34.最後の実習で、まさかの四人が揃いました
杖作成の授業も、いよいよ終盤に入った。
これまで四か所のフィールドワークを終え、私たちの杖はほぼ完成している。
残すは最後の実習だけだ。
「次回のフィールドワークでは、聖樹へ向かう」
教師の言葉に、教室がざわめいた。
聖樹。
名前は知っているけれど、実際に訪れるのは初めてだ。
「これまでと同様、二組のペアが合同で行動する。組み合わせは当日発表するので、そのつもりで」
いよいよ最後だ。
最初はただの枝だったものが、今では魔力を流すときちんと応えてくれる。
自分で作っただけに、愛着もひとしおだ。
「カルディナート嬢」
授業が終わると、ローレンス殿下に声をかけられた。
「紅魔病の件だが、魔術師団から返事があった」
「まあ、本当ですか?」
「残念ながら、魔力を体外へ放出する治療法については、前例がないそうだ。ただ、関連する研究がないか、引き続き調べてもらっている」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「何かわかれば、また知らせよう」
「はい。よろしくお願いいたします」
殿下には、治療記録を用意していただいたうえ、魔術師団への問い合わせまでお願いしている。
こういう調べものでは、本当に頼りになる方だ。
ただ、最近は以前にも増して、私のためにあれこれ動いてくださっているような……。
もちろん、ありがたい。
けれど、殿下がそこまで親切にしてくださる理由を考えると、素直に喜んでばかりもいられない。
……まさか、まだ私のことを諦めていらっしゃらないのかしら。
私としては、もう十分にはっきりお断りしたつもりなのだけれど。
教室を出ると、ミアに声をかけられた。
「ノエリアさま!」
「あら、ミア。久しぶりね」
「はい。なかなかお話しする機会がなくて」
ミアは笑顔で私の隣に並んだ。
「杖作成の方は順調?」
「はい! グレンさまにも、いろいろ教えていただいています」
「そう。グレンは細かな調整が得意だものね」
「それに、説明がとても丁寧なんです。私がわからないところも、嫌な顔一つせずに教えてくださって」
ミアは嬉しそうに話す。
グレンらしいわね。
自分のことより、相手が困っていないかを気にするところがあるもの。
「よいペアになれてよかったわね」
「はい!」
ミアが頷き、それから少し声を落とした。
「あの……ノエリアさま。ちょっとお聞きしてもいいですか?」
「何かしら」
「最近、グレンさまと以前のようにお話しされていますよね」
……ああ。
そういえば、ミアにはずいぶん心配をかけてしまったのだった。
グレンが公爵邸を出てから、私たちは学園でも距離を置いていた。
あのときミアは、大人たちの都合で振り回されるグレンを気の毒がり、私にも何もしないのかと尋ねてきたのだ。
そして──。
『ノエリアさまにとっても、グレンさまは特別な方……なんですよね?』
あの質問には、答えられなかった。
今なら、もう少し素直に答えられる気がするけれど。
「ええ。グレンとはきちんと話をしたの。今はもう、学園でまで距離を置くのはやめましょうって」
「そうだったんですね!」
ミアがぱっと笑顔になった。
「よかったです。ずっと心配していたので」
「心配をかけてしまったわね」
「いえ。でも、グレンさまも最近は前より楽しそうなんです。お二人が仲直りできたなら、本当によかった」
「グレンも、元気がなかったの?」
「はい。いつもどおりにしていらっしゃいましたけど、時々ノエリアさまの方をご覧になっていて……」
「……そう」
私がグレンを気にしていたように、グレンも私を気にしてくれていたのね。
それを聞くと、少しくすぐったい。
「ミアはグレンのことをよく見ているのね」
「えっ? あ、はい。ペアですから」
ミアは少し照れたように笑った。
「グレンさまって、あまりご自分のことをお話しされないでしょう? だから、つい気になってしまって」
「そうね。何でも一人で抱え込もうとするところがあるもの」
「そうなんです!」
ミアが大きく頷く。
……ふふ。
グレンのことをよくわかってくれているのね。
彼は優しいけれど、遠慮しすぎるところがある。
ミアのように気にかけてくれる子がそばにいるのは、ありがたい。
「これからも、グレンと仲良くしてあげてね」
「はい!」
ミアは嬉しそうに頷いた。
そして、最後のフィールドワーク当日。
集合場所には、すでに大勢の生徒が集まっていた。
今回の目的地は聖樹。
いよいよ、杖作成も最後の仕上げだ。
「カルディナート嬢、おはよう」
「おはようございます、殿下」
ローレンス殿下と合流し、教師の指示を待つ。
少し離れたところには、グレンとミアの姿もあった。
グレンがこちらに気づき、微笑む。
私も小さく手を振った。
ふと、隣の殿下がグレンの方を見ていることに気づく。
……あら。
どうやら殿下は、私がグレンと親しくしていることが面白くないらしい。
最近は、そうした気持ちが態度にも表れるようになってきた。
けれど、ここでわざわざ触れる必要もないでしょう。
私は何も言わず、教師の指示を待った。
「全員、集合!」
教師の声が響き、生徒たちが集まった。
「これから合同ペアを発表する」
いよいよね。
今回は誰と一緒になるのかしら。
「アークフェルド殿下とカルディナート嬢のペア、それからベルマーくんとミア嬢のペア。この二組で合同班を組んでもらう」
……まあ!
グレンとミア?
最後のフィールドワークを、グレンと一緒に回れるのね。
嬉しくなって、思わずグレンたちの方を見た。
すると、ミアがこちらに気づき、小さく手を振ってくる。
私も微笑み返した。
「では、合流しよう」
ローレンス殿下に声をかけられ、私は頷いた。
「はい」
殿下の表情はいつもどおりだったけれど、グレンと合同になったことを喜んでいるわけではないだろう。
とはいえ、組み合わせは教師が決めたものだ。殿下がどう思われようと、今さら変えられるものでもない。
私たちはグレンたちのもとへ向かった。
「ノエリアさま! 一緒ですね!」
ミアが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ええ。よろしくね、ミア」
「はい!」
グレンも微笑んだ。
「ノエリアさま。ご一緒できて嬉しいです」
「ふふ。私もよ」
そう答えると、グレンの笑みが深くなった。
……ああ、もう。
そんなふうに笑われたら、こちらまで嬉しくなってしまうじゃない。
「ベルマー、ミア。今日はよろしく頼む」
ローレンス殿下が声をかける。
「よろしくお願いいたします、殿下」
「よろしくお願いします!」
二人が答えると、殿下は頷いた。
それにしても、面白い組み合わせになったものね。
シュプラウト育成では、私とグレン、ローレンス殿下とミアがペアだった。
それが杖作成では、私と殿下、グレンとミアに組み替えられた。
そして最後のフィールドワークでは、その二組が合同になるのだ。
……何だか、巡り合わせというものを感じるわね。
もっとも、シュプラウト育成の頃とは、それぞれの関係もずいぶん変わっているけれど。
「それでは、出発する!」
教師の号令がかかった。
私は杖を手に、三人とともに歩き出した。
最後の目的地は、聖樹。
どんな場所なのか、今から楽しみだわ。
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