【第32話】動画の投稿
浦田さんと佐伯さんの対談は一時間以上にわたった。二人とも『いつの日か青かったねと思い出す』について話は尽きず、予定していた時間もオーバーしていたくらいだ。おかげでパンフレットに載せる内容も、十分すぎるほど得られた。
対談が終わると、二人は充実した表情を覗かせていて、対談にある程度満足している様子が私にも伝わってきた。
「浦田さん、佐伯さん。改めて今日はありがとうございました」
谷地さんや金森さんにもお礼を言ってから、私は浦田さんたちに再度声をかけていた。二人の表情もすっきりしていて、「こちらこそ、今日はありがとうございます」と言われると、私も胸が温かくなる。
「いかがでしたか? 今日の対談のほどは」
「はい。映画の撮影が終わってからも、私たちは何回か会っているんですけど、でも改めてこうした機会を設けていただけると、より映画についての深い話ができて。とても楽しかったです」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、私としても今回の対談を企画した甲斐があったと思います。佐伯さんはいかがでしたか?」
「私も今日は楽しかったです。こうして浦田さんと話していると、大変だったけど充実してた撮影が思い返されるようで。喋りながら少ししみじみとしてしまいました。映画の公開はまだこれからなんですけど」
「そうですね。私も撮影を思い出して懐かしんでいるお二人の姿は、好ましく見えました。とても充実した撮影だったことは、お二人の口調や表情からも感じられましたから」
「はい。真鍋さん、パンフレットの完成楽しみにしてますね。私たちの対談も含め、どんな感じになってるのか期待してますから」
「はい。私たちも力を尽くして、浦田さんたちの期待に応えられるような、買っていただいた方にも楽しんでもらえるような、パンフレットを作り上げます。だから、もうしばらく待っていてくださいね。対談記事の草稿は、お二人にもメール等でお送りしますから」
浦田さんたちは澄ました顔で頷いていて、私はより背筋が伸びる思いがした。國武さんのインタビューもはじめとして、徐々に良い内容は揃ってきている。
それを生かすも殺すも、編集する私たち次第だ。そう思うと、私の気はぐっと引き締まった。
「それで、真鍋さん。こんなこと訊くのは失礼かもしれないんですけど……」
浦田さんが口にした、話題を変えようという兆候に、私は「何でしょうか?」と相槌を打つ。浦田さんはおそるおそるといったように尋ねた。
「この映画の宣伝って、本当に大丈夫なんですか……?」
その疑問に、私は首元を掴まれるような感覚がした。佐伯さんも同じように、心配するような目を私に向けている。
主演である二人にこんな心配をさせているなんて、私は自分の仕事を果たせていないのではないか、SNS担当失格ではないかという思いが首をもたげる。
自分の後片付けを終えた谷地さんや金森さんが、「お先に失礼します」と言って会議室を去っていくと、室内には私たち三人だけが残される。
私は動揺してしまって、すぐに二人を安心させるような返事はできていなかった。
「いえ、本当に失礼なことを言ってるのは分かってます。真鍋さんたちのことも、もちろん信じてないわけじゃありません。でも、エックスとかインスタとかYoutubeは私も見てますけど、フォロワーはなかなか増えてないじゃないですか。だから大丈夫なのかなとは、正直なところ思ってしまうんです」
「い、いえ、大丈夫ですよ。これから映画の公開が近づいてくるにつれて、徐々にコンテンツなどは増やしていくつもりですし、そうすればフォロワーも少しずつですが増えてくれると思います」
「それは、例えばどんな内容のものですか?」
「そうですね。例えば映画の予告編だったり、佐伯さんたちのインタビューだったりですかね」
「そうですか」
そう相槌を打った佐伯さんは、まだ完全には腑に落ちてはいないようだった。どうにか納得するように自分に言い聞かせているようにも感じられる。浦田さんも同様の様子で、私には申し訳ない。
それくらいのことは、どの映画でもやっている。特にこれからテレビや雑誌、ネットメディア等に多数露出するであろう『世界が変わる朝に』のことを考えると、それで太刀打ちできるのかは、私にはとても心許なかった。
「あの、真鍋さん。私たちにももっと何かできることはありますか?」
浦田さんにそう言わせてしまっていることが、私には輪をかけて申し訳ない。
それでも、今の私は藁にも縋りたい思いだった。もっと『いつの日か青かったねと思い出す』の認知度を上げるにはどうしたらいいのか、一人で考えていてはなかなか思いつきそうになかった。
「そうですね……。逆に浦田さんたちは、どんなことならしてくれますか?」
「どんなこととは、どういう意味ですか?」
「あの、お恥ずかしい話なんですが、私は今の一〇代の方々が何に関心を持って、何を見ているのかが分からないんです。私も数年前までは一〇代だったんですけど、トレンドの移り変わりも激しい今では、その時とは様相もまた異なるじゃないですか。この映画は今渦中にいる一〇代の方にこそ観ていただきたいのに、どうやったら知ってもらえるのか、今もまだ模索している最中なんです。だから、恥を忍んで浦田さんたちにもお話を訊きたいなと思いまして」
そう言いながら、私は「お願いします」と頭さえ下げたい気分だった。今まさに一〇代である二人の話を聞けば、何か参考になるかもしれないと。
もちろん私だって宣伝担当、SNS担当としてのプライドがないわけではない。でも余計なプライドは、今は邪魔になるだけだった。
「そうですね……。もちろん、私たちの意見が一〇代代表ってわけではないですし、単なる一個人としての意見でもいいですか?」
「はい、ぜひお願いします」
「あの、あくまで私はなんですけど、暇な時間は動画を見て過ごすことが多いですね。好きなYoutuberの新しい動画を見たりとかは、よくしてます」
「私もゲームが好きなので、ゲーム実況とかの動画を見ることは結構ありますね。友達も隙間時間に動画を見てる人は、わりと多いみたいですし」
二人の意見に、私は腑に落ちる思いがした。私が一〇代だった頃も動画はトレンドだったけれど、それが今も続いているとは。
「そうですか。やはり動画ですか。となると、Youtubeの他にTikTokとかもやった方が良いんですかね?」
「いえ、ぶっちゃけ今の子って、あまりTikTok見てないと思いますよ」
「そうなんですか?」
「はい、私も一時期TikTokをやってたことはありましたけど、飽きてやめちゃいましたから。それに今ここでTikTokを始めたら、それこそ若者に媚びてる感じしませんか?」
「そうですかね。映画を観てもらうためにはやれることは、何でもやっておいた方がいいように思えますが」
「あの、また失礼なこと訊きますけど、真鍋さんたちもお忙しいんですよね? ただでさえエックスやインスタを頻繁に更新して、いいね! やエゴサもしまくってるんですよね? その上でTikTokにまで手を広げる余裕ってあるんですか?」
「それは……」私は答えに詰まってしまう。佐伯さんが言ったことは紛れもない事実だった。
私たちはみんながみんな映画を観てもらうために、それぞれの仕事に忙しい。私だってSNSの更新の他に、劇場営業や各メディアとのやり取りなど受け持っている仕事はいくつもある。そんな中で、さらに仕事を増やすのは佐伯さんの言う通り、現実的ではない気がした。
「私たちも詳しくは知りませんけど、真鍋さんたちが凄く忙しくしていることは、少しですけど想像できますから。今は新しいSNSに手を出すよりも、今やっているSNSに集中すべきですよ」
「確かにそうですね。実はSNS担当も現状では私一人なので。だとしたら、やはりYoutubeに定期的に動画を投稿して、映画に関心を持ってもらうのがいいんでしょうか」
「そうですよ。今epoch makingのチャンネルに投稿されてるのって、『いつの日か青かったねと思い出す』の特報だけですよね? いずれ予告編も投稿されるんでしょうけど、正直それだけじゃ少し味気ないですよ」
「それは私も思いますけど、でも映画や配給会社の公式チャンネルで挙げられる動画って限られてきませんか? インタビュー動画くらいしか、お恥ずかしい話ですが私には思いつかないんですが」
「そうですね。もちろん、それもアリなんですけど、でもどうせなら、もっとコンテンツを増やした方がいいと思います」
「それは、例えばどのようなものですか?」そう訊きながら、私は恥ずかしさを抑えきれなかった。これではまるで二人に解決策を丸投げしているみたいだ。
「そうですね……。やっぱり映画の公式チャンネルなんですから、映画に関連したものがいいと思うんです。私たちキャストやスタッフが好きな映画について語ったりですとか、その週に公開された新作映画のレビューをしたりですとか、そういった動画を投稿してみるのはいかがでしょうか?」
浦田さんの提案は、私にも有用な選択肢として感じられた。他の映画を取り扱うなら、配給会社等に許可を取らなければならないだろうし、場合によっては公開中のライバル映画に塩を送ることになる。実現するに当たって越えなければならないハードルはいくつかあったが、でもせっかくの浦田さんの提案を無下にすることは、私にはできなかった。
「確かにそれはあり得るかもしれませんね」
「そうですよ、真鍋さん。もし人手が足りないっていうなら、私たちが自分で撮影して編集しますから。真鍋さんたちはチェックするだけでいいようにします」
「それはありがたいんですけど、佐伯さんたちは動画の編集はできるんですか……?」
「いえ、やったことはないですけど、それでもやるとなったら勉強します。きっと簡単ではないでしょうけど、國武さんにも教われば何とかはなるかなと」
「いえいえ、そんな浦田さんたちの手を煩わせるなんて、申し訳ないですよ。ただでさえ、映画出演という大変な重責を担ってくれたんですから」
「いえ、真鍋さん。私たちにも協力させてください。私たちだって『いつの日か青かったねと思い出す』を、多くの人に観てほしい思いは一緒ですから。それにあまり嬉しいことではないんですけど、時間ならありますから。そこは真鍋さんが心配しなくても大丈夫ですよ」
佐伯さんたちの申し出はありがたかったが、それでも私は「では、お願いします」とは即答できなかった。二人に動画投稿を手伝ってもらうのは、やはり気が引ける。
それでも、二人の思いを無駄にしたくないとも思う。だから、私は「そうですね。私たちの方でも検討させていただきます」と返事をいったん保留にした。このことは出水さんにも相談する必要があるだろう。
それでも、「はい、よろしくお願いします」と言った浦田さんたちは目を爛々とさせていて、負担に思っている様子は少しも見られない。その様子に、私は二人の思いに応えたいという気持ちをより強くしていた。
(続く)




