魔王の初夜
リィルの案内で、ぼくらは集落の中心部へと向かった。
集落は、家庭菜園に毛が生えた程度の農耕も行っているみたいだが三十分もあればひと回りできる程度の広さである。
テントの戸数は三十ほど。ドワーフ族やゴブリン、リザードマンなど、洞窟や地底を住処とする種族たちはこの地下に生活空間を広げているため、全体の人数は百以上になるらしい。
木造の見張り台の傍らに広い集会場のスペースが設けられ、そのとなりにリィルのテントはあった。
集落の長である彼女の権威を示すように、一番大きい。
中に入ると、夜の寒さが一気にやわらいだ。
ものは少なく、一角をベットが占めて、後は鎧かけや衣装箱などが点在している。
床に敷かれた毛皮の絨毯も、そのまま寝転がって眠れるくらいにふかふかだ。
「どんな場所かと覚悟していたが……予想してたよりも快適だな」
「魔王代理の特権です。このベッドなどは、ドワーフたちが好意でつくってくれたもので、みなのテントにはありません」
「んー……でもこれだと三人で寝るぐらいが限界だね。私たち全員がここに押しかけるってわけにはいかないかな」
背負っていた鮫島さんをひとまずベッドに寝かせて、如月さんがいう。
「私は寝袋で休みますので、みなさまがベッドをお使いください」
「待て。そんなことすればぼくらを歓迎しないモンスターたちのヘイトを溜める……集落の長たる君はどっしりと構える義務があるだろう」
「しかし、夫となる方を粗末に扱うわけには……そ、それにカナト殿は、これから我々のリーダーになられるのですよ」
いわれてみれば、そうだった。
まだこの集落の長になるという実感は湧いてこないのだが、これからはそういう振る舞いを心がけねばならない。
ぼくは魔王、ぼくは魔王……と、自分に言い聞かせる。
「わ、私たちが仲睦まじいというところも、みなに示さなければならないわけですしね……」
リィルはもじもじしながら指をつつき合わせる。
乙女か。
「古河くんとリィルちゃんが一緒に寝るのは必須ってことだね。しょうがないし、あたしたちは寝袋を借りようか」
「や、ヤヨイ殿はいいのですか? 後からきた私だけが、カナト殿と寝床を一緒にするなどと……!」
「私は古河くん好みの、重くない女の子だからね」
なにを得意げにいってるんだ……。
たしかに、うっとうしい女は嫌いだが。
「まぁ、古河くんが魔王らしく三人同時に相手するというのなら、それはそれでいいけど。チラッ」
如月さんがぼくを見て、続いて福原さんとリィルもそれに倣った。
「男が女を慰める方法」と語ったときのラーゴの顔が脳裏に蘇る。
「アホか……猿じゃあるまいし、そんなことはやらないぞ」
「じゃあ、代わりばんこ?」
「刹那的な快楽のために体力を消耗したくない。仲睦まじいところを見せるといっても、ベッドの中にまで誰かの目があるわけじゃないだろ」
「だ、誰かの目はありませんが……夜でも起きている魔族はいます……その、あまり静かだと不能と侮るものが出てくるかもしれません……」
リィルが、頬を染めながらいった。
「喘ぐことなら一人でもできるだろう……ぼくは寝る」
「古河くん、それはあんまりだよ! 寂しすぎるよ!」
「チッ――」
たしかに、ぼくだってそんな虚しいものは聞きたくはないのだった。
「しょうがない……くだらんことで舐められるのも心外だ。魔王の務めというなら、付き合ってやる」
三人の少女は、ほっと胸をなでおろした。
「んで……ここには三人の女の子がいるんですが、どうする?」
如月さんが尋ねる。
さすがに恥じらいもあるようで、頬は赤い。
「……仕方ないな。三人相手にしてやる」
「「「ふぇえ!?」」」
「これから、ぼくは魔王になるんだ……なら、やり過ぎなくらいがちょうどいいだろう。それに、福原さんの【ヒール】があることを忘れていた」
「ええ……? あ……は、はいっ……傷を治すだけじゃなくて、体力を回復する魔法もあるにはありますが……精神的な疲労は消せませんので、きちんと寝てくださいね」
「わかってる、魔力は回復しないんだものな」
ぼくの手は如月さんの頬に伸びる。
「ちょ、古河くん……」
うろたえる彼女の首をなでてから、制服のリボンを引き千切り、シャツの前を引き裂く。
胸元のボタンがはじけ飛んで、如月さんの薄水色の下着と、色白の肌があらわとなった。
豊かな双丘が、反動で大きく揺れる。
顔を真っ赤にしながら、慌てて胸もとを隠す如月さん。
「な、なにするの――って、もしかして……」
「服を破いても、如月さんの【物質修復】で元に戻せるだろう?」
「うう……古河くんが鬼畜になってるよぉ」
「魔王だからな。これから君たちを傷つけて、刻みつけて、ぼくのものにするんだ」
冷たく言い放ったつもりだが、視線を宙に泳がせる三人の少女は、まんざらでもない表情である。
ぼくが手ぬるいのか、彼女らがおかしいのか。
……たぶん、後者だろう。
「と、とりあえず、私は、鎧を脱いで戦闘で汚れた身体を流してきますねっ」
リィルはその身にまとっていた漆黒の鎧を脱ぎはじめた。
ぴっちりとした鎧下に浮きあがる、少女の体の輪郭。
無骨な鎧の中から出てくるには、あまりにも華奢なライン。
背中には小さく折りたたまれた黒い翼があり、お尻から生えた尻尾がくねくねと動く。
浴衣を手にテントの外へと飛び出そうとした彼女の尻尾を、ぼくはつかんだ。
「ひゃうっ!」
リィルは飛び上がって、振りむく。
「し、尻尾はその、よ、弱いので……」
「なに勝手に出ていこうとしている。ぼくは早く眠りたいんだ。そのままでいい」
「し、しかしっ! 汗のにおいとかします――」
ぼくは問答無用でリィルを抱き寄せて、その首筋に鼻を押しつけた。
たしかに、鎧をきて蒸れた肌からは、汗のにおいがたちのぼる。
しかし、それが不快だとは思わなかった。
「に、においをかがないで……」
「指図をするな。君は、ぼくの女になるんだろう?」
真っ正面から真紅の瞳を見つめる。
腰にまわした手で尻尾を擦ってやると、みるみるうちに顔が弛んでいって、少しだけおかしかった。
「あ、あの、カナト殿――」
リィルは腕の中で身をよじるも、尻尾を掴む手に力をこめると、びくっと身体を痙攣させて、脱力してしまう。
「み、見ないでください……このような、情けない姿……」
ぼくにしがみつき、胸に顔をうずめて隠す。
「恥ずかしがる必要ないだろう? ぼくは、君が望んだとおりにしてるはずだぞ?」
「それは、そうですが……申し訳、ございません」
「謝ることはない。この世界で生きるために、お互いの利害が合致したまでのことだ。君のおかげでこうしてベッドで眠ることができる……感謝している」
耳元にささやくと彼女の心臓の鼓動が高鳴るのが伝わった。
「い、今、そんな優しい言葉……困ります」
「ぼくを魔王として祭りあげろ、リィル」
「はい、カナト殿……我が、偉大なる魔王」
唇と唇を重ねる。
やわらかな感触の内側から、熱いリィルの吐息が、ぼくの中に流れこんできた。
「わ」
「き、キス……」
うらやましそうにリィルを眺める二人の少女も、抱き寄せる。
順々に唇を塞いで、そのままベッドに押し倒した。
「リィルちゃん、鎧に隠れて気がつかなかったけど、すごい、スタイルいいんだね……」
「そ、そういう如月さんだって、胸おっきいし……わたしだけが、小っちゃいの……」
「私は、アキノ殿くらいの胸も、かわいらしくていいと思いますよ。それに、戦うのにはいささか邪魔になることもあります」
「こ、古河くんは、どれが好き……?」
如月さんが、上目づかいにぼくに問う。
「単なる脂肪の塊だろうが。そんなこと、大きいの小さいのを気にするほうが馬鹿げてる」
「アハハ……古河くんらしいね」
「他人にぼくらしいなんていわれたくないといったろうが」
「あ、ごめん……」
「罰として、弥生は一番最後だ」
「ええぇ……って、え? 弥生……?」
「なにか変か?」
「う、ううん……そんなこと……えへへ」
名前を呼ばれた程度で、みっともないほどに、弥生はにやけた。
まったく、女というものは、みんなこんな風に単細胞生物なのだろうか?
「あ、あの……こ、古河さん……わ、わたしは……」
「亜希乃さん、でいいか?」
「うひゃあ……やっぱり照れてなんにも手につかなくなっちゃうので、福原でいいですっ」
あ、そう……。
「で、でもそのぉ……私も、リィルさんみたいに、奏人さんって、下の名前で呼んでも、いいですか?」
「あ、はいはい! 私も古河くんのこと、奏人くんって呼びたい」
「好きなように呼べ……ぼくのものになるなら、許してやる」
三人の少女は、ほとんど同時にうなずいて、ぼくを受け入れた。
『あの、ますたーっ! ローションプレイとか興味ありませんか? ラピスも、ちょぴっとだけ、混ざりたいかなーって……』
「却下だ」
古河奏人のスキル……11個




