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特異個体 ~転生先は別サーバー~ 死んだらNPCだった私たちは、異世界でプレーヤーを狩ることになりました  作者: NOTAI
第二章 ――近未来視の魔女――

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第19話 領都レグナード

 それから二週間ほど経った、誕生会当日の昼過ぎ。

 りそなはグレヴァン冒険者ギルドの前で、

 何度目か分からないため息をついた。


「……本当に、この格好でいいのかな」


 白いシャツに膝丈のスカート。腰にはいつもの剣。

 冒険者としては普段通りの格好だが、

 これから向かう先はローデン辺境伯令嬢の誕生会である。


「服は向こうで用意するって言ってた」


 隣に立つボーノが言った。


「それは聞いたけどさあ……」


 ボーノは気にしている様子もない。


「貴族の誕生会だよ?」


「飯が出るんだろ」


「そこ?」


 ある意味、羨ましい。

 そんな会話をしていると、通りの向こうから一台の馬車が近づいてきた。


 黒塗りの車体。

 扉には見覚えのない紋章が描かれている。

 通りを歩いていた人々が、その馬車に気づいて道を空けていく。


「……もしかして、あれ?」


 馬車はまっすぐギルド前までやって来ると、りそなたちの前で止まった。

 御者とは別に、身なりの整った初老の男が降りてくる。


「リソナ様、ボーノ・フレミング様でございますね」


「は、はい」


「ローデン辺境伯家より、お迎えに上がりました」


 男は流れるような動作で頭を下げた。

 周囲から視線が集まる。

 ギルドの入口にいた冒険者まで、何事かとこちらを見ていた。


 使用人が馬車の扉を開ける。


「どうぞ」


 ボーノが先に乗り込み、続いてりそなも馬車へ乗った。


     ◇


 グレヴァンを出た馬車は、整備された街道を進んでいた。


 りそなは座席に腰を沈める。

 柔らかい。

 振動も思ったほど伝わってこない。


「馬車って、もっとガタガタするものだと思ってた」


「こちらは長距離移動用、特別に造られた馬車でございますので」


 向かいに座る使用人が答えた。


「へえ……。貴族って馬車まで違うんだ」


「ボーノ、乗ったことある?」


「こんなのはない」


「だよね」


 少し安心した。

 窓の外には、グレヴァン周辺ではあまり見なかった

 広い畑や牧草地が続いている。


「レグナードって、ここから遠いんですか?」


「馬車で四時間ほどでございます」


「結構かかるんだ」


「街道がよく整備されておりますので、

 比較的行き来しやすい距離ではございます」


「レグナードが領都なんですよね?」


「はい」


 りそなは首を傾げた。


「でも、グレヴァンの方が大きいって聞いたことがあるんだけど」


「人口や商業規模では、その通りでございます」


 使用人は丁寧に答える。


「グレヴァンは大森林から得られる魔石や魔物素材、

 薬草などが集まる交易都市です。

 冒険者も多く、領内では最も人の集まる街でございます」


「じゃあ、どうしてレグナードが領都なの?」


「レグナードは、もともと国境防衛のために築かれた

 城砦都市だからでございます」


「城砦都市?」


「はい。ローデン辺境伯家は代々、この地域の国境防衛を担っております。

 そのため、政治と軍事の中心はレグナードに置かれております」


「なるほど……」


 りそなは窓の外を眺めながら頷いた。


「グレヴァンが商売と冒険者の街で、

 レグナードが政治と軍隊の街って感じ?」


「大まかには、その認識で差し支えございません」


「分かりやすい」


 りそなはボーノへ目を向けた。


「ボーノはレグナードに行ったことある?」


「ある」


「どんなところ?」


「壁がでかい」


 使用人がわずかに笑った。


「確かに、城壁はレグナードを象徴するものの一つでございます」


     ◇


 それからしばらく。

 窓の外に広がっていた畑と森の向こうに、灰色の線が見え始めた。


「……ん?」


 りそなは窓に顔を近づける。

 線は、近づくにつれて高さを増していく。


「え……」


 巨大な石壁だった。

 グレヴァンにも城壁はある。

 だが、まるで違う。

 レグナードを囲む城壁は、街を囲っているというより、

 外敵を拒絶するための巨大な防壁そのものだった。


 城壁の上には兵士の姿があり、一定の間隔で高い塔が設けられている。


「……街っていうより要塞じゃない」


「はい。もともとは要塞ですので。

 最初に城砦が築かれ、その周囲へ少しずつ市街地が広がり、

 現在のレグナードとなりました」


 りそなは窓の外から目を離せなかった。

 グレヴァンとは、まるで違う。

 同じ辺境伯領の中でも、こんなに街の雰囲気が違うのか。


「すごいなあ……」


 馬車は城門へと近づいていく。

 門の前には商人らしい荷馬車や旅人たちが列を作っていた。


 だが、りそな達の乗った馬車は列へ並ばなかった。

 そのまま大きな城門の横へ進んでいく。

 そこには、一般用より小さな別の門があった。

 守衛が馬車を見る。

 扉に描かれた紋章を確認すると、すぐに姿勢を正した。


 門が開く。

 馬車は一度も止まることなく中へ入った。


「え?」


 りそなは後ろを振り返る。


「こちらは貴族および公用の門でございます」


「……素通り?」


「辺境伯家の馬車ですので」


「エレノアって、本当にお嬢様だったんだね……」


「最初からそう言ってただろ」


「分かってたけど、こういうの見ると実感するの!」


     ◇


 レグナードの街中をしばらく進み、馬車は大きな屋敷の前で止まった。


「到着いたしました」


 りそなは馬車から降り、建物を見上げた。


「……これが屋敷?」


 広大な敷地。

 立派な門。

 綺麗に整えられた庭。

 その奥には大きな館が建っている。


「城じゃん」


「城ではございません」


 玄関前には複数の使用人が並んでいた。

 その中央に、見慣れた少女がいる。


「リソナさん!」


 エレノアが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「来てくださったんですね!」


「約束したからね」


「ボーノさんも、ありがとうございます」


「ああ」


 エレノアの後ろには、立派な身なりをした壮年の男。

 その隣には、上品なドレスを身にまとった女性が立っていた。


「よく来てくれた」


 辺境伯が穏やかに言う。


「娘の招待を受けてくれたこと、感謝する」


「いえ、こちらこそ……」


 りそなは慌てて頭を下げた。

 こういう時の礼儀作法など知らない。

 とりあえず頭下げとこ……うん、日本人だね~。


「あなたがリソナさんね」


 女性が微笑んだ。


「妻のセリーヌだ」


 辺境伯が紹介する。


「娘を助けてくださったと聞いております。本当にありがとうございました」


「い、いえ。たまたま居合わせただけなので」


 真正面から感謝されると、どうにも落ち着かない。

 りそなはちらりと隣を見る。

 ボーノはいつも通り黙っていた。

 こういう時だけ、少し羨ましい。


「お二人とも、まずは中へ」


 エレノアが笑顔で促した。


     ◇


 屋敷の中へ入ると、りそなは数人の女性使用人に囲まれた。


「では、採寸をさせていただきます」


「今?」


「はい。お召し物の最終調整がございますので」


 肩幅、腕の長さ、腰回り。

 使用人たちが手際よく測っていく。

 りそなは少し離れたところにいるボーノを見た。


「……ねえ」


「はい?」


「ボーノの服、本当にあるの?」


「ご安心ください」


 使用人は涼しい顔で答えた。


「以前お会いした際、ガルド様がお二人のおおよその寸法を

 目測で確認しております。

 すでに衣装は用意しておりますので、本日は

 最終調整のみでございます」


「目測で!?」


「騎士として装備品を扱う機会も多いため、

 人の体格を見極めることには慣れておられます」


「ガルドさん、そんなことまでできるんだ……」


「騎士だ」


 ボーノが言った。


「騎士ならみんなできるの?」


「知らん」


     ◇


「宴が始まるのは夕方です。それまでは客間でお休みください」


 エレノアにそう言われ、りそなとボーノはそれぞれ別の部屋へ案内された。

 扉が閉まる。


「…………」


 りそなは部屋を見回した。


 大きなベッド。

 立派な机。

 柔らかそうな椅子。

 壁には絵画。

 窓際には小さなテーブルまで置かれている。


「これ、客間なんだ……」


 思わず呟く。

 家具も、室内の広さも、どこかの宿の一室とは比べものにならない。


 りそなは椅子に腰を下ろした。

 落ち着かない。

 何を触っていいのかも分からない。


「じっとしてよう……」


 下手に何かを壊したら洒落にならない。


     ◇


 夕刻。


「失礼いたします」


 数人の女性使用人が部屋へ入ってきた。

 そこからは、りそなの知らない世界だった。


 服を着替え。

 髪を整え。

 化粧まで施される。


 自分で軽く化粧くらいはしたことあるけど……

 この世界の化粧品って、なんか色味がドギツい!

 あと、匂いも強め……


 しばらくして、大きな鏡の前へ立たされた。


「…………」


 りそなは鏡を見た。


 いつもの冒険者姿とはまるで違う。

 ちょっと派手なドレス。

 整えられた髪。

 ドギツい化粧。


「大変よくお似合いでございます」


「そ、そうなの?……」


 褒められても反応に困る。

 そのまま使用人に案内され、廊下へ出る。


 少し先に礼装姿のボーノが立っていた。


「……ボーノ?」


「俺だ」


「分かってるよ」


 りそなはまじまじと見る。


「なんか……ちゃんとして見える」


「普段は違うのか」


 いやいや、君、普段はぼーっとしてるだろ?


     ◇


 二人は使用人に案内され、屋敷の奥へ進んでいった。


「こちらでございます」


 大きな扉の前で使用人が立ち止まる。

 扉が開いた。


「…………」


 りそなの足が止まった。

 広い。

 まず、それが第一印象だった。


 高い天井。

 豪華な照明。

 長いテーブル。

 正装した男女。

 あちこちで談笑する人々。


 ざっと見ただけでも、四十人――いや、五十人近くはいる。

 さらに給仕や使用人たちが忙しそうに行き交い、

 各出入口には数名ずつ護衛の騎士が配置されていた。


「…………」


「どうした」


 ボーノが訊く。

 りそなは目を瞬かせた。


「内輪だけの小さなパーティーって言ってたじゃん……」


 目が点になる。

 使用人が微笑む。


「本日は、ごく親しい方々のみをお招きしております」


「五十人くらいいるの?」


「従者や護衛を含めますと、さらに多くなります」


「貴族の常識、怖い……」


 りそなが呟く。


「こちらへどうぞ」


 案内された席を見て、りそなはさらに固まった。

 会場の隅ではない。

 中央。

 しかも、辺境伯一家が座る主催者席のすぐ近くだ。


「……なんでここ?」


「お二人はエレノア様の大切なお客様でございますので」


 周囲から視線を感じる。

 貴族らしい人々が、こちらを見ながら何か話している。

 りそなは小さく肩を縮めた。


「帰りたい」


「飯はこれからだぞ」


「ボーノは本当にブレないね……」


 やがて招待客たちが席につき始める。

 広間のざわめきが徐々に収まっていった。


 ローデン辺境伯が立ち上がる。

 会場が静まり返った。


「本日は、娘エレノアのためにお集まりいただき、感謝申し上げる」


 その声が広間に響く。


 穏やかな雰囲気の会場。

 笑顔を浮かべる招待客たち。

 料理の香り。

 静かに控える使用人と護衛騎士。


 ――ん?


 りそなは、わずかに眉を寄せた。

 違和感?

 マインドリーディングを使ったわけではない。

 でも、妙な違和感。


 賑やかで、穏やかで、楽しげな空気。

 その中に――ほんのわずかに、場違いな何かが混じっている。


「……殺意?」


 りそなの表情から、笑みが消えた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


本作品『特異個体 ~転生先は別サーバー~』は、

「カクヨム」「ネオページ」でも公開しています。

毎週 水曜日、金曜日、日曜日に更新予定です。


投稿作業の都合などにより、サイトによって最新話の公開が

多少前後する場合があります。

あらかじめご了承ください。


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