第14話 狂戦士
銀の小鹿亭に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。
「うわぁ……リソナ、その服どうしたの?」
りそなの姿を見るなり、フィアが目を丸くした。
「ちょっと森でね」
「ちょっとって……」
白いシャツの袖は裂け、スカートにも
何かに引っかけたような破れ目ができている。
フィアは呆れた顔をしながら、りそなの服を受け取った。
「これくらいなら直せるよ。ちょっと待ってて」
「ありがとう。助かる」
着替えを済ませたりそなは、フィアが針を動かす横で椅子に座った。
「そういえば、フィア」
「ん?」
「私、パーティー組むことになった」
「えっ、本当?」
フィアが顔を上げる。
「うん。ギルドで勧められてね。
明日から一緒に依頼を受けることになったの」
「へえ。どんな人?」
「ボーノ・フレミングっていう人」
ぴたり。
フィアの手が止まった。
「……ボーノ?」
「うん」
「ボーノさんって……あのボーノさん?」
「たぶん、そのボーノさん」
フィアは針を持ったまま、まじまじとりそなを見る。
「リソナ、ボーノさんとパーティー組んだの!?」
「そうだけど……そんなに驚くこと?」
「だって、ボーノさんだよ?」
どうも話が噛み合わない。
「ボーノさんって、この街じゃ結構有名なんだよ」
「有名?」
「うん。冒険者なら、たぶん知らない人はいないんじゃないかな」
りそなは首を傾げた。
確かにあの巨体だ。
一度見れば忘れないという意味なら納得できる。
「……大きいから?」
「違うよ」
即答された。
フィアは少し声を落とした。
「『狂戦士』ボーノ」
「…………」
誰の話だ、それ。
りそなの頭に浮かんだのは、
昨日、大森林からの帰り道で出会った寡黙な大男だった。
「狂戦士?」
「何年か前にね、事件があったの」
フィアが再び針を動かし始める。
「Cランクの冒険者パーティーが、新人を連れて森に入ったんだって。
ボーノさんも、そのパーティーの荷物持ちとして一緒にいたの。
それで森で魔物に襲われたとき、
自分たちが逃げるために新人を置き去りにしたんだって」
「……最低」
りそなの声が低くなる。
「ボーノさんが助けに行った時には、その新人……助からなかったって……
それで街に戻ってから、ボーノさんが……」
「怒った?」
「ものすごく」
ギルドでCランクパーティーのリーダーを殴った。
一発。
二発。
止めに入ったパーティーの仲間も吹き飛ばした。
それでもボーノは止まらなかった。
「最後はギルドにいた冒険者たちが総出で飛びかかって、
やっと止めたんだって」
「……総出?」
「うん」
「…………」
「リーダーは?」
「半殺し」
「…………」
りそなの脳裏に、昨日会ったボーノの姿が浮かぶ。
口数が少なく。
妙に真面目で。
あの巨体で、森を歩きながら薬草を探していた男。
そして、ギルドの冒険者たちが総出で止めなければならなかった男。
--あれ?
もしかして私、結構ヤバい人とパーティー組んだ?
「それで『狂戦士』?」
「そう。でもね」
フィアは縫っていた服を持ち上げ、出来栄えを確認した。
「怖がってる人ばかりじゃないよ。
新人を見捨てたパーティーは処罰されたし、
ボーノさんも暴力を振るったことで処分を受けたみたい。
でも、それからは揉め事なんて起こしてないし、普段はすごく温厚だし……
ずっと一人で真面目に依頼をこなしてるらしいよ」
「そうなんだ」
「ギルドの人たちも、ボーノさんのことは信用してると思う」
それなら分かる。
昨日少し話しただけでも、悪い人間ではないことくらいは分かった。
「はい、できた」
「早っ!」
受け取ってみると、破れていた場所がほとんど分からなくなっていた。
「フィア、すごいね」
「これくらい普通だよ」
「いや、普通じゃないって、ありがと」
りそなが笑うと、フィアも笑った。
部屋へ戻り、ベッドに横になる。
明日からは一人ではない。
あの大男と一緒に依頼を受けることになる。
目を閉じると、最後に浮かんできたのは、やはりボーノの姿だった。
--狂戦士、か。
どう考えても、昨日会った男と結びつかない。
マインドリーディングで何か分かるかもしれないけど……
本人が考えてもいないことまで探れるわけじゃないし。
とりあえずは……
「……怒らせないようにしよっと」
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