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特異個体 ~転生先は別サーバー~ 死んだらNPCだった私たちは、異世界でプレーヤーを狩ることになりました  作者: NOTAI
第三章 ――二人目の特異個体――

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第24話 時間管理局

 気がつくと、愛華はバスターミナルに立っていた。


「……あれ?」


 目の前を、一台の高速バスが走り出していく。

 見覚えがあるどころではない。

 自分が乗ったバスだ。


「なんで……?」


 愛華は走り出したバスを目で追った。

 後部座席の窓に人影……。


「……え?」


 見覚えのある服。

 見覚えのある顔。


「私……?」


 愛華は自分の身体を見る。

 手もある。

 足もある。

 自分は確かにここにいる。


「どういうこと……?」


 バスはそのまま遠ざかり、やがて見えなくなった。

 愛華はしばらく、その場に立ち尽くしていた。


 こういう時に真っ先に考えるのは、チャンネルを移動した可能性だ。

 愛華は意識を切り替えようとした。


 ――カチッ。


 周囲の色が変わる。


「……移動はできる」


 もう一度切り替える。


 ――カチッ。


 元の景色へ戻った。

 いつもと変わらない。

 愛華は首を傾げた。


「じゃあ、ここはどこ?」


「能登愛華さんですね」


 突然、後ろから声をかけられた。

 愛華が振り返る。

 見知らぬ男女が立っていた。


「はい」


 二人を見る。


「どなたですか?」


「時間管理局の者です」


「時間管理局?」


 聞いたことがない。


「あなたに説明するために来ました」


「私に?」


「はい」


 男が愛華を見る。


「ここは、あなたが居てはいけない世界です」


「…………」


 愛華は周囲を見回した。


「どういうことですか?」


「あなたは、本来いた時間から過去へ移動しています」


 愛華の表情が変わった。


「あなたが普段移動しているのは、同じ世界に存在する別のチャンネルです」


(そんなことまで知ってるの?)


「今回は時間軸を移動しています」


「時間軸……」


 愛華は、バスが消えた方向を見る。


「それで、あのバスに私がいたの?」


「はい」


「あれは別の私?」


「いいえ。あなたです」


「…………」


「少し先の時間から移動してきたあなたと、

 この時間に元々存在しているあなた。同じ能登愛華です」


 愛華は少し考えた。


「じゃあ、今は私が二人いるってこと?」


「はい。そして、それが問題です」


「問題?」


「本来、この時間に能登愛華は一人しか存在しません。

 しかし、あなたが肉体を持ったまま時間軸を移動したことで、

 同じ時間に二人の能登愛華が存在することになった」


 男が続ける。


「その瞬間、元の世界線とは異なる事象が発生し、

 新たな世界線が分岐しました」


「…………」


 愛華はもう一度、バスが消えた方向を見る。


「私が時間を移動したから、世界が分かれたってこと?」


「簡単に言えば、そういうことです」


「そんなこと、できるわけ……」


 愛華は黙った。


 自分が乗ったバスを自分で見送った。

 目の前で起きたことを考えれば、否定する方が難しい。


「これはタイムパラドックスです。非常に危険な状態です」


「どうして、こんなことになったんでしょう?」


「詳しく調べる必要があります」


「……そっか」


「同行していただきます」


 愛華は二人を見る。


「時間管理局に?」


「はい」


「分かりました」


 男が少し意外そうな顔をした。


「抵抗しないのですか?」


「だって、私も何が起きたのか知りたいから」


 愛華はもう一度、バスが消えた方向を見る。


「それに、帰り方も分からないし」


「では、移動します」


 女が愛華の腕に細い輪を取り付けた。


「これは?」


「念のための措置です」


「分かりました」


 カチャリ、と音がする。

 次の瞬間、景色が消えた。


        ◇


 白い部屋だった。

 愛華は周囲を見回す。


「ここが時間管理局?」


「はい」


 先ほどの女が答えた。


「こちらへ」


 愛華は椅子に座った。

 腕には、先ほど取り付けられた輪が残っている。


「それ、もう外してもらえます?」


「まだ外せません」


「どうして?」


「あなたの能力を封印しています」


「能力……」


 愛華は輪を見る。


「チャンネル移動も?」


「はい」


 試しに意識を切り替える。


 ――カチッ。


「…………」


 何も変わらない。


 もう一度。


 ――カチッ。


 やはり白い部屋のままだ。


「本当だ」


 こんなことは初めてだった。


「どうして全部封印するんですか?」


「今回の時間軸移動が、あなたの能力によるものと考えられるからです」


「チャンネル移動の?」


「はい」


 女は愛華の前に座った。


「あなたが以前から

 肉体ごとチャンネルを移動していたことは把握しています」


「うん」


「ですが今回、その能力がこれまでとは異なる軸にまで及んだ」


「時間軸?」


「はい」


 愛華は少し考えた。


「能力が変わったってこと?」


「覚醒した、と考えるのが適切でしょう」


「覚醒……」


「何らかのきっかけで、これまで移動できなかった時間軸まで

 移動できるようになった可能性があります」


「でも、私、自分で移動した覚えないですよ」


「だから封印しました」


「ああ……」


 愛華は納得した。


 いつものチャンネル移動なら、自分で移動しようと思って切り替える。

 今回は違う。

 気がついたら、あのバスターミナルにいた。


「勝手にまた移動したら危ないってこと?」


「はい」


「そっか」


 愛華は腕の輪を眺めた。


「じゃあ、今はこのままでいいです」


「ご理解いただけて助かります」


 愛華は顔を上げる。


「それより、あのバスは?」


 女が愛華を見る。


「その後、事故に遭います」


 愛華の表情が変わった。


「事故……」


 記憶が蘇る。


 運転席に立つ女性。

 運転手と重なる姿。

 急加速。

 悲鳴。

 ハンドルが切られ――。


「そうだ……」


 愛華は額に手を当てた。


「思い出した……

 あの人が……」


 昨日、霊界の入口まで送った女性が戻ってきて、

 自分を一緒に連れていこうとした。


「バスの事故、あの人が……」


 愛華はそこで言葉を止めた。


 なぜ戻ってきた?


 確かに霊界の入口まで送った。

 光へ向かって歩き出すところも見た。

 なのに翌日、あの女性は戻ってきた。


「…………」


「能登愛華さん?」


「いえ……何でもないです」


 今は、事故の原因より確認したいことがある。


「私はどうなったんですか?」


「事故の直前、元の世界線から消失しています」


「消えた?」


「はい」


「それが、ここにいる私?」


「はい」


 愛華は自分の身体を見る。


「じゃあ、死んだわけじゃないんですね」


「あなたは生きています」


「そっか……」


 愛華は小さく息を吐いた。

 そして、すぐに別のことに気づく。


「他の乗客は?」


「我々の管轄ではありません」


「……そうですか」


 気にはなる。

 だが、今ここで考えても何もできない。


「元の世界には戻れますか?」


「技術的には可能ですが、戻すことはできません」


「どうして?」


「元の世界線から能登愛華が消失したことは、すでに確定しています」


「……?」


「あなたが消失した時点から先の時間には、

あなたが存在しない未来がすでに形成されています」


「じゃあ、私が戻ったら?」


「その未来から、さらに別の世界線が派生します」


愛華は眉をひそめた。


「別にいいじゃん。戻ってきたってことにすれば」


「そうはいきません」


局員は淡々と答えた。


「あなたは普通に死亡したのではなく、

 自分自身の能力で時間軸を移動して世界線から離脱したんです」


「……」


「あなた一人を戻すために、あなたが消失した時点から

 先の時間軸を修正し、並行世界を再構築する必要があります」


「……私一人のために?」


「正確には、あなたが戻ることで影響を受ける、

 すべての事象に関してです。

 その処理には地球を維持する膨大なリソースが割かれることになります。

 時間管理局としては、

 あなたを元の世界線へ生きたまま帰還させることは容認できない」


 父の顔が浮かんだ。

 そして、庭先で待っているはずのヤコの顔も。


「……分かりました」


 急に悲しくなった。

 もう、家に帰れない。

 父にも、母にも会えない。

 ヤコにも。

 (もう、戻れないんだ……)


「それで、私はこれからどうなるんですか?」


「空間管理局へ移管します」


「空間管理局?」


「はい」


「そこなら、私のことが分かるんですか?」


「本来、あなたが死亡した場合の手続きは、

 空間管理局が受け持つ予定でした」


「ここに来たのは、私が時間を移動して、世界線まで分かれたから?」


「はい。本来、時間軸と並行世界軸は、我々の担当です。

 ですが、あなた自身の処遇は空間管理局の管轄となります」


 愛華はうなずいた。


「分かりました」


「では、移送の準備をします」


 女が立ち上がった。


 愛華は白い部屋に一人残される。


 腕の輪を見る。

 意識を切り替えてみる。


 ――カチッ。


 何も起きない。


「……変な感じ」


 能力が覚醒したと言われても、実感はない。


 ただ――


 自分が知っていた世界より、世界はずっと広かったらしい。

 時間を移動した。

 その結果、新しい世界線が生まれた。

 そして、それを管理する者たちがいる。


 しばらくして、女が戻ってきた。


「能登愛華さん。準備が整いました」


「はい」


 愛華は立ち上がる。

 何もなかった空間が、ゆっくりと歪んだ。


「この先?」


「はい。空間管理局へ移動します」


 愛華は歪んだ空間を見つめる。


「分かりました」


 一歩踏み出しかけて、止まる。

 振り返っても、白い部屋があるだけだった。

 家には帰れない。

 それがまだ、現実のこととは思えなかった。


「行きます」


 愛華は歪んだ空間へ足を踏み入れた。

 視界が白く染まる。


 そして――。


 愛華の姿は、時間管理局から消えた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

次回『第25話 空間管理局』は10月30日(金)公開予定です。

ブックマークや★などで応援いただけると執筆の励みになります!

よろしくお願いします。


本作品『特異個体 ~転生先は別サーバー~』は、

「カクヨム」「ネオページ」でも公開しています。

毎週 水曜日、金曜日、日曜日に更新予定です。

投稿作業の都合などにより、サイトによって最新話の公開が

多少前後する場合があります。

あらかじめご了承ください。

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