↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【9/7書籍発売】ワンオペ母が悪役令嬢になったら、攻略対象が地雷にしか見えない件  作者: 葵 すみれ
第二章 杖作成

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/80

31.リーヴも、白い霧の向こうを見ていました

 流れる魔力が多すぎて、地中だけではすべてを循環させられない。

 だから、余った分を外へ逃がしている。


「……レオニール・フロスト」


 呼びかけると、レオニールがこちらを見た。


「何?」


「この霧って、地脈が魔力を外へ出しているからできているのよね?」


「……そう聞いたけど」


「もし、外へ出せなかったらどうなるのかしら」


「多分、魔力の流れが乱れそうな気がするけど……」


 そう呟いて、レオニールは少し考え込む。


「断定はできない。先生に聞いたほうがいいと思う」


「ありがとう。そうするわ」


 近くにいた教師がこちらへ来たところで、声をかける。


「先生、一つよろしいですか?」


「なんだ?」


「この森の地脈は、余った魔力を地上へ放出しているんですよね」


「ああ」


「もし、それができなかった場合はどうなるのでしょうか」


 教師は少し考えた。


「魔力の流れが乱れるだろうな」


「流れが?」


「行き場のない魔力が溜まり続ければ、正常な循環を保てなくなる。規模によっては地脈そのものや周囲に影響が出ることもある」


「では、この霧があるから、そうならずに済んでいるんですか?」


「そう考えていい」


「ありがとうございます」


 教師が離れていく。

 行き場のない魔力が溜まり、正常に循環できなくなる。

 その言葉を聞いて、紅魔病を思い出した。


 体内の魔力が暴走し、自分では制御できなくなる病気。

 通常なら、魔術師が外から干渉して、乱れた魔力を調和させる。

 グレンも、一度目に発症したときはその治療を受けている。

 けれど、二度目は魔術師でも抑えきれなかった。


「カルディナート嬢」


 ローレンス殿下に呼ばれ、顔を上げる。


「どうした?」


「紅魔病のことを考えていました」


「紅魔病?」


「はい。少し似ているような気がして」


 レオニールもこちらを見る。


「……どこが?」


「魔力が正常に循環できなくなるところよ」


「でも、紅魔病は魔術師が魔力を整える」


「ええ」


「この森は外に出してる」


「そうなのよね」


 同じではない。

 紅魔病では、乱れた魔力を魔術師が調和させる。

 霧の森は、抱えきれない魔力を外へ逃がしている。

 まったく同じ仕組みなら、こんなに気にはならなかったかもしれない。


「紅魔病について調べたいのなら、学園にも資料はある。魔術師団にも治療記録はあるだろう。必要なら、閲覧できるものがないか確認する」


 殿下がそう言ってきたことに、少し驚く。

 今の気まずくなっている関係で、親切な提案をしてくれるとは思いもしなかった。


「よろしいのですか?」


「ああ」


「ありがとうございます」


 本心から礼を言って頭を下げると、殿下は鷹揚に頷く。

 その表情は、ほっとしているようにも見えた。


 王立魔術学院にある資料だけでも、かなりの数になるだろう。

 まずはそこから調べてみよう。


 やがて全員の実習が終わり、森を出ることになった。

 白い霧を抜けると、一気に視界が開ける。


 出発地点には、教師や護衛が待っていた。

 リーヴの姿を探す。

 籠の中にいたリーヴは、私を見つけるとすぐに立ち上がった。


「リーヴ」


 近づくと、両手を伸ばしてくる。


「ただいま」


 抱き上げると、リーヴは私の胸元へ身を寄せた。

 朝と変わらない様子に、ほっとする。


「お嬢さま」


 そばにいた護衛から声をかけられた。


「リーヴさまのことで、一つご報告がございます」


「何かあったの?」


「皆さまが森へ入られてから、何度か森の方へ手を伸ばしておられました」


「森に?」


「はい」


 私は腕の中のリーヴを見る。


「落ち着かない様子だった?」


「いえ。そういうわけではありません。ただ、しばらく森の方をご覧になっていましたので」


「そう……」


 以前、風の丘でもリーヴが離れた場所から魔力の乱れに反応したことがある。

 今回も、何かを感じ取っていたのだろうか。


「どちらを見ていたの?」


「あちらです」


 護衛が霧の森を指す。

 リーヴもその方向へ顔を向けた。

 しばらく森を見つめたあと、片手を伸ばす。

 私はその手の先を見る。

 白い霧が、森の入り口をゆっくりと流れていた。


「先生にも報告しておきましょう」


 護衛にそう告げ、近くにいた教師のもとへ向かう。

 話を聞いた教師は、リーヴの様子を確認した。


「霧に含まれる魔力に反応した可能性はあるな。記録しておこう」


「お願いします」


 リーヴはまだ森を見ている。

 風の丘では、乱れた魔力に反応した。

 けれど今回は、私たちの実習で大きな乱れは起きていない。


 それでも、リーヴは森を気にしていた。

 だとすれば、反応したのは別のものなのかもしれない。


 この森には、余った魔力を外へ逃がすことで均衡を保つ地脈がある。

 それと関係があるのだろうか。


 考えても、今は答えが出ない。

 ただ、霧の森について調べる理由が一つ増えた。


「グレンにも聞いてみようかしら」


 口に出してから、腕の中のリーヴを見る。

 紅魔病を二度経験したグレンなら、発症したときのことも覚えているだろう。


「……カルディナート嬢」


 すぐそばから名前を呼ばれた。

 振り返ると、ローレンス殿下が立っている。


「はい?」


 一度こちらを見た殿下が、口を閉じる。


「殿下?」


「……いや」


 それだけ答えると、殿下は集合場所へ視線を向けた。


「帰るぞ」


「はい」


 私はリーヴを抱き直し、殿下のあとに続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。