第6話 異世界の女神様
眩しい。
そう思って、目を閉じた。
いや。
閉じていた目を、もう一度開けた。
「……森?」
最初に見えたのは、木だった。
一本や二本ではない。
何本もの巨大な木が、空を覆うように立ち並んでいる。
木々の隙間から、まだ低い位置にある太陽が見えた。
風が吹く。
葉が揺れる。
どこかで鳥の鳴き声がした。
湿った土と、草の匂い。
白くない。
天井もない。
壁もない。
床も--
「土だ……」
りそなは身体を起こした。
背中についていた枯れ葉が、ぱらぱらと落ちる。
「本当に転生したんだ……」
身体を軽く動かしてみる。
違和感はない。
むしろ--
「なんか、身体軽くない?」
立ち上がり、軽く屈伸する。
事故に遭う前より、明らかに身体が軽い。
服装も変わっていた。
白いシャツに革のベルト。
膝丈のスカート。
足元には革のブーツ。
腰には小さな鞄。
そして--
「……剣?」
腰に剣が下がっていた。
柄に手をかける。
少し引き抜くと、鈍い銀色の刃が姿を現した。
「本物じゃん……」
思わず息を呑む。
竹刀なら何度も握った。
だが、これは違う。
人を斬れる。
生き物を殺せる。
本物の剣だ。
ゆっくりと鞘へ戻した。
改めて周囲を見回す。
木。
木。
木。
どこを見ても森。
人の姿どころか、道らしいものさえ見当たらない。
「ちょっと待って」
りそなは立ち上がった。
「いきなり森の中に放置?!」
『放置やないで』
驚いて飛び上がる。
「誰!?」
『そんな驚かんでもええやん』
「驚くわよ! どこにいるの!」
『目の前や』
「目の前?」
誰もいない。
そう思った瞬間、目の前の空間が淡く光った。
光が集まり、人の輪郭を作っていく。
長い髪。
白を基調とした衣。
整った顔立ち。
見た目だけなら二十代半ばくらいだろうか。
光が消える。
女性は、りそなに向かってにっこりと笑った。
「初めまして、白石りそなさん」
「……誰?」
「リュミエラや。この辺を担当しとる女神やね」
「女神?」
「そうやで」
りそなは女性を上から下まで眺めた。
「本物?」
「本物や」
「羽は?」
「ないなぁ」
「頭の輪っかは?」
「それもない」
「後光は?」
「いる?」
「いや、別に」
「出せるけど」
「出せるんだ」
リュミエラの背後が、ぱあっと輝いた。
「眩しい! 消して!」
「はいはい」
光が消える。
「なんか、思ってた女神と違う……」
「どんな女神想像しとったん?」
「もっとこう……神々しいというか、威厳があるというか」
「さっき後光出したやん」
「ただ眩しいだけ」
リュミエラが苦笑する。
「それで……ここがオルネシア?」
「そうや」
リュミエラが両手を広げた。
「惑星オルネシア。今日からあんたが暮らす世界や」
りそなは自分の身体を見下ろした。
「この身体は?」
「基本的には前の身体と一緒や。
こっちで生活できるように調整はしとるけど、
年齢も外見もほとんど変えとらんよ」
「十七歳?」
「十七歳」
「よかった……」
「何が?」
「目を覚ましたら三十歳とかだったら泣くところだった」
「ご希望やったら……」
「や・め・て・ね!」
危ない。
女神に余計なことを言うものではない。
「ほな、説明始めよか」
「お願いします」
「まずはステータスやな。管理局でも聞いとると思うけど、
こっちでは自分の状態を確認できるんよ」
「ああ、それね」
管理局で局長に見せてもらったものを思い出す。
「ステータス、でいいんだっけ?」
「そう。やってみ」
「ステータス」
目の前に半透明の画面が現れた。
「あ、これ……」
見覚えがある。
管理局で局長が見せてくれたステータス画面だ。
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【名前】 :白石りそな
【年齢】 :17
【種族】 :ヒト属・ヒト科(特異個体)
【HP】 :20(+10)
【MP】 :50(+45)
【体力】 :40(+20)
【知力】 :45
【素早さ】 :30(+10)
【魔力操作】:45(+45)
【運】 :50(+40)
【スキル】 剣術Lv.2、生活魔法Lv.2、隠蔽Lv.2、改変Lv.2
【ユニークスキル】 マインドリーディングLv.3
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「剣術……」
「剣道やっとったんやろ?」
「うん。でも剣道と剣術って同じなの?」
「同じやないよ」
リュミエラは首を横に振った。
「ただ、構え、間合い、足運び、相手の動きを見ること。
そういう経験は、無駄にはならん」
「だからLv.2?」
「せやけど勘違いしたらあかんで」
「何が?」
「剣道の試合と真剣での戦いは別物や」
腰の剣を見る。
「……分かってる」
「魔物は面を打たれて一本取られたからって、止まってくれへんからな」
「そりゃそうでしょ」
「腕を噛まれることもある。腹を角で刺されることもある。
食われることもある……
そして、食われることもある」
「分かった! 怖い説明はもういい!」
「大事なことやから2回言ったで」
リュミエラは笑った。
「それと、ステータスの数字やな」
「これ、高いの?」
「括弧の中に数字があるやろ?」
「うん」
「それが、うちの加護で上乗せされとる分や」
「女神リュミエラの加護?」
「そうや」
自分の能力値を見直した。
「じゃあ、括弧の分を引いたのが本来の私?」
「だいたいそう考えてええよ」
「体力は……」
数字を見て、少し考える。
「剣道やってた分も反映されてる?」
「もちろん。元の身体や経験を基準にしとるからな」
「うちの加護で身体能力はかなり底上げしとる。
あと、魔力操作は、こっちへ来るまで使ったことないやろ?」
「じゃあ私、魔法も使えるの?」
「先に覚えてもらわなあかんことがあるからな、
詳しいことはあとで説明するわ」
「まだあるの?」
「いっぱいあるで」
「異世界、面倒くさい……」
りそなはスキル欄へ視線を戻した。
「隠蔽と改変」
「それは、マインドリーディングを隠すためにうちが付けた」
「この世界の人もステータス画面を見られるんだよね?」
「自分のステータスなら普通に見られる。
他人のも、鑑定系のスキルや魔道具なんかで確認できることがある」
「だったら、これがそのまま見えたら……」
「マインドリーディング持ちやってバレるな」
「まずいじゃん」
「せやから隠蔽と改変や」
リュミエラがスキル欄を指す。
「隠蔽は、見せたくない情報を隠す」
「改変は?」
「表示そのものを別の内容に変える」
「マインドリーディングを別のスキルに見せることもできる?」
「できるで」
「能力値を低く見せるのも?」
「できる」
「女神特典?」
「まあ、そんなとこやな」
再び、マインドリーディングの文字を見る。
「これ……本当に心が読めるの?」
「試してみる?」
「あなたで?」
「ええよ」
リュミエラの目を見る。
意識を集中する。
すると--
(~ちゃんと発動するかなぁ~)
「ちゃんと発動するかなぁ?」
リュミエラの目が大きくなった。
(~お、成功や~)
「お、成功や」
(~この子、おもろいなぁ~)
「この子、おもろいなぁ」
(~貧相な胸やな~)
「殺すぞ、コラ!」
「え?」
リュミエラが一歩下がった。
「……なるほど」
りそなは笑った。
「これは便利ね」
「便利やけど」
リュミエラの表情が少し真面目になった。
「その能力だけは、簡単に人に知られん方がええ」
「どうして?」
「逆の立場で考えてみ」
嘘が分かる。
感情が分かる。
そして考えていることまで分かれば--
「ああ……」
すぐに理解した。
「絶対、近くにいてほしくない」
「やろ?」
「権力者なら欲しがるかもしれない」
「あるやろな」
「逆に、秘密を知られたくない人からは……」
「消されるかもしれへん」
「最悪じゃん」
「強い能力ほど、使い方は考えなあかん」
「分かった」
りそなは頷いた。
「誰にも言わない」
「それがええ」
ステータス画面を閉じた。
「で、私はこれからどうすればいいの?」
「まずはグレヴァンやな」
「グレヴァン?」
「この森を抜けたところにある街や。
詳しい行き方は、魔法の説明が終わってから教えたる」
「まだ説明あるんだった……」
「いっぱいある言うたやろ?」
「はいはい」
その瞬間。
森の奥から--
グルルルル……。
低い唸り声が聞こえた。
りそなの表情が固まった。
「……ねえ」
「ん?」
「今の何?」
リュミエラが森の奥を見る。
「ああ」
茂みが揺れた。
ガサッ。
りそなの右手が、自然に剣の柄へ伸びた。
茂みが、もう一度揺れた。
「ちょうどええわ」
「何がよ!」
「次は魔物について説明しよか」
「今!?」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
当作品は、毎週 水曜日、金曜日、日曜日に更新予定です。
「なんで女神が関西弁やねん!」って突っ込みはカンベンしたってや。
作者は関西弁に憧れる東北育ちです。
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よろしくお願いします。




