17話「被害者」
「アラタ、ちょっといいか?」
「何?」
冥界。死神や成仏できない幽霊たちがいる場所だ。
「…………どうするんだ、今年は」
「もちろん見逃すよ。ずっとそうしてきたんだから」
「お前はいくらなんでもここにいすぎだ。そろそろ交代したって……」
「いいじゃん別に。掟に反しているわけじゃないし」
そう返すも、ショウはあまりいい顔をしない。
「じゃ、俺は行くから」
…あの世とこの世の狭間。それが、今から向かう場所だ。
毎年ある取引をしに、行かなければならない。
人の心を縛り付ける、"あの村"との。
片瀬優。今年の生贄者の名前だ。
その子を現世に戻してあげて、取引を済ませ、今戻ってきた。
いつも取引の後に渡される資料。生贄になった子の詳細。どの子も特にパッとした経歴はない。まだ高校生だし、目を引くようなものがある方がすごいのだが。
それに、この子達は縛られて生きているので、余計に平凡すぎる内容になるのだ。
「…帰ってきてたのか」
ショウが横から資料を覗き込みながら言う。
「ああ。………」
「どうした?」
「え、何が?」
「いつもだったら、『何もなかったよ』って言ってどっか行くのに。何かあったのか、この片瀬優と」
「………」
優の写真を見ると胸が締め付けられる。
この子も被害者で、アラタもまた被害者である。
今までの子達は、ひどくアラタに怯え情緒が崩壊していく。そういう場だから仕方ないのだが、優にはあまりそれがなかった。
もちろん、急に不安が押し寄せたり、急に大丈夫だと慢心したりと、見ているだけでおかしくなっていることは容易に分かった。だとしても、優はこの儀式に核心をついた。今までなかったことだ。
しかも、アラタの心を動かし、約束まで取り付けた。前例が無さすぎる。
そんな優にさえ、村に執着心があった。
生贄にされた人物は、村を出なければいけない。これも理由がわからない。一番有力な説は、新たな村人を増やすため。生贄になった子供がよその者と夫婦になり、村に戻って子供が生まれる。その子供も、パートナーも村に執着心が湧く。半分洗脳みたいなものだ。
一応、村を出るまで見守るのも役目。優が村との別れを惜しみ、友人達と楽しそうに、寂しそうに話す姿は胸が痛んだ。
村に執着心を持つには、理由はどうだっていい。村そのもの、家族、恋人、友人。
村を離れたくないという理由があれば、その思いが強くなる。それが、執着心へと変わる。自然と身につくから、余計怖さを感じる。
その村に、執着しなかった。
それが、"志木新"の物語だ。




