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30話 相反する殺陣

 数さえあれば。悪は正義にも扱われる。


 全ては妖狐の為に。保護派と暗殺派は袂を別つ。

 それぞれの権力という矛が影に潜み、様々な思惑が見えない力によって侵略されている。勝者を選ぶ一攫千金のロシアンルーレットに、悪い意味で助長させた有権者の戯れは、計り知れない破滅と繁栄を天秤に乗せていた。


 ある者は醜悪な争いを歓迎し、ある者は静観を貫き通すばかりで顔に表さない。失われた者には音沙汰を隠す。奪われていく者は幸福の最期を見届けるだけ。 


 求められてきたハズの模範回答が返ってこないように。


 ―――この戦いに意味など無い。


 たとえ誰かが口を揃えたとしても、本懐に抱えた闘争心は余計に滾らせていた。


 酷く築き上げた従来の習性は一層と活性化する。

 

 他者を軽蔑する文化が未だに途絶えないのは、植え付けられたシステムに未だに依存されているからだと声を発しても、彼らは耳を傾けもしないで身勝手な思想を押し付ける。強引な価値観を言葉の暴力によって黙らせるように。


 結局。気付いても手遅れなのだ。

 規模が大きいだけの、捻くれたエゴイストに過ぎないということを。


 能ある鷹は知っている。


「……八咫烏の大半が妖狐の討伐を望んでいる。保護側の派閥として由々しき事態なのは一目瞭然。日付が変わると共に彼らは口を一斉に揃える。誰も望まれてない争いなのに、どうして今もなお様子を見届けているのか」


 埋められない溜め息を溢したうずめは、疑問が晴れないままでいた。


「これは、作為的に仕向けたものだと、私はそう考えている」


 妖狐の素質を携える少女。

 その少女を野放しにした組織は二ヶ月も停滞して。今日に至るまで何も進展してはいなかった。


 過去に振り返ればロクな思い出しかない。


 メンターと八咫烏に与する一名の人物が名前を言ってはいけない彼女に波動を奪われ、陰陽界を引退して二年。隠居したトップの欠けた組織は規律が脆くなり、名声を地盤にするだけのキャリア達を寄せ集めた友好会と化してしまう。


 更には外部からの侵入者の対策を怠った結果、各地の事件に撹乱され、同胞達は派閥の力を借りて騒動を起こし、妖狐の復活を期に波乱をもたらすことに。


 今日を境に。


 代表達はそれぞれ思惑を乗せて号令を掛けた。


 まるで事前に仕組まれていたことを推測していたかのような、想定通りの意向は組織全体を覆うように掻き乱す。


 特に機関の意を反する五反田仙吾は相当の厄介者だ。

 経済界に影響力を与えた人物でもあり、未来を見る『鏡眼』を備えた行動力の化身は、強引に組織を統べてしまい、暗殺派に力を傾けようとする方策に他の代表達は予期せぬ事態に危機感を露わになっていた。


「このままでは機関を脅かす暴君となってしまう。これ以上、罪もない犠牲が増える未来を望んでいない。それでも、あなたはどうするつもり?」


「んー? どうするって言われましても?」


 素っ気なく苦笑いを浮かべては頬を掻く少女。


 神楽坂聖。


 うずめの足止めとして面する相手は陰陽刀を構えており、それに相対するようにうずめは銃口を向けている。一時交戦を挟んだ後に膠着状態が続き、風力発電機の羽根が空しく時計回りを繰り返す。


「ま、言われた通りに遂行するだけですかねー」


「そう、あの惨状に気付いても、その業務に徹した回答を貫き通すつもりか」


「私はただ最善を尽くすために、つまらない野次馬を追い出したいだけです。これ以上暴れてもらうと都合が悪くなるのは東雲さんも分かりますよね」


 遠い何処かで妖狐と陰陽師が一方的な交戦を起こす。

 加えて衝動に刈られた闇討ちが登場。三つ巴の波乱には手のつけようがなく、事態は最終局面に迎える。


 ただ、妖狐の波動を感知した二人にはどうも策略を備えているようで、


「東雲さんでも無理なんですよ。もちろん私もですけど。余計に民間の侵害が酷くなるばかりなので。お気持ちは分かると思いますが、被害を最小限抑える為には、ちょっとした忍耐が必要でして……」


「電撃を放つことが貴女が言う忍耐に繋がるとでも? 神経質にも程があるわ」


「だって~、いきなり私を見て逃げるのが悪いんですよ?」


 陰陽刀を振り翳す。

 忽ち空気を弾く火花が衝突。


 空中を蛇腹に動き回る電気の網状がうずめを狙う。


 積極的に陰陽刀で素振りをする聖に何の罪悪感も示さない。

 予備動作を見過ごさなかったうずめの方は途端に距離を置いてトリガーを引く態勢を取る。別の屋上に後方回転で飛翔しながら伸びる電気の針を照準し、波動の弾丸を発砲させると衝撃を相殺させた。


 しかし、着地する地点を狙う聖は攻撃を加える。


「よいしょっ!」


 網状の電気は円柱になぞって一斉放射。一点に集中する電磁砲のサーカスは容赦なくうずめを気絶させる為に加速させていく。


「拳銃縛りですか?」

「……ハズレ」


 言葉を告げると共にうずめは波動の弾丸を放つ。

 その刹那、右手に具現化させた陰陽刀の一閃が煌めいて、放った波動の弾丸を切り裂いた。散逸した弾丸の残骸を電磁砲にぶつけた。


 途端、甲高い金属音と渇いた轟音が炸裂する。


 凄まじい暴風が屋上を駆け抜け、見えない衝撃が踊り狂わすが、爆心地に降り立つ両者に傷らしき痕跡はない。空中に舞う埃を払う程度に過ぎなかった余興の類いは軽めの運動と何も変わらない。


 互いは何食わぬ顔で陰陽刀を構え、そして臨む。


 出会した時点で疑心は沸騰しており、険悪な雰囲気が闘争を助長させる。機関の中に潜む内通者を告発する立場の身、二人の対立は明らかに茶番劇だろう。両者の執念は間違えていなくても、居場所のない冤罪が生じていた。


 会話が成立しないと想定しているからこそ。


 相手は聞く耳を持たず、刀を向けて人を傷付けてしまう。


 そんな不毛の同士討ちに終止符を打つとしたら、うずめは誰も傷付けない選択を模索する。得意の手腕を発揮させる為の口実として、やはり職業柄である交渉術を行うしか他に方法はないだろう。


 だからなのか。

 うずめは瞳を閉じて。ため息を吐いた。


「……貴女は気付いているかもしれないけれど、あの集団催眠は何? 随分と混乱を招くような手段を取るのがお好きなようね」


「何かを含んだような発言ですねー。自分はやってないと言いたいんですか?」


「強いて言うなら貴女達や妖狐。陰陽師と四代目でもない。誰にでも該当しない、混乱を利用した確信犯が何処かに潜伏している。とでも言っておけば、貴女が掲げる意見が意図も簡単にひっくり返るとでも?」


「ひっくり返らないから、いつまでも決着が付かないじゃないですか」


 スナック感覚で電流を放つ聖に対して。

 陰陽刀で淡々と捌くうずめは目の色を変えず、空いた左手に拳銃を持ちながら辺りに弾丸が発射され、銃口に火花が飛び散る。


 勢いを乗せた弾丸は途中で有り得ない軌道を描いた。予測不可能なほどに空中を動き回る弾丸に、聖は陰陽刀を身構え、攻撃の姿勢を取った。


「ねずみ花火のような……、でも、敵じゃない!」


 対抗する為の電気を放出。鋭い放電は乱雑に飛び交う弾丸を打ち落とすべく、ジグザグと不規則な動きで追撃を狙う。更に聖は正面に佇んでいるうずめに向けて、刀の先端から紫色の電気が一直線に走らせる。


 肉体を貫き、精神だけを攻撃するビーム状の電撃。


 ケリを付けるには後味が悪いものの、聖にはその選択しか決めていない。

 確信を得る聖は電磁砲をおみまいさせようと身構えるが、正面にいたハズのうずめは居らず、むしろ刀を両手に持ちながら飛び掛かる彼女の姿を捉えた。


 このまま。ビーム状の電撃を太刀打ちするように。


「じ、自爆するつもりですか!? こんなの無謀にも程があるって!」

「無謀と思うのなら、貴女自身を心配してなさい」

「嘘でしょ……」


 聖が静かに驚嘆すると共に。


 空中を動き回る弾丸に全ての電気が一つに伝っていく。

 撃墜する為の放電が。うずめに向けて放つビーム状の電撃が。予測不可能だった軌道が衛星のようにうずめの周辺を回って。


 帯電した弾丸。

 あれが電気を蓄積し、避雷針の代わりとなって電撃を無効化にさせていた。


「そうですか、避雷針か……ッ!」

「形勢逆転よ」


 振り出しに戻された聖は刀で応戦。


 それをうずめは棟で受け流し、腕力で聖の陰陽刀を弾こうとするが、盾の役割を引き受ける衛星の弾丸がいつの間にか上空に忍び寄っていた小さな電球に吸い寄せられては衝突して木っ端微塵にされる。


「!?」

「手数を明かさない方が、賢明、なんですよ!」


 うずめの刀を弾き、斬りかかる姿勢を取る聖。しかし左手に拳銃を構えていたうずめの方は体勢を崩しても銃口を向けるのを止めない。

 トリガーを引く間際に聖はその銃口を切先で塞ぎ、暴発を誘導させるが、両手の握力が込められた陰陽刀で拳銃を一刀両断。



「―――勝った」



 誰かが瞬きをすると。


 ―――聖の陰陽刀が鮮やかに宙に吹き飛んでいた。

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