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戦闘介入

「ったく、あの女の頭の中身は、どうなっているんだ……!」

『でもますたーは、如月サマと話されているときが一番生き生きとしておられます』


 夜の荒野を、ぼくと併走するラピスがいった。

 スライムが走るというと奇妙に思う人もいるかも知れないが、弾力性に富む不定形の生物は、伸びる力と戻る力で驚くほどすばやい走りを披露する。

 ラピスがこれだけ走れるということは、通常の人間の足ではスライムから逃げ切ることはできないだろう。


「福原さんは強者となったぼくに、思考停止して恭順している。鮫島さんはその逆で、ぼくに反発することしか頭にない。あの二人に比べれば、まだしも頭を動かしている如月さんはマシなほうだ」


 ぼくは馬鹿は嫌いだ。

 他人の言いなりになって自分の意見を持たずに責任を負わぬ者も、ただ他者に反発するだけで建設的な議論をできぬ者も、その中に含まれる。


『それ、ご本人にいってあげたら喜ぶんじゃないですか?』

「なんであのゲーム脳を喜ばせなきゃいけないんだ……?」

『うはぁ、さすがマスター、鬼畜ですぅ』


 この程度で鬼畜だなんて、心外だ。


「そんな程度のことは、如月さんだって承知してる。あれで、状況は見えてる女だ」

『ますたーの口から聞くことに意味があるんですよぅ』

「そろそろ無駄口は閉じろ」


 スライムに、口はないけれど。


 夜光スライムの群れと魔王たちの戦場まで、目と鼻の先だった。

 先にこっちに気づいたのは、数で上まわるスライムたちだ。

 蛍光色に輝く粘性生物の数匹が、むかってくる。


「ラピス、蹴散らせ」

『いえす、ますたー』


 蒼いフォルムに二つの月光を反射させるぼくのスライムも、負けじと光を帯びた。

 スキル【斬鉄】を発動――ラピスの身体から伸びた三本の触手が、夜気を切り裂く光刃となって、突進してくる敵を両断した。

 生まれたばかりのせいか、昼間に戦ったスライムよりも、手応えがない。


「なんだ?」


 突如現れたぼくらに、スライムと戦っていたモンスターたちが気づいた。

 月光に照らしだされた影は、三つ。


 一つ目は、トカゲ頭のリザードマン。剣と盾を装備して軽やかな身のこなしでスライムの攻撃をかわす。


 二つ目はアンデッド族のマミー。身動きは遅いが、丸太のように太い腕を振り回して、スライムをパンチの風圧だけでひるませる。しかし、パワータイプが不利なのはここでも同じなようで、数で押し寄せる敵に取り囲まれてしまっていた。

 スライムが発する酸で全身の包帯はところどころ焼け焦げていて、マミーは苦しそうなうめき声を上げている。


「カーミオ!」


 三つ目の漆黒の鎧を身にまとった騎士が、救援に走る。

 重い鎧を着ているせいか動きはもたついていて、しかし、こちらは夜の湖面の如く磨き上げられた鎧の表面に、焦げ痕のひとつもない。

 さらに、鎧と同じ黒き刀身の刃は、行く手を阻んだスライムを両断し、紫色の泥へと変貌させた。


 ぼくは目を見張る。

 あの黒騎士の攻撃は、スライムを殺した!


「あいつが、魔王か」


 てっきり魔王も【異世界勇者】たちと同じく、スライムに手も足も出ないものと思っていたが、予想を覆された。

 ぼくは立ち止まり、観察する。

 黒き魔王の斬撃は、再び別の夜光スライムを滅する。

 あいつの剣は、スライムに対して一撃必殺の威力を備えているといっていい。


「しかし、全身鎧を身にまとった動きの遅さは、どうにもならないか」


 一匹ずつ確実にスライムを減らしていても、多勢に無勢。

 取り囲まれてしまえば身動きがとれず、救援にむかおうとしていたマミーは、スライムの中に引きずりこまれて消化されてしまった。

 クラス【アンデッド】……すなわち不死身を特性とするモンスターでも、溶かされてしまってはひとたまりもないらしい。


「おのれ!」


 魔王が声をあげて剣をふるう。

 もう一匹スライムが切断されるが、死ぬ間際に伸びた触手は、紫色の泥に変わる前に、その兜を上空へとはじき飛ばした。


「ちぃぃぃっ!」


 月光に照らされる夜の戦場に、白銀の花が咲く。


「女の子?」


 黒い兜の下から現れたのは、ぼくらとそう歳の変わらぬ少女の、可憐な美貌だった。


 月光を反射する雪白の肌、まるで燃えているみたいな真紅の双眸、そしてプラチナブロンドの長髪。


 その頭には、雄羊を彷彿とさせる二本の角が、左右でとぐろを巻いていた。


 弱点をあらわとした少女に、スライムが異様な跳躍力で飛びかかる。


 少女は避けようとするも、周囲のスライムたちが四肢に触手を絡みつかせて動きを封じる。


「くっ――」


 整った美貌が歪む。

 絶体絶命の窮地だった。


「ラピス」

『いえす、ますたー。【サモンソード】――【ソードスレイブ】!』


 ラピスが召喚した細剣は、ぼくの右手に現れる。

 タクトのような【ソードスレイブ】の指揮剣を振り上げると、無骨な銀色のロングソードが虚空に出現し、空中を滑っていく。


「間に合え!」


 スライムを倒せる剣を持った魔王の少女――彼女を失ってはいけないと、直感が告げていた。

 ぼくが放った刃は、彼女の鼻先に届こうとしてた夜光スライムの身体を貫く。

 地面に縫いつけられた敵モンスターはそのまま泥となって散った。

 さらに【ソードスレイブ】はぼくの意志に従って、ひとりでに浮かびあがる。


 意思を得たかのごとき剣が、銀髪の少女のまわりで乱舞し、スライムたちの触手を瞬く間に切り裂いていく。


「――っ!?」


 自由になった少女が、ぼくを見つめた。

 ぼくはさらに九本の【ソードスレイブ】を召喚して、彼女に群がる粘性生物たちを次々に貫いていく。


「そんな……」

「あれだけのスライムを、一瞬デ!?」


 銀髪の少女と同様に、スライムの攻撃をかわし逃げることに徹していたリザードマンも驚愕していた。


「残りは任せた、ラピス」

『いえす、ますたー。【マスター・オブ・ファイヤ】――【ファイヤ・レイン】』


 薄緑色に光を帯びる蒼きスライムが、炎の矢を夜空へと放った。

 その炎の矢は上空で散開――【ファイヤ・レイン】という言葉のとおり、炎の雨となって降り注ぎ、残りのスライムたちを焼き払った。

 燃えカスは紫色の泥となり、地面に広がる。


『状況終了しました、ますたー』


《ほめてほめてほめてほめてほめてほめてくださいっ》という思念が届く。


「ああ、掃除をしたらな」

『うへえ、いつもの塩対応……でもいいんです。ラピスはますたーに尽くせるだけで幸せなのですぅ』


 ラピスは、紫の泥となったスライムの死骸を、取りこんでいく。

 黒き鎧をまとった少女とリザードマンは、目をまん丸にして、ぼくらを見ていた。


古河奏人のスキル……11個

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