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特異個体 ~転生先は別サーバー~ 死んだらNPCだった私たちは、異世界でプレーヤーを狩ることになりました  作者: NOTAI
第二章 ――近未来視の魔女――

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第20話 近未来視の魔女

 ――何、今の……?


 りそなは周囲を見回した。

 大勢の招待客。

 その間を行き交う使用人たち。

 壁際に立つ護衛の騎士。


 誰もがエレノアの誕生日を祝っている。


 けれど、何かがおかしい。


 意識を集中する。

《マインドリーディング》


(~ エレノア様も、もう十五歳か ~)

  (~ 今年もずいぶん人を呼んだものだ ~)

(~ あの料理、美味しそう…… ~)

  (~ あの娘は誰だ? 冒険者だと聞いたが…… ~)


 いくつもの思考が重なり合う。

 その中に――。

 あった。


 殺意。


 誰?

 誰が、誰を殺そうとしてる?


 エレノアのすぐそば。

 一人のメイドが、果実水の入った瓶を手にしていた。


(~ すぐには効かない ~)

(~ 乾杯が終わっても、しばらくは何も起こらない ~)


 メイドがエレノアのグラスへ果実水を注ぐ。


(~ あとは予定通り―― ~)


 ――毒!


「それでは皆様――」


 ローデン辺境伯の声が響いた。

 広間にいる客たちが次々とグラスを手に取る。


「エレノアの十五歳の誕生日を祝して――乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 乾杯の声が広間に響いた。

 会場内のグラスが一斉に掲げられた。


「飲んじゃダメぇ!!」


 りそなの大声が広間に響き渡った。


 エレノアの手が止まる。

 楽団の演奏まで途切れ、

 さっきまで賑やかだった広間が嘘のように静まり返った。

 何十人もの視線が、一斉に彼女へ集まる。


 りそなは、エレノアのグラスを指さした。


「毒よ」


 ざわっ、と広間が揺れた。


「そのメイドを取り押さえて!」


「なっ……!」


 名指しされたメイドが息を呑む。

 だが、騎士たちは動かなかった。


 突然、招待客の少女が毒だと叫んだのだ。

 それだけで辺境伯家に仕えるメイドを取り押さえていいものか、

 判断できずにいる。


「取り押さえろ!」


 辺境伯の一喝で、騎士たちが動いた。


「はっ!」


 二人の騎士がメイドの両腕を掴む。


「お待ちください!」


 メイドは抵抗せず、声だけを張り上げた。


「私は何もしておりません!

 お嬢様のお飲み物に毒を盛ったなど、言いがかりです!」


 そして、りそなを睨みつける。


「そこまでお疑いになるのでしたら、そのグラス、私が飲みます!」


 広間がざわめいた。


(~ 飲んでやる ~)

(~ この程度なら、すぐには死なない ~)

(~ 隙を見て解毒剤を―― ~)


 りそなは小さく息を吐いた。


「飲んでもいいけど」


 メイドの視線がりそなに向く。


「内ポケットに入ってる解毒剤は使わせないわよ」


「――っ!」


 メイドの顔が強張った。


「調べろ」


 辺境伯が命じる。

 騎士の一人がメイドの衣服を確認し、

 内ポケットから小さな包みを取り出した。


「閣下、これが……」


「くっ……!」


 メイドがりそなを睨みつける。

 その目に浮かんでいるのは、はっきりとした憎悪だった。


「そのグラスと、今の薬を調べろ。誰にも触れさせるな」


「はっ!」


 辺境伯の命令で、エレノアのグラスが慎重に回収される。


「リソナ……」


 エレノアが青ざめた顔で自分のグラスを見送った。


 まだだ。


 さっき、この女は――。


(~ どうして分かった? ~)

(~ 計画を知っていた? いや、そんなはずはない ~)

(~ 料理長のことまで知られているはずは―― ~)


「へぇ」


 りそなの声に、メイドの思考が止まった。


「料理長もグルなんだ?」


「――!」


 メイドの顔色が変わった。

 直後。


 ――ガシャァン!!


 広間の奥から、激しくガラスの割れる音が響いた。


「なんだ!?」


「厨房の方だ!」


 騎士たちが一斉に振り返る。


「見てまいります!」


 数人の騎士が広間を飛び出した。

 りそなも窓際へ駆け寄る。


 庭の向こうを、一人の男が走っていた。

 白い調理服。

 さっき料理を運ぶ使用人たちに指示を出していた男だ。


「料理長!」


 誰かが叫んだ。

 男は振り返らない。

 必死に庭を駆け抜けていく。


 そして――その思考が、りそなの中へ飛び込んできた。


(~ 逃げなければ……! ~)

(~ 捕まるわけにはいかない! ~)

(~ こんなところで捕まったら―― ~)


 恐怖。

 焦り。


(~ 娘が殺される! ~)


「……え?」


 りそなの表情が変わった。


 ――人質?


 料理長を追って、すでに一人の護衛騎士が庭へ飛び出していた。

 その姿を目で追った瞬間――。


(~ この間抜けが! ~)


 今度は、その騎士の思考が飛び込んできた。


(~ 大人しくしていればよかったものを! ~)


 騎士が剣を抜く。


(~ お前はもう用済みだ! ~)


(用済み……?)


 りそなの背筋に悪寒が走った。


     ◇


 しばらくして、料理長を追った騎士が広間へ戻ってきた。

 その剣には、べっとりと血が付いていた。

 騎士は辺境伯の前まで進むと、片膝をついた。


「閣下」


「料理長は?」


「追いついたところ、剣を奪おうと抵抗しましたので――」


 騎士は頭を下げる。


「やむなく、切り捨てました」


 広間がざわめく。

 辺境伯は険しい表情で騎士を見下ろした。


「……そうか」


 りそなが騎士をじっと見つめる。


(~ これで一人消えた ~)

(~ あとは―― ~)


 りそなはそっとボーノのそばへ移動した。


「ボーノ」


「なんだ」


 声を落とす。


「あの騎士、怪しい」


 ボーノが騎士を見る。


「警戒して」


「分かった」


 ボーノはそれ以上何も聞かなかった。

 ただ、さりげなく立ち位置を変える。

 辺境伯と護衛騎士の間に、いつでも割って入れる位置へ。


 そのときだった。


「ぐっ……!」


 苦しげな声が上がった。


「おい!」


 拘束されていたメイドの身体が、突然大きく痙攣した。

 メイドの口元から血が流れている。


「口を開けろ!」


 だが、メイドは一度大きく身体を震わせると、そのまま力を失った。


「毒です!」


「自害したのか……?」


 りそなは動かなくなったメイドを見つめた。

 これで、直接問い詰められる人間はまた一人減った。


 そして、ゆっくりと血の付いた剣を持つ護衛騎士へ向き直る。


「残念ね」


「……何がだ」


「辺境伯に出す料理の毒も、もうバレてるわよ」


「何のことだ!」


(~ なぜそれを知っている!? ~)


「これから依頼主への報告?」


「…………」


「倉庫街の三番倉庫は、あなた一人で行くのかしら?」


「――!」


 騎士の顔色が変わった。

 広間にいる誰もが、その変化を見ていた。


「貴様……」


 騎士の手が、剣の柄へ伸びる。


「そこまで知っているのか!」


 剣が抜かれ、騎士は辺境伯へ向かって踏み込む。


 だが――。


 その前に、巨体が動いた。


 ドゴッ!!


「ぐはっ!」


 ボーノの拳が、騎士の顔面をまともに捉えた。

 騎士の身体が宙を浮き、そのまま床へ叩きつけられる。

 剣が乾いた音を立てて転がった。


「…………」


 騎士は動かない。

 広間も静まり返っていた。

 りそなは倒れた騎士とボーノを交互に見る。


「……死んでないよね?」


「手加減した」


「そ、そう……」


 うん、なら大丈夫なのだろう。…たぶん。


     ◇


 倒れた護衛騎士は、すぐに別の騎士たちによって拘束された。

 気を失っているだけで、命に別状はないらしい。


 厨房も調べられ、辺境伯に出される予定だった料理から毒が見つかった。

 エレノアのグラスと、メイドが隠し持っていた解毒剤についても

 調べられることになった。


 華やかな誕生日パーティーは、完全に中断していた。

 楽団の演奏は止まり、料理に手をつける者もいない。

 先ほどまで笑い声に満ちていた広間では、

 招待客たちがひそひそと言葉を交わしている。


 その視線の多くが、りそなに向けられていた。


「リソナ」


 呼ばれて振り返る。

 ローデン辺境伯が立っていた。


「ありがとう。助かった」


「いえ……」


「君がいなければ、私はもちろん、エレノアまで失っていた」


 もし、あのまま果実水を飲んでいたら。

 犯人たちが逃げたあと――。

 エレノアも死んでいた。


「私からも、本当にありがとうございました」


 エレノアが深く頭を下げた。


「でも……」


 エレノアは少し迷うような表情を見せてから、尋ねた。


「どうして分かったんですか?」


「え?」


「私のグラスに毒が入っていること、メイドが解毒剤を持っていることも……

 料理長のことも、あの騎士のことも」


「あ……」


「それに、倉庫街の三番倉庫まで」


「…………」


 言葉に詰まった。


 ――どうしよう。


 本当のことは言えない。

 この能力が知られたら、どうなるか。

 でも、これだけのことをしてしまった以上、

 何も説明しないわけにもいかない。


 だったら――。


 りそなは小さく息を吸った。


「私の能力は……近未来視です」


「近未来視?」


 エレノアが聞き返した。


「うん」


 もう後には引けない。


「直近で、私の近くで起きることが見えるの」


「未来が……見える?」


「そう。そして――」


 少し考えてから続けた。


「それを阻止することができる能力」


 しん、と広間が静まり返った。


 次の瞬間。


「おお……」


 誰かが声を漏らした。

 そこから一気にざわめきが広がった。


「未来を見るだと?」


「そんな能力、聞いたことがないぞ」


「だから毒が分かったのか!」


「暗殺者の逃げる場所まで見えていたということか?」


「凄い……」


(ゴマかしたつもりだったんだけど‥‥)


 りそなは曖昧に笑う。

 ――なんか、思ったより大事になってない?


「近未来視……」


 誰かが呟いた。


「まるで魔女だな」


「近未来視の魔女、か」


「近未来視の魔女……」


 その言葉が、波紋のように広がっていく。


「近未来視の魔女だ!」


「冒険者のリソナだろう?」


「ああ、グレヴァンの冒険者だ」


「リソナ……覚えておこう」


「近未来視の魔女、リソナ……」


 ……りそなの頬が引きつった。


 ふと、隣を見る。

 ボーノが腕を組み、妙に納得したような顔で頷いていた。


「……ボーノ?」


「なるほど」


「何が?」


「今までのことだ」


「…………」


「魔物の正確な数が判ったり、攻撃を予知したり!」


「あー……」


 りそなは目を逸らした。

 どうやら勝手に辻褄を合わせてくれたらしい。


「……ま、まあ、そういうこと」


「そうか」


 ボーノはそれ以上追及しなかった。


     ◇


 ローデン辺境伯暗殺未遂事件。

 それは、瞬く間にレグナードの貴族や商人たちの間で噂になった。


 誕生日パーティーには、多くの貴族とその付き人、

 護衛たちが居合わせていた。

 噂が広がらないはずがなかった。


 エレノアのグラスに仕込まれた毒を見抜き。

 暗殺に加担した料理長を言い当て。

 さらに辺境伯を狙う毒まで見抜いた。

 そして、仲間に紛れ込んでいた暗殺者まで暴いた少女。


 その少女には――未来が見える。


 話は商人から商人へ。

 冒険者から冒険者へ。

 貴族から別の領地の貴族へと伝わっていった。

 そして噂というものは、広がるほどに尾ひれがつく。


 多くの目撃者、それぞれが見たもの、聞いたものを語り、

 話は瞬く間に膨らんでいった。

 未来を見通し、暗殺を未然に防いだ少女。

 ローデン辺境伯親子の命を救った冒険者。


 ――《近未来視の魔女》。


 その二つ名とともに、

 冒険者リソナの名は瞬く間に王国中に知れ渡ることとなった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


本作品『特異個体 ~転生先は別サーバー~』は、

「カクヨム」「ネオページ」でも公開しています。

毎週 水曜日、金曜日、日曜日に更新予定です。


投稿作業の都合などにより、サイトによって最新話の公開が

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