【第27話】同窓会みたい
「あの、epoch makingの皆さん、改めて今日はありがとうございました。こうして初号試写の機会を設けていただけて、『いつの日か青かったねと思い出す』は本当に映画館で公開されるんだなって、実感がより湧きました」
國武さんの顔は一番知っているからか、私に向いていた。だから、代表して答えるのも、自然と私の役目になる。
「そう言っていただけると、私たちとしても今回の初号試写を企画した甲斐があります。それで、どうでしたか? 國武さん。反応のほどは」
「はい。これだけ多くの人と一緒に『いつの日か青かったねと思い出す』を観るのも、私たちには初めてだったので、何十回と観たはずなのにとても新鮮に感じられました。上映が終わった後のスクリーンの雰囲気も、単に映画を一本観終えた以上の充実感が私には感じられましたし、実際に何人もの方が私たちのもとへとやってきてくれて、『良かったです』『面白かったです』という声をかけてくれました。もちろん、そうじゃない方もいたかもしれないんですけど、でも私は今回の初号試写は成功したと感じています」
丁寧に答えてくれた國武さんに、私は胸が熱くなるようだった。確かに上映が終わった後のスクリーンに、うっすらとだが満足感が漂っていたことは、出口にいた私でも感じていた。きっと國武さんたちが抱いた感慨は、ひとしおだったのだろう。
わざわざ夜中にでも新宿武蔵野館を借りて初号試写をした成果はあったと、私にはより強く思える。
「ありがとうございます。國武さんたちがそう感じてくださったのなら、私たちもそれが一番だと思います」
私がそう返すと國武さんも微笑んでいて、私は暖かな気持ちになる。出水さんたちも同じ思いであることが、何も言われなくても雰囲気で伝わってくるようだ。ロビーは清々しい空気で含まれる。
そんな中で流れに乗るようにして口を開いたのは、浦田さんだった。
「epoch makingの皆さん、今日は本当にありがとうございました。皆さんが『いつの日か青かったねと思い出す』を見つけてくださって、配給を決めてくださったこと、私もすごく嬉しく感じています」
「いえいえ、『ありがとうございます』はこちらのセリフですよ。それでいかがでしたか? 浦田さん、今日の初号試写は」
「そうですね。あくまで私にはですけど、とても楽しく感じられました。私も今まで映画に出たことはあるんですけど、クラスメイトAとかそういう端役ばかりで。ここまで自分が多く映っている映画は、この作品が初めてだったんです。最初はスクリーンに映る自分の姿が、少し恥ずかしくも感じられたんですけど、それも映画が進むにつれて慣れていって。最後にはスクリーンでこの映画を観たのが初めてということもあって、自分が出ている映画とは思えないほど感動しました。それが関係者の方ばかりとはいえ、他の人と一緒に観ていることにも感慨深く思えて。試写でしたけど、やっぱり映画館で映画を観るのは良いなって、改めて感じました」
浦田さんはどこか興奮気味に語っていて、映画を観終えた後の感慨が今でも続いているようだった。
自分が出演している映画を映画館で観るという体験は、私には想像できないものだけれど、それでも浦田さんが楽しんでくれたようなら何よりだろう。
「そうですか。それはよかったです。浦田さんにも喜んでいただけたのなら、余計に今回の初号試写を企画した甲斐があったと思います」
「はい。私も映画館で観て、改めて素晴らしい映画だと感じられましたし、この映画が一人でも多くの人に観てもらえることを願っています。そのために私も、私にできることなら何でもやるつもりです」
「ええ。またお声がけさせていただくときもあると思いますので、そのときはどうかよろしくお願いします」
「はい!」と歯切れよく頷いた浦田さんに、私も胸がすくようだった。取材等でまた連絡しても、前向きに応じてくれそうだ。
もちろん映画を多くの人に届けるのは私たちの仕事だから、少しプレッシャーをかけられたような思いは私にもある。それでもその言葉だけで、私は明日からの仕事も精力的に取り組めそうだった。
「私も今日は楽しかったです」私たちと浦田さんの話が終わったタイミングでそう言ってきたのは、もう一人の主演俳優である佐伯さんだった。その表情には、初号試写を無事に終えられた安堵が滲んでいるように、私には見える。
「ありがとうございます、佐伯さん。今日お越しくださったこと、私たちもとても嬉しく感じています」
「いえいえ、自分が主役級の役で出演した映画なんですから、当然ですよ。でも、私今日の初号試写が始まるまで、結構ドキドキしてたんです。私たちの映画は今日来てくれた方々にどう思われるだろうか、気に入ってもらえるだろうかって、気が気でなかったんです」
そう言った佐伯さんの気持ちが、私には分かる気がした。私も今日を迎えるまで、そして迎えてからも作品の反応に気を揉んでいた部分は確かにあったからだ。配給をする立場の私でさえそうだったのだから、佐伯さんが抱いていた緊張はどれほどだっただろう。きっと、心臓は早鐘を打って仕方なかったはずだ。
「そうですか。でも、『楽しかった』と言うからには、今日来てくれた方々からの反応は、悪くなかったんですよね?」
「はい。観ている最中も、今日来てくれた方々がスクリーンに意識を集中させていることは感じられましたし、実際映画が終わった後も國武さんが言ったように、何人かの人が私たちに肯定的な感想を伝えてきてくれて。今日やって来て良かったと思いました」
「そうですか。佐伯さんにもそう感じていただけて、私たちも安心する思いです」
「はい。でも、良かったことはそれだけじゃなくて。今日の初号試写には、映画のスタッフやキャストの方も何人か来てくれていたんです。撮影の大芝さんや、録音の松下さん。助監督の沢本さんや、先生役の皆川さんもいて、映画が終わった後のスクリーンは、さながらささやかな同窓会みたいでした。もうなかなか会えないかもしれないと思っていた方々に会えて、撮影のときの話も盛り上がって。それが私には、映画を観るのと同じくらい楽しかったです」
佐伯さんはしみじみするように言っていて、聞いている私にも感慨深さがある。
撮影現場は一期一会で、いくら一緒に映画を撮っていたとしても、撮影が終われば自動的に解散。全員が次の現場や仕事に向かっていってしまう。思い出に残る時間を共に過ごした間柄でも、もう二度と会わないことも少なくない。
だから、今回こうして初号試写として、スタッフやキャストがたとえ一部でも再び集まれる機会を作られたことが、私には誇らしく思える。佐伯さんたちの満足した表情を見ていると、朝から続いている仕事の疲れも吹き飛んでいくようだ。
「それはよかったです。私たちとしても佐伯さんにそう思っていただけて、今日の初号試写が実り多いものになった実感があります」
「はい。本当に今日はありがとうございました。あの、皆さんこれから大変だと思いますけど、頑張ってくださいね。応援してます。私もこの映画を観てもらうためなら、進んで皆さんに協力したいと思っているので、どうかこれからもよろしくお願いします」
「はい。私たちの方こそよろしくお願いします」
私たちは、柔らかな表情を交換し合う。ロビーに流れている空気も清々しく、それだけで私には明日からの仕事もまた頑張れるエネルギーが充填されていくようだ。
「じゃあ、皆さん。そろそろ行きましょうか」と、長谷川さんが頃合いを見計らって國武さんたちに声をかける。國武さんたちも頷き、「では、皆さん。今日は本当にありがとうございました。改めてですが、これからもよろしくお願いします」と、國武さんが四人を代表して言う。
私たちも「はい、よろしくお願いします」と答えた出水さんに続くように首を縦に振ると、その表情を見届けてから、國武さんたちはロビーを後にしていった。
國武さんたちの姿が見えなくなったところで、私たちは一つ息を吐く。ロビーには一仕事終えたような達成感が漂っている。國武さんたちの反応を見る限り、今日の初号試写は成功したようで、私もほっと胸をなでおろす。
だけれど、私たちはまだ帰るわけにはいかない。出水さんに「じゃあ、後片付けを始めよっか」と言われて、私たちは新宿武蔵野館を元の状態に戻すため、それぞれ動き始める。ポスターをしまったり、書類を整理したり。
そうしている間にも終電の時間は着々と近づいてきたけれど、それでも私は焦らなかった。最寄り駅まではタクシーという手段もあるし、初号試写が無事に終わった晴れやかさは、今の私を余すところなく覆っていた。
(続く)




