第11話 魔物とマインドリーディング
「……フォレストウルフ?」
リュミエラの言葉を思い出す。
「一匹見たら、他にもおると思った方がええ」
「まさか……」
左の茂みが揺れた。
一匹。
右にも。
もう一匹。
「三匹……」
剣を抜いた。
「聞いてないんだけど」
いや。
聞いていた。
完全に聞いていた。
「逃げ--」
一匹が地面を蹴った。
「っ!」
正面。
剣を振る。
かわされた。
「速い!」
ホーンラビットとは違う。
一直線に突っ込んでくるだけではない。
こちらの動きを見て、方向を変える。
残る二匹も左右へ広がっていく。
「囲むつもり?」
一匹が右へ。
もう一匹が左へ。
「まずい……」
右から来た。
剣を振る。
避けられた。
その直後。
「きゃっ!」
左から体当たりを受けた。
地面へ転がる。
「痛っ……!」
起き上がる。
剣はある。
まだ握っている。
「連携してる……」
三匹が再び距離を取った。
「こいつら、考えてる」
りそなの動きが止まった。
「……考えてる?」
自分で口にした言葉。
考えている。
なら--
「読める?」
三匹を見る。
意識を向ける。
マインドリーディング。
今まで人間に使う能力だと思っていた。
でも。
空間管理局では言っていた。
人間も。
動物も。
自律思考型の存在。
「だったら……!」
集中する。
人間のような言葉は聞こえない。
だが。
何かがある。
感情。
敵意。
興奮。
そして--
正面の一匹から、強い攻撃の意思。
「来る!」
直後。
フォレストウルフが飛び出した。
「分かった!」
動き出す前に分かった。
横へかわし剣を振る。
「っ!」
浅い。
刃が背中をかすめただけ。
「ギャン!」
だが、初めてまともに当たった。
「使える!」
残る二匹へ意識を向ける。
左。
敵意が膨らむ。
「左!」
振り向く。
来た。
剣で受ける。
「くっ!」
重い。
分かっていても、身体が追いつかない。
牙が刃を滑る。
爪が腕をかすめた。
「痛っ!」
血が滲む。
「読めても無敵じゃないってことね……!」
右。
強い殺意。
「次は右!」
振り向く。
間に合った。
飛びかかってきたフォレストウルフへ剣を突き出す。
刃が肩へ入った。
「ギャッ!」
一匹が転がる。
「よし!」
だが。
背後。
突然、強烈な敵意。
「後ろ!?」
振り返る余裕はない。
身体を前へ投げ出す。
背中を爪がかすめた。
「っ!」
地面を転がる。
「痛い……!」
立ち上がる。
三匹。
一匹は背中に傷。
一匹は肩を負傷。
もう一匹は無傷。
こちらは腕と背中をやられている。
「ギリギリじゃん……」
息が上がる。
剣を握る手も震えている。
それでも。
さっきとは違う。
攻撃される直前。
意思が動く。
敵意が一方向へ集中する。
「読める……」
どんな攻撃をするかまで、正確に分かるわけではない。
それでも。
どの個体が。
いつ攻撃しようとしているのか。
ほんの一瞬だけ早く分かる。
「それだけでも……!」
十分だった。
一匹の敵意が急激に強くなる。
「来る!」
正面。
飛びかかる。
半歩ずれる。
今度は先に剣を振らない。
ぎりぎりまで待つ。
「今!」
すれ違いざま。
剣を振り抜いた。
「ギャッ!」
一匹が倒れる。
「一匹!」
残り二匹。
一匹は肩を負傷している。
次。
どっちだ。
見る。
感じる。
右--
「違う!」
右の個体から敵意を感じる。
だが、攻撃の意思ではない。
牽制。
本命は--
「左!」
振り向く。
負傷した一匹が低い姿勢で迫っていた。
「そこ!」
剣を振り下ろす。
重い感触。
二匹目が地面へ倒れた。
「あと一匹……!」
最後の一匹と向き合う。
「はぁ……はぁ……」
もう腕が重い。
足も痛い。
息も苦しい。
フォレストウルフも仲間を二匹失っている。
低く唸る。
そして。
強烈な敵意。
「来る!」
真正面。
速い。
「っ!」
分かっている。
でも。
「間に合わ--!」
牙が迫る。
りそなは身体を捻った。
肩へ衝撃。
「きゃっ!」
倒される。
フォレストウルフが身体の上へ乗る。
「うそ……!」
牙が顔へ迫る。
剣は横。
振れない。
「このっ……!」
柄を両手で押し上げる。
牙を必死に止める。
「重い……!」
顔まで数十センチ。
涎が落ちてくる。
「冗談……じゃ……!」
腕が震える。
押し負ける。
そのとき。
フォレストウルフの意識が流れ込んできた。
首。
喉。
そこへ噛みつこうとしている。
「分かって……るっての!」
りそなは突然、抵抗を緩めた。
フォレストウルフの身体が前へ崩れる。
同時に身体を横へ捻る。
牙が首の横を通過した。
「今!」
剣を引く。
至近距離。
ほとんど力任せに刃を振った。
フォレストウルフの身体が跳ねた。
そして。
動かなくなった。
「……」
りそなも動けなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
しばらく空を見上げる。
「死ぬかと思った……」
本当に。
あと少し遅ければ、喉を噛み切られていた。
身体を起こす。
三匹のフォレストウルフが倒れている。
「勝った……」
嬉しい。
というより。
「生きてる……」
そのことの方が大きかった。
そして。
自分の手を見る。
「マインドリーディング……」
人の嘘や感情を見抜くためだけの能力ではない。
戦闘でも使える。
相手が考える生き物なら。
攻撃しようとする意思を読める。
「これ……かなり使えるんじゃない?」
ただし。
腕の傷を見る。
背中も痛い。
身体中、泥だらけだ。
「読めても、身体がついてこなきゃ意味ないけど」
万能ではない。
だからこそ。
使い方を覚えれば、もっと強くなれる。
剣についた血を拭った。
「剣術とマインドリーディング……か」
少しだけ。
自分の戦い方が見えた気がした。
◇
「帰ろ……」
もう十分だった。
薬草二十四束。
ホーンラビット一匹。
スライム一匹。
フォレストウルフ三匹。
「初仕事の内容じゃないでしょ……」
受付嬢に文句を言いたい。
もちろん、受付嬢のせいではない。
「生きて帰ってくる冒険者が、良い冒険者……ね」
今なら、その意味がよく分かる。
膨らんだ採取袋を肩へ掛けると……
「痛っ」
傷に響いた。
「帰ったら治療しなきゃ……」
剣を鞘へ収める。
陽は傾き始めている。
グレヴァンへ戻るなら、急いだ方がいい。
森の出口へ向かって歩き始める。
初めての依頼。
薬草採取。
それだけじゃ済まなかったけど……
それでも--
「二十四束か」
袋を見る。
少しだけ笑う。
「いくらになるかな」
結局、そこは気になる。
りそなはグレヴァンへの帰路についた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
毎週 水曜日、金曜日、日曜日に更新予定です。
ブックマークや★などで応援いただけると執筆の励みになります!
よろしくお願いします。




