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【9/7書籍発売】ワンオペ母が悪役令嬢になったら、攻略対象が地雷にしか見えない件  作者: 葵 すみれ
第二章 杖作成

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34.最後の実習で、まさかの四人が揃いました

 杖作成の授業も、いよいよ終盤に入った。

 これまで四か所のフィールドワークを終え、私たちの杖はほぼ完成している。

 残すは最後の実習だけだ。


「次回のフィールドワークでは、聖樹へ向かう」


 教師の言葉に、教室がざわめいた。


 聖樹。

 名前は知っているけれど、実際に訪れるのは初めてだ。


「これまでと同様、二組のペアが合同で行動する。組み合わせは当日発表するので、そのつもりで」


 いよいよ最後だ。

 最初はただの枝だったものが、今では魔力を流すときちんと応えてくれる。

 自分で作っただけに、愛着もひとしおだ。


「カルディナート嬢」


 授業が終わると、ローレンス殿下に声をかけられた。


「紅魔病の件だが、魔術師団から返事があった」


「まあ、本当ですか?」


「残念ながら、魔力を体外へ放出する治療法については、前例がないそうだ。ただ、関連する研究がないか、引き続き調べてもらっている」


「そうでしたか。ありがとうございます」


「何かわかれば、また知らせよう」


「はい。よろしくお願いいたします」


 殿下には、治療記録を用意していただいたうえ、魔術師団への問い合わせまでお願いしている。

 こういう調べものでは、本当に頼りになる方だ。

 ただ、最近は以前にも増して、私のためにあれこれ動いてくださっているような……。


 もちろん、ありがたい。

 けれど、殿下がそこまで親切にしてくださる理由を考えると、素直に喜んでばかりもいられない。

 ……まさか、まだ私のことを諦めていらっしゃらないのかしら。

 私としては、もう十分にはっきりお断りしたつもりなのだけれど。


 教室を出ると、ミアに声をかけられた。


「ノエリアさま!」


「あら、ミア。久しぶりね」


「はい。なかなかお話しする機会がなくて」


 ミアは笑顔で私の隣に並んだ。


「杖作成の方は順調?」


「はい! グレンさまにも、いろいろ教えていただいています」


「そう。グレンは細かな調整が得意だものね」


「それに、説明がとても丁寧なんです。私がわからないところも、嫌な顔一つせずに教えてくださって」


 ミアは嬉しそうに話す。


 グレンらしいわね。

 自分のことより、相手が困っていないかを気にするところがあるもの。


「よいペアになれてよかったわね」


「はい!」


 ミアが頷き、それから少し声を落とした。


「あの……ノエリアさま。ちょっとお聞きしてもいいですか?」


「何かしら」


「最近、グレンさまと以前のようにお話しされていますよね」


 ……ああ。

 そういえば、ミアにはずいぶん心配をかけてしまったのだった。


 グレンが公爵邸を出てから、私たちは学園でも距離を置いていた。

 あのときミアは、大人たちの都合で振り回されるグレンを気の毒がり、私にも何もしないのかと尋ねてきたのだ。


 そして──。


『ノエリアさまにとっても、グレンさまは特別な方……なんですよね?』


 あの質問には、答えられなかった。

 今なら、もう少し素直に答えられる気がするけれど。


「ええ。グレンとはきちんと話をしたの。今はもう、学園でまで距離を置くのはやめましょうって」


「そうだったんですね!」


 ミアがぱっと笑顔になった。


「よかったです。ずっと心配していたので」


「心配をかけてしまったわね」


「いえ。でも、グレンさまも最近は前より楽しそうなんです。お二人が仲直りできたなら、本当によかった」


「グレンも、元気がなかったの?」


「はい。いつもどおりにしていらっしゃいましたけど、時々ノエリアさまの方をご覧になっていて……」


「……そう」


 私がグレンを気にしていたように、グレンも私を気にしてくれていたのね。

 それを聞くと、少しくすぐったい。


「ミアはグレンのことをよく見ているのね」


「えっ? あ、はい。ペアですから」


 ミアは少し照れたように笑った。


「グレンさまって、あまりご自分のことをお話しされないでしょう? だから、つい気になってしまって」


「そうね。何でも一人で抱え込もうとするところがあるもの」


「そうなんです!」


 ミアが大きく頷く。


 ……ふふ。

 グレンのことをよくわかってくれているのね。

 彼は優しいけれど、遠慮しすぎるところがある。

 ミアのように気にかけてくれる子がそばにいるのは、ありがたい。


「これからも、グレンと仲良くしてあげてね」


「はい!」


 ミアは嬉しそうに頷いた。




 そして、最後のフィールドワーク当日。

 集合場所には、すでに大勢の生徒が集まっていた。


 今回の目的地は聖樹。

 いよいよ、杖作成も最後の仕上げだ。


「カルディナート嬢、おはよう」


「おはようございます、殿下」


 ローレンス殿下と合流し、教師の指示を待つ。

 少し離れたところには、グレンとミアの姿もあった。

 グレンがこちらに気づき、微笑む。

 私も小さく手を振った。


 ふと、隣の殿下がグレンの方を見ていることに気づく。

 ……あら。

 どうやら殿下は、私がグレンと親しくしていることが面白くないらしい。

 最近は、そうした気持ちが態度にも表れるようになってきた。

 けれど、ここでわざわざ触れる必要もないでしょう。

 私は何も言わず、教師の指示を待った。


「全員、集合!」


 教師の声が響き、生徒たちが集まった。


「これから合同ペアを発表する」


 いよいよね。

 今回は誰と一緒になるのかしら。


「アークフェルド殿下とカルディナート嬢のペア、それからベルマーくんとミア嬢のペア。この二組で合同班を組んでもらう」


 ……まあ!

 グレンとミア?

 最後のフィールドワークを、グレンと一緒に回れるのね。


 嬉しくなって、思わずグレンたちの方を見た。

 すると、ミアがこちらに気づき、小さく手を振ってくる。

 私も微笑み返した。


「では、合流しよう」


 ローレンス殿下に声をかけられ、私は頷いた。


「はい」


 殿下の表情はいつもどおりだったけれど、グレンと合同になったことを喜んでいるわけではないだろう。

 とはいえ、組み合わせは教師が決めたものだ。殿下がどう思われようと、今さら変えられるものでもない。


 私たちはグレンたちのもとへ向かった。


「ノエリアさま! 一緒ですね!」


 ミアが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ええ。よろしくね、ミア」


「はい!」


 グレンも微笑んだ。


「ノエリアさま。ご一緒できて嬉しいです」


「ふふ。私もよ」


 そう答えると、グレンの笑みが深くなった。

 ……ああ、もう。

 そんなふうに笑われたら、こちらまで嬉しくなってしまうじゃない。


「ベルマー、ミア。今日はよろしく頼む」


 ローレンス殿下が声をかける。


「よろしくお願いいたします、殿下」


「よろしくお願いします!」


 二人が答えると、殿下は頷いた。


 それにしても、面白い組み合わせになったものね。

 シュプラウト育成では、私とグレン、ローレンス殿下とミアがペアだった。

 それが杖作成では、私と殿下、グレンとミアに組み替えられた。

 そして最後のフィールドワークでは、その二組が合同になるのだ。


 ……何だか、巡り合わせというものを感じるわね。

 もっとも、シュプラウト育成の頃とは、それぞれの関係もずいぶん変わっているけれど。


「それでは、出発する!」


 教師の号令がかかった。

 私は杖を手に、三人とともに歩き出した。


 最後の目的地は、聖樹。

 どんな場所なのか、今から楽しみだわ。

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