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【9/7書籍発売】ワンオペ母が悪役令嬢になったら、攻略対象が地雷にしか見えない件  作者: 葵 すみれ
第二章 杖作成

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33.グレンとリーヴと私。これではまるで家族です

 朝食を終えたところで、私はリーヴに声をかけた。


「リーヴ、今日は学園へ行ってみる?」


 リーヴがこちらを向く。


「授業の間は先生に預かってもらうことになるけれど、放課後にはグレンに会えるわよ」


 すると、リーヴがぱっと両手を伸ばした。


「ふふ。グレンに会いたいのね」


 抱き上げると、リーヴは嬉しそうに私の肩へ手を置いた。


 昨日、グレンと放課後に図書室で調べものをする約束をした。

 霧の森でのリーヴの反応についても調べたいし、せっかくなら本人も連れていこうと思ったのだ。


 学園の教師からは、フィールドワーク以外の日にもリーヴを連れてきてほしいと言われている。

 授業中は預かって観察させてもらえるとありがたい、という話だった。


 今日はその申し出に甘えることにした。

 登校後、リーヴを連れて教師のもとへ向かう。


「先生、今日は授業の間、リーヴを預かっていただけないでしょうか?」


「もちろんだ。以前にも話したが、こちらとしてはいつでも歓迎するぞ」


「ありがとうございます。放課後に迎えに参りますので、よろしくお願いいたします」


「ああ。任せてくれ」


 教師がリーヴを覗き込む。


「今日はよろしくな」


 リーヴは教師を見上げ、小さく手を伸ばした。

 フィールドワークで何度か顔を合わせているので、先生のことも覚えているのだろう。以前よりもずいぶん慣れた様子だ。


「授業が終わったら迎えに来るわね」


 声をかけると、リーヴは小さく手を振った。

 ……うん。大丈夫そうね。




 放課後、リーヴを迎えに行くと、教師は机の上に何枚もの記録用紙を広げていた。


「リーヴはおとなしくしていましたか?」


「ああ。特に問題はなかった。なかなか興味深い観察ができたよ」


 教師は満足そうだった。

 リーヴは私の姿を見るなり立ち上がり、両手を伸ばしてくる。


「リーヴ、お待たせ」


 抱き上げると、リーヴは私の肩へ手を回した。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ。また連れてきてくれるとありがたい」


「はい。機会がありましたら」


 教師に礼を述べ、廊下へ向かう。

 すると、リーヴが肩越しに教師を振り返り、小さく手を振った。


「おや、私に手を振ってくれるのか」


 教師が嬉しそうに手を振り返す。

 ふふ。先生にもすっかり慣れたみたいね。

 廊下へ出てから、私はリーヴに声をかけた。


「さあ、グレンのところへ行きましょうか」


 その名前を聞いた途端、リーヴが身を乗り出した。


「ちょっと、リーヴ。そんなに急がなくても大丈夫よ」


 ……まったく。

 朝からずっと楽しみにしていたのだろう。


 そういう私も、昨日から今日の放課後を楽しみにしていた。

 昨日、グレンと話しているときに、ふと思ってしまったのだ。

 やっぱり、こういうところが好きなのよね、と。


 ……あれは、我ながら驚いたわ。

 以前から好意を抱いていることは自覚していたけれど、あんなに自然に思ってしまうとは。

 そのことを思い出すと、少し落ち着かない。


 私はリーヴを抱き直し、図書室へ向かった。

 図書室に入ると、窓際の席にグレンの姿があった。


「グレン」


 声をかけると、グレンが顔を上げた。


「ノエリアさま。……リーヴ?」


 その途端、リーヴが両手を伸ばした。


「あらあら」


 グレンも驚いたように目を瞬かせたあと、嬉しそうに笑った。


「今日はリーヴも一緒なんですね」


「ええ。霧の森のことも気になるし、せっかくだから連れてきたの」


 グレンが立ち上がり、こちらへ手を伸ばす。


「リーヴ、久しぶりだね」


 リーヴは待ちきれないとばかりに身を乗り出した。


「はいはい。今、抱っこしてもらうから」


 グレンに渡すと、リーヴはすぐに彼の胸元へ身を寄せた。


「……本当に、グレンのことが大好きなのね」


「僕も、会えて嬉しいです」


 グレンが頭を撫でると、リーヴは気持ちよさそうに頬を寄せた。

 ……うん。連れてきてよかったわ。


「それじゃあ、調べものを始めましょうか」


「はい」


 私たちは席に着いた。

 リーヴはグレンの膝の上に落ち着き、すっかりくつろいでいる。


「グレン、何か見つかった?」


「はい。魔力の循環について、いくつか資料を調べてみました」


 グレンが本を開く。


「魔力を体外へ放出する方法も調べたんですが、通常の魔術では、本人が魔力を制御する必要があるようです」


「そうよね」


 紅魔病の患者は、自分の魔力を制御できなくなっている。

 その状態で魔術を使うのは難しいだろう。


「外部から魔力を引き出す方法もあるようですが、こちらは専門的な魔術が必要みたいです」


「それだと、結局は魔術師に頼ることになるわね」


「はい。できれば、魔術師を呼べない人でも使える方法があればと思うんです」


 私は昨日、ローレンス殿下から借りた治療記録を取り出した。


「こちらも読み直してみたのだけれど、やっぱり魔術師が治療することを前提にしているのよね」


 紅魔病を発症した患者の魔力を、外から調和させる。それが現在の治療法だ。

 けれど、魔術師の治療を受けるには、相応の費用も必要になる。


 グレンも、母親と暮らしていた頃に紅魔病を発症した。

 庶民だった母親には治療を受けさせることができず、父親である子爵を頼るしかなかった。

 その結果、グレンは母親と離れ、子爵家で暮らすことになったのだ。


 けれど、グレンのように父親が貴族で、その父親を頼ることができる者は、ほとんどいないだろう。

 魔術師の治療を受けられなければ、そのまま命を落としてしまうことが多い。


 もし、もっと手軽に治療できる方法があれば。

 今まで助けられなかった人たちの命も、救えるかもしれない。


「……道具を使うことはできないかしら」


「道具、ですか?」


「ええ。患者本人が魔術を使わなくても、余分な魔力を外へ逃がせるようなものを作れないかと思って」


「魔道具のようなものですか?」


「そうね。ただ、実際に作れるかどうかはわからないけれど」


「でも、それなら魔術師以外の人でも使えるかもしれませんね」


「ええ」


 もちろん、暴走した魔力を安全に取り出せるのか、必要な魔力まで失われてしまわないかなど、問題は山ほどある。


「まずは、魔力を外へ逃がす仕組みについて、もっと詳しく調べる必要がありそうね」


「はい。霧の森の地脈についても、資料があるかもしれません」


「そうね。あの森の仕組みがわかれば、何か参考になるかもしれないわ」


 私が本へ手を伸ばすと、グレンの膝の上にいたリーヴが、ふいに顔を上げた。


「……リーヴ?」


 グレンが呼びかける。

 リーヴはグレンの手に小さな手を重ね、じっとしている。


「……何か気になるんでしょうか」


「そうね」


「ノエリアさま。少し魔力を流してみてもいいでしょうか?」


「ええ」


 グレンが手のひらに少量の魔力を集める。

 すると、リーヴはその指先へ手を伸ばした。

 グレンが魔力を止めると、リーヴも手を引っ込める。


「……反応していますね」


「ええ。もう一度試してみましょうか」


 何度か繰り返してみたけれど、魔力を流すとリーヴが手を伸ばすようだった。


「魔力そのものを感じているのか、それとも流れを感じているのか……」


「グレンの魔力だから反応している可能性もあるわね。私でも試してみましょうか」


 私が手のひらに魔力を集めると、リーヴはこちらにも手を伸ばした。


「あら。私の魔力にも反応するのね」


「そうみたいですね」


 けれど、魔力を止めると、リーヴはグレンの胸元へ身を寄せてしまった。


「……もう終わり?」


 私が尋ねても、こちらを見ようとしない。


「ふふ。疲れてしまったんでしょうか」


「どうかしら。グレンに抱っこされていたいだけかもしれないわ」


 グレンが少し困ったように笑った。


「とりあえず、魔力に反応することは確認できたわね」


「はい」


「でも、霧の森で何を感じ取っていたのかは、まだわからないわ」


 霧の森では、地脈から余分な魔力が放出されている。

 リーヴはその森へ何度も手を伸ばしていた。

 そして、グレンが二度目の紅魔病を発症したときには、私とリーヴで暴走した魔力を鎮めることができた。


 ……やっぱり、気になるわね。

 リーヴが魔力の流れを感じ取っているのだとしたら、あのときも何かを感じていたのだろうか。


「グレン、もう少し魔力の循環について調べてみましょう」


「はい」


 私たちは再び本を開いた。

 しばらくすると、グレンの膝の上でリーヴがもぞもぞと動き始めた。


「リーヴ?」


 リーヴはグレンの手を掴み、私の方へ伸ばそうとしている。


「……どうしたの?」


 私が手を差し出すと、リーヴはその手も掴んだ。

 そして、私とグレンの手を引き寄せ、重ね合わせる。


「……あら?」


 思いがけずグレンと手を重ねることになり、私は彼の顔を見た。

 グレンもこちらを見て、少し照れたように笑う。

 リーヴは二人の手を交互に見たあと、満足したように目を細めた。


「……何がしたかったのかしら」


「さあ……」


 グレンが小さく笑う。

 私もつられて笑いかけたけれど、重なった手が気になって、つい視線を落としてしまった。


 ……あら、どうしましょう。

 リーヴは満足そうにしているけれど、私たちはいつまでこうしていればいいのかしら。


「リーヴ、そろそろ離してあげましょうね」


 私が声をかけると、リーヴはようやく手を離した。

 グレンは私の手をそっと離し、リーヴの頭を撫でる。


「ありがとうございます、リーヴ」


 ……何のお礼なのかしら。

 思わずグレンを見ると、彼は何事もなかったように微笑んでいた。


「ノエリアさま。今日はリーヴも連れてきてくださって、ありがとうございました」


「ふふ。リーヴもグレンに会いたがっていたもの」


「僕も、会えて嬉しかったです」


 グレンはリーヴを見下ろし、優しく笑った。

 その姿を見ていると、以前、公爵邸で三人一緒に過ごしていた頃のことを思い出す。

 食事をしたり、シュプラウトの様子を確認したり。あの頃は、毎日のように顔を合わせていた。


「……また、こうして三人で過ごせたら嬉しいです」


 グレンがぽつりと言った。


「ええ。私もよ」


 そう答えると、グレンが嬉しそうに笑った。

 また公爵邸で、三人一緒に過ごせるようになったらいいのに。

 グレンがリーヴを抱いて、私の隣に座って。今日みたいに、あれこれ話しながら一緒に過ごして。


 ……って、ちょっと待って。

 それだと、まるで……。


「ノエリアさま?」


「……え?」


「どうかなさいましたか?」


「い、いいえ。何でもないわ」


 慌てて首を振る。

 すると、リーヴがこちらへ手を伸ばしてきた。


「リーヴ?」


 抱き上げようとすると、リーヴは私の手を掴み、もう片方の手でグレンの服を握った。


 ……あらあら。

 どちらからも離れたくないらしい。


「ふふ。欲張りね、リーヴ」


 私が笑うと、グレンも笑った。

 そのまま三人で顔を見合わせる。


 何かを調べたり、リーヴの世話をしたり。そんな何でもない時間を、これからも一緒に過ごせたら。


 ……いつか、こんな毎日を送れたらいいのに。

本日より、新連載を開始しました!

『平民だからと恋人と別れさせられた私、戦場で英雄になりました~元恋人の兄が上官で求婚されていますが、私には待っている人がいます~』


身分差によって恋人と引き離された平民の少女が、戦闘魔術の才能を開花させ、戦場で活躍していく異世界恋愛ファンタジーです。

本日は5話更新予定で、現在3話まで公開しています。

恋愛も戦闘も楽しめるお話になっていますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!

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