魔王の影
クラスメイトと下僕スライムのやかましいやり取りに深々とため息をついていると、視界の隅を、蛍光色の黄色い光が走った。
「ん、なんだ?」
ぼくは、光のほうへと目をやる。
荒野の彼方に、無数の黄色い光が踊っているのが見える。
「ラピス」
『あれは、夜光スライムの群れですね』
「夜光スライム? 普通のスライムとはなにか違うのか?」
『生まれたばかりのスライムは、ご覧のように蓄光機能を備えており、周辺にいるスライムに群れをつくるように合図を送る習性があります』
おそらく、寄り集まって知能を形成する粘菌植物みたいなものなんだろう。
スライム一体一体は自身の力を有効に使う知能を持っていないが、複数体集まってネットワークを形成したときに、真価を発揮すのだ。
ちなみにラピスの場合は、その代わりをぼくが果たしている。
「生まれたばかりって、スライムってどうやって生まれるの?」
如月さんが尋ねた。
『基本的には、発情期に婦女子の身体に芽を植えつけて、それを苗床として繁殖します』
「わ、エロゲだ」
『無性生殖ですが、苗床となっていただいた方には天にも昇る心地を七日間味わっていただいた暁に一切の苦痛を感じることなく安楽死させていただきますのでご安心ください』
「ごめん、遠慮しておきます……」
「安心しろ、ラピスは去勢済みだ」
奴隷となった蒼きスライムは、もはやぼくの分身ともいえるほどに通じあっている。こいつがぼくの命令を破って女性を襲うことはない。
むろんぼく自身も、そんな趣味の悪いものは見たくなかった。
「それよりも、生まれたばかりのスライムってことは、まだスキルは持ってないよな……無視してすぐに出発するのが得策か?」
ぼやきながら、ぼくは見張りに使えると思って手元に置いておいた、磯部の双眼鏡をのぞき込んだ。
「ん?」
発光しながら乱舞する複数のスライムは、なにかと戦っていることに気づく。
「ラピス、相手は誰なのかわかるか?」
『スキル【察知】を使用します――特定しました。夜光スライムと交戦中のモンスターは三体。クラス【ドラゴン】のリザードマン、クラス【アンデッド】のマミー、そして――』
ラピスは一拍の間を置いた。
『最後の一人はクラス【魔王】、です』
如月さんが息をのんだ。
「魔王……魔王が、こんな場所にいるの? スライムの次はいきなり魔王なんて……仲間になるなら世界の半分をやろうって聞かれたとき、どっちを選ぶかあたしまだ決めてないよ!」
「やかましい、落ち着け」
ぼくは如月さんの脳天にチョップをする。
「痛い……でも、魔王とスライムが戦ってるって、仲間割れかな?」
「いや、スライムたちのクラス特性【属性特効】【属性耐性】の中には、どっちも魔王が含まれていた。この世界のスライムは、【異世界勇者】よりも強い上に【魔王】をよりも強い……ぼくらがそうであったように、魔王たちもスライムのエサなんじゃないか?」
「スライムの下剋上か……B級映画っぽいよね」
「それが現実なら、受けとめるしかない。とりあえず、いってみる」
「へ、平気かな……」
ぼくが決断すると、如月さんは表情を曇らせた。
「人間相手にまったく話にならなかったんだ……だったら、次はモンスターにあたってみるべきだ」
「でも、古河くんが危なくない?」
如月さんは、ぼくの身を案じているらしい。
「……大丈夫だ。危険なようだったら、すぐに戻る。如月さんは、福原さんたちを起こして、いつでも出発できる準備をしててくれ」
「うん……き、気をつけてね」
返事をする代わりに、彼女の頭を軽く叩いた。
走りだすぼくの背中に、彼女の声が投げかけられる。
「さっき、キスしなくて正解だったね! 死亡フラグ立てちゃうところだったよ!」
ずっこけそうになるのを、なんとか踏みとどまった。
古河奏人のスキル……11個




