもいかない——そんなバカなことはできない。運を天に任せて、錆気を外に漏らすしかない。
息を深く吸い込み、腰袋の隙間に向かって錆気を吐き出した。
……密閉空間だってことを忘れてた。錆気が直接顔に吹きかかり、目がしみて痛くて、思わず袋の中で暴れてしまった。
「なんだこれ?」
男が異変に気づき、腰袋を開けて中を覗く。錆気は開いた口から外へ漂い出し、縁の金属留め具は錆びてすぐに緩み、腰袋は留め具ごと地面に落ちた。
金属がぶつかる音が聞こえ、俺はすぐに死んだふりをした。腰袋が落ちた時に背中に当たって痛かったが、なんとかこらえた。
「どうしたんだよ? 物が落ちたぞ?」
「なんでこんな臭いが袋から出てくるんだ……最悪だ。」
「虫にでも食われたんじゃないか? ちゃんと取り替えろよ。」
「今朝出る時は大丈夫だったのに……まあいいや、人形が無事でよかった。」
男はようやく俺を腰袋から取り出した。しかしすぐに置くわけではなく、何度も裏返して見つめ、眉をひそめた。
「この人形、前からこんなに大きかったか? それにこの耳や顔の作り、細かすぎるだろ……金貨何枚かで買える代物じゃない。」
「それなら良いじゃないか。それだけ贈り物に気を遣ったってことだ。」 相棒が気軽に答えた。「それに目の錯覚だろ。何を飲んでるか考えてみろよ。」
「まあな。」
そう言ってようやく俺をテーブルの上に置いた。でも平らに寝かされると視界が低すぎて、木の天井と梁しか見えず、何もわからない。
【……これじゃあ、出てきた意味がない。】
「おじさん、それ新しく買った人形?」
横から少女の声がした。彼女が走って近づいてくる足音が聞こえる。
「おっ、母さんについて店に来たのか? そうだよ、妹のために買ったんだ。」 猟師の口調はさっきよりずっと軽やかだった。
「ちょっと遊ばせてくれてもいい?」
「もちろん。妹も気にしないさ。でも汚したり壊したりしちゃダメだぞ。」
「絶対にしません! ありがとうおじさん!」
【運がいい……ちょうど子供がいてくれた。】
「酒場から出るんじゃないよ、ココア。」
「わかった、ママ。」
少女は俺を抱き上げ、顔を俺の頭にこすりつけ、それからもう一度近づけた。
「すごく気持ちいいね、ふわふわだ——」 彼女は一瞬間を置いた。「あれ、心臓の音がする……生きてるの?」
俺は固まった。心音——ソノラの世界で手に入れてからずっと隠せなくなっている。この細かい部分を警戒するのを完全に忘れていた。
【……しまった。どうやって止めたらいいんだ。】
死んだふりを続ける。子供は想像力が豊かだ。動かずに反応しなければ、自分で納得してくれるはずだ。
「答えない……じゃあ動けるはずだよね? 心臓の音が動くための装置なんだよね?」
彼女は俺の腕や足を上げたり、耳を引っ張ったりし始めた。
【沈黙を守れ、死んだふりを続けろ……見つかってはいけない!】
「聞き間違いだったのかな?」
自分自身を疑い始めたようだった。しかし彼女はもう一度耳を俺の胸に当てて、しばらく聞いた。
「やっぱり心臓の音がする!」 彼女の声が少し低くなり、秘密を共有するように。「教えてよ、何か任務をやってるんでしょ? だから身分を隠さないといけないってわけ?」
……完全に見抜かれた。やっぱり子供の直感は時として何よりも鋭い。
「……わかったよ。」 声を潜める。「そうだ、確かに秘密の任務を遂行中で、他人に知られちゃいけないんだ。秘密にしてくれるか?」
「わあ——喋った!」 彼女の目が輝いたが、すぐに口を押さえた。「しーっ! 絶対に誰にも言わない!」
【ここは乗るしかない。もしかしたらこの子が現れたのも、メインストーリーの一部なのかもしれない。】
「よかった、ココア。いくつか質問があるんだけど、知ってることを教えてくれるか?」
「うんうん!」
「すごく綺麗で、すごく美味しい水って知ってるか?」
「知ってる!」 彼女は大きくうなずいた。「ママが作る強いお酒だよ——青赤く光るお酒。」
「本当か?」
「でも今はそのお酒は作れないんだ。」
「なぜだ?」
「だって怪物がそこにいるから。」 彼女の声が急に低くなった。「パパが言ってたよ、言うことを聞かない子供を連れ去るんだって……本当に怖い。」
【……お決まりのパターンだ。大人が子供を脅すのに使うやつで、子供は真に受けてしまう。】
「その怪物がどこに住んでるか知ってるか?」
「王都に住んでるよ。」
「王都? そこは支配者が住んでる場所じゃないのか?」
「そうだよ、だから怖いんだ。たくさんの人が守ってくれてるし、食べ物も着る物もたくさんもらってる。」 彼女は真剣に言った。「まるでみんなを自分のように変えてしまう力を持ってるみたいなんだ。」
俺は一瞬固まった。
【……これって皇室のことじゃないか? まさか「怪物」って国王のこと? それとも国王が守っている何か? あの水は一体何が特別で、そんなに厳重に守られているんだ?】
「道はわかるか?」
「うん、酒場の裏道をまっすぐ行けば着くよ。」
「遠いか?」
「遠くないよ。でも君にとってはちょっと遠いかも。」
「連れて行ってくれるか?」
「いいよ、でもこっそり行かないと。」
「ちょっと待ってくれ、戦闘態勢に切り替える。」 小声で言う。「すぐに終わる。」
バッグから布偶を取り出し、リボンとスカートを返した。あんなに可愛らしい格好をしていたのは久しぶりだったけど、あの格好で動くのはどうも変な感じがした。
法衣に着替え直し、ココアに抱えられて酒場の裏口の隙間から外へ出た。
彼女が「遠くない」と言ったので、それほど期待していなかったが、この道のりは意外なほど短かった——酒場は王都の外れの山の中腹に建っていて、少し下るだけで着いてしまった。
「確かに近いな。」
「そうでしょ!」 ココアの口調には羨望が混じっていた。「でもママは絶対に行かせてくれないんだ。夜だってすごく輝いて見えるのに、灯りが明るくて、音楽も聞こえてくるのに——怪物がいる場所には見えないのにね。」
「お母さんは君を守りたいだけかもしれない。」 言う。「道案内してくれてありがとう、ココア。ぬいぐるみたちも感謝してるよ。」
「どういたしまして。」 彼女はうつむいて、自分の髪留めからリボンを外し、差し出した。「話せるし、飛べるぬいぐるみでしょ? これ、もらってくれる?」
【飛べることまで見抜いてるのか——この子は直感型の化け物か?】
「これは何だ?」
「私のリボン。」 彼女は瞬きをした。「君にすごく似合うと思うんだ……外さないでくれる?」
受け取って、法衣の襟元に結んだ。
「ああ。ありがとう、贈り物。」
彼女は嬉しそうに笑った。俺も笑い返してから、翼を広げて王都の方へ飛び立った。
金色の蛍がいつの間にか横に並んで飛んでいて、まるで道案内をするかのようだった。
脚下の灯りに包まれた王都がどんどん近づいてくる。
あの水は、きっとそこにあるはずだ。そしてあの「怪物」も——それが何であれ、会うことになるだろう。
まさかこの世界で、誰かが積極的に助けてくれるなんて——NPCの善意を感じたのは初めてだった。




