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特異個体 ~転生先は別サーバー~ 死んだらNPCだった私たちは、異世界でプレーヤーを狩ることになりました  作者: NOTAI
第一章 ――空間管理局――

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第2話 死んだら役所みたいなところにいました その1

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


 白かった。


 目を開けた瞬間、白石りそなが最初に思ったのは、それだった。


 天井が白い。

 壁も白い。

 床も白い。


「……どこ?」


 身体を起こした。


 何もかも白い。

 窓もない。

 扉もない。

 家具さえない。


 そして--


「痛くない……」


 自分の身体を見る。

 制服を着ている。

 血はついていない。

 触ってみる。

 ちゃんと感覚もある。

 でも、おかしい。


 覚えている。


 バス。

 運転手。

 ガードレール。

 悲鳴。

 砕けたガラス。


 身体が宙に浮いて--


「私……」


「はい。死んでます」


「うわっ!」


 りそなは飛び上がった。

 さっきまで誰もいなかったはずの白い部屋に、二人の男が立っていた。


 一人は五十代くらい。

 グレーのスーツ。

 白いワイシャツ。

 地味なネクタイ。

 少し出た腹。

 どこにでもいそうな中間管理職にしか見えない。


 もう一人は三十歳前後。

 こちらは紺のスーツ。

 細身。

 黒縁眼鏡。

 手にはタブレットらしきものを持っている。


「誰!?」


 りそなが叫んだ。

 二人が同時にこちらを見る。


「ああ、失礼」


 年上の男が咳払いした。


「自己紹介がまだだったね」


 ネクタイを直す。


「私は空間管理局、第三区域管理部の局長を務めている者だ」


「……空間管理局?」


「そう」


「で」


 若い方を見る。


「あんたは?」


「局員です」


「名前は?」


「業務上必要ありません」


「感じ悪っ」


 りそなは二人を見比べた。

 どう見ても普通のサラリーマンだ。

 というより。


「……役所の人?」


「惜しい」


 局長が笑った。


「役所みたいなものだ」


「じゃあ、ここどこ?」


「空間管理局」


「それは聞いた」


「話が早くて助かる」


(このオヤジ!)


 局長が指を鳴らすと、何もなかった床に、椅子が三脚現れた。


「話が長くなるから、座って聞くといい」


 警戒しながらも、そのうちの一脚に腰を下ろした。

 局長と局員も、残る椅子に座る。


「私、バスに乗ってて……事故って……」


「うん」


「さっき、この人、死んでるって」


「死んでるよ」


 あっさり言われた。

 りそなは黙った。

 局長も黙る。

 局員も黙る。


「……本当に?」


「本当に」


「私、死んだの?」


「死亡時刻、八時二十七分十四秒」


 局員がタブレットを見る。


 自分の胸に手を当ててみる。

 心臓が動いている。……ような気がする。

 呼吸もしている。……ような気がする。


「じゃあ……ここ、天国?」


「違う」


「地獄?」


「違う」


「三途の川?」


「違う」


「じゃあ何なのよ!」


「だから空間管理局だ」


「それが分かんないって言ってるの!」


「まあ、そうなるよな」


 局長は困ったように頭をかいた。


「毎回ここが面倒なんだ」


「マニュアル通り説明してください」


「マニュアル長いんだよ」


「規則です」


「分かってる」


「監査で指摘されますよ」


「分かってるって」


 局長はため息をついた。

 それから、りそなを見る。


「白石りそなさん」


「……何で名前知ってるの?」


「それも含めて説明する」


 少しだけ、声の調子が変わった。


「今から君に、君が生きていた世界がどういうものだったのかを説明する」


 りそなは眉をひそめた。


「世界?」


「そう。少々ショックを受ける内容もある」


「死んだって言われた直後なんだけど」


「そうだった」


「それ以上のショックって何?」


「あるんだな、これが」


 りそなは二人を睨んだ。


 妙だ。

 どう考えても妙だ。

 死後の世界だというのに、神々しさが一切ない。

 目の前にいるのはスーツ姿の男二人。

 片方は疲れた管理職。

 片方は融通の利かない部下。

 それだけだ。


「……あんたたち、本当に人間?」


 何気なく聞いた。

 局長と局員が顔を見合わせた。


「どうする?」


「開示して問題ありません」


「そうか」


 局長がりそなに向き直った。


「違うよ」


「え?」


「人間じゃない」


 局長が自分の顔を指差した。


「これも君に合わせて表示しているだけだ」


「表示?」


「本当は目が五つあるんだけど、そのままだと君、引いちゃうだろ?」


「……」


 りそなは一歩下がった。


「ほら」


「いやいやいや!」


「だから隠してる」


「そういう問題じゃない!」


「五個あると便利だぞ」


「聞いてない!」


「立体視の精度が--」


「局長」


「なんだ」


「脱線しています」


「そうだった」


 りそなは額を押さえた。

 頭がおかしくなりそうだ。


「昔は楽だったんだけどねえ」


 局長がぼやいた。


「何が?」


「こういう説明」


 局長は懐かしそうに腕を組んだ。


「昔は『私が神だ』とか言って適当に転生させれば良かったんだけど、

 最近は倫理委員会がうるさくてね……

 人工知能や多次元空間論が一定レベルに成熟した世界の知的生命体には

 ちゃんと説明しなきゃいけないルールになってるんだ」


「ちょっと待って」


「ん?」


「今、転生って言った?」


「あ」


 局長が止まった。

 局員がタブレットに何か入力する。


「説明手順違反、一件」


「……まあいいか」


「よくないでしょ!」


「いずれ説明することだ」


 局長は開き直った。


「とりあえず順番に行こう」


 何もない空間へ手を伸ばす。

 すると突然、目の前に一本の線が現れた。


「うわっ」


「これは分かるね?」


「……線?」


「そう。一つの方向にしか移動できない。これを一次元とする」


 線が広がり、平面になる。


「二次元」


 さらに厚みを持つ。

 立方体になった。


「そして三次元」


「それくらい知ってる」


「結構」


 局長は立方体を指で回した。


「君が生きていた世界は、

 基本的にはこの三つの空間座標によって認識されている」


「基本的には?」


「ここからが本題だ」


 立方体の横に、もう一つ立方体が現れた。


 さらにもう一つ。


 十個。


 百個。


 無数の立方体が白い空間を埋めていく。


「何これ……」


「全部、三次元世界だ」


「三次元世界?」


「君たちは普段認識できないが、もう一つ空間座標がある」


 局長が指を動かす。

 一つの立方体が光った。


「四つ目の空間座標を変更すると--」


 別の立方体が光る。


「別の三次元世界へ移動できる」


「別の三次元世界?」


「そう、便宜上これを「チャンネル」って言おうか。

 君たちが霊界と呼んでいるもの」


 別の立方体。


「神界」


 別の立方体。


「妖精界。天界。天国。地獄。魔界。冥界--まあ呼び方はいろいろある」


「待って」


「どうぞ」


「天国と地獄、本当にあるの?」


「ある」


「神様も?」


「神と呼ばれている存在はいる」


「幽霊も?」


「いる」


「妖精は?」


「いる。

 妖精も、妖怪も、天使も、レプティリアンや小さいおじさんだっている」


「宇宙人?」


「山ほどいる」


「河童」


「いる」


「マジで!?」


「河童に食いついたな」


「だって河童よ!?」


「局長」


「なんだ」


「また脱線しています」


「もういい」


 局長が無数の世界を消した。


「要するに、君たちが神話や宗教、伝承として認識していた世界の多くは、

 完全な創作ではない」


「……じゃあ、死んだ人間は天国とか地獄に行くの?」


「場合による」


「何それ」


「そこは君たちの世界の神と呼ばれる存在にゆだねてる」


「で、これらのチャンネルを区別するのが、四つ目の空間座標だ」


「四次元って時間じゃないの?」


「一般的な呼び方では、そう思うよな」


 局長が頷いた。


「君たちの世界では、便宜上そう説明することが多かった。

 でも我々の座標系では時間軸と空間軸は別管理だ」


「じゃあ時間旅行もできる?」


「できる」


次話、18時頃投稿予定です。

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