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私そんなに怖い?

「私普通に秋人と付き合ってるよ。」


突拍子もないことを言う天音さんだけど、本当にこれは予想してなかった。そういう素振りがなかったのもあるけど、店のルールをみんな守っていると思い込みすぎていたのかもしれない。


どっちにせよ、天音さんの一言で衝撃が走ったことには変わりない。


「え、てかいつからなんですか?」

「えーと、橋宮くんが来る前くらいだから来月とかで1年とか?」


まだ話に追いつけていない。普通にキャストとボーイという関係であしらっていた2人がずっと隠れて付き合っていた。


ショックとかでは無いし嫌悪感を抱くこともないけど、言葉にできない衝撃が尾を引く感覚を感じてしまい、ブラックコーヒーを流し込むまでだった。


「その、馴れ初めというか、どういう経緯でお付き合いを…?」

「えっとね、橋宮くんが来る3年前くらいかな?秋人が店にボーイとして入ったんだよね」


天音さんが椅子に掛け直して、真剣に話をする姿勢に入った。


______「今日から入りました萬田です。お願いします。」


秋人は今は仕事に慣れて柔らかくなったけど、最初は凄いオドオドした子だった。


高校卒業してすぐに親が蒸発、親戚も頼れなくなった。そのまま捨てられて逃げるようにC町に来て路上で寝たりする日が続いた。


「君、大丈夫かい?家出してきたの?」

「あぁ、すみません。家がなくて。もうどっか行くんで。すみません。」

「ちょっと待って、良かったら店入る?ここじゃ寒いよ。」


BLUEwideの路地裏で寝てたところをゴミ捨てしに来た店長に拾われたらしい。それから、住み込みで働くことになった。


「じゃあ萬田くん、君は天音ちゃんをお願いね。」

「はい……お願いします…。」

「よろしくね。そんな緊張しないでいいよ。」



「最初はさ、私にも怯えてる感じだったんだよねぇ。けど仕事はめちゃくちゃ出来てさ、まぁ若かったしとにかく家を借りれるように頑張ってたんだと思うけど。」


______営業が終わって、スタッフルームでタバコを吸っていた。


更衣室から音がして秋人が出てきた。いつもと同じ、バンドのライブTシャツ。店長から新しい服を買えばいいのにと言われているのを何回も見たけど、貯金のためと言ってずっと同じ服を着てる。


「あの、天音さんそろそろ帰りますよね。」

「あーうん。ごめんこれ吸い終わってからでもいい?」

「あ、はい。全然待ちます。ゆっくりで大丈夫なんで。」


そう言うと制服をロッカーに入れて、そのままロッカーの前にしゃがみ込んだ。私が座ってるソファは隣が空いているのに。


「座んないの?」

「あ、え?」

「疲れてるでしょ?こっち座りな。」


空いているソファをポンポンと叩いてそう言った。けど秋人は申し訳なさそうにして座らなかった。


私はタバコを置いて立ち上がり、秋人の隣にしゃがみ込んだ。


「え、ど、どうしました…?」


急に隣に来た私にビックリして戸惑いながら秋人はそう聞いた。


「私そんなに怖い?」

「…え?」

「萬田くんずぅっと敬語だし、疲れない?」

「いや…その、まだ慣れなくて。」

「じゃあ慣れるためにもさ、こっち座んなよ。」


少し近づいてみると、見てわかるくらいに耳が赤くなってた。その瞬間、秋人をからかいたくなった。


ソファに横並びで座ると、秋人はモジモジしていた。たまに目を合わせようと横を見るけど、ちょっと合った途端に目線を外してきた。


怖がられてるのかなとも思った。高校の時からクラスの話さない男子とかに話しかけると少し怯えたような表情だったのを思い出した。


「そのシャツさ、結構前から着てんの?」

「え、あぁ、まぁ、買ったのは高1の時ですね。そんな何回も着てるとかじゃないんですけど、たまに着てます。」


やっぱりまだなんか緊張してるみたいだった。けど、ちゃんと聞いた事には答えてくれたし、本人としては沢山話したいのかなとも思った。


「なんかのバンドのシャツ?ライブTっぽいけど。」

「あぁ、そうです。Amber Noiseってバンドがライブした時ので。小遣い集めて買ったんで勿体なくてあんま着てなかったんですよね。」


初めて見る楽しそうに話す秋人の顔は今でも印象的だった。やっぱりこの子家庭の事情で家を出てから大人と話すのにトラウマを感じてるんだと思った。


秋人はそのままバンドの話を続けてくれた。話し終わると話しすぎて申し訳ないみたいなこと言って謝ってたけど、私からしたらここまで話してれたのはむしろ嬉しかった。



話を聞いてて、思わず少し笑ってしまった。


「もしかしてなんですけど、天音さんが萬田くんのこと好きになったとかなんですか?」

「んー、私としてはさ可愛い後輩からかってるくらいの感覚で話してたつもりだったけど、今考えたら好きになってたのかもね。」


天音さんが少し恥ずかしそうに馴れ初めを話している姿は店で見せるようなそれとはガラリと違っていた。


「それで秋人が働いて2ヶ月半くらい経った時かな、店長から秋人に話があってさ、」


______いつも通りスタッフルームでタバコを吸っていたら、秋人が着替え終わって私の隣に座った。


仕事に疲れてる日でもいつも変わらない真面目な顔しているけど、その日はやけに暗そうな顔をしてた。


「何かあったの?仕事ミスった?」

「え、あぁ、その店長から話があって…」

「どしたの、大丈夫?」


何度かスーッと息を吸っては頭を搔いて話し始めるのに踏ん切りをつけようとしていた。


「店長が店のオーナーの方と話をした時に俺が住み込みで働いているのが店の規約的に許可できないらしいんです。だからどうにかして部屋借りなくちゃいけなくて。」


秋人はかなりハイペースでシフトを入れていたけど、部屋を借りて毎月家賃を安定して払えるほどの貯金は無かった。


ただでさえ自分で携帯代も払わなくちゃいけないし、食費だったりの生活費を自分で賄うのもかなり無理をしてやっている様子だった。


「だから、来週辺りには出ないといけなくて…。

また野宿することになりそうです。」

「そうなんだ…」


非情すぎる現実に、気の利いた言葉を掛けられなかった。普段テンションの低い客を励ます事を何度もしてきたのに、こういう場面で何も言えなかった自分がちょっと嫌だった。


「店長の家とか泊めてもらえないかな」

「それが…恥を忍んでお願いしたんですけど、お子さんがまだ小さいのもあってうちでは厳しいって言われちゃって、」


そう言いながら秋人が見ているスマホにはボロアパートや安い家賃の家を探している検索履歴がびっしりと並んでいるのが見えた。


心臓がキュッとなった。


私よりも仕事を頑張ってて、私よりも何倍も仕事を覚えようと努力してて、私よりも生きるために必死に動いている秋人が、私よりもこんなに苦しい日々を送らなきゃいけない。


そんなのって、なんか違う気がした。


しばらく黙ったままスマホを眺める秋人を横目に、持っているタバコを灰皿に強く押し潰した。


「あのさ、私の家来る?」



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