第10話 初依頼……薬草採取だけじゃ終わらない
また、この森……
りそなは大森林の入口で立ち止まった。
昨日、
ここから必死になってグレヴァンを目指した。
ホーンラビットと戦い。
初めて生き物を殺し。
ようやく森を抜け。
ようやく街へ着いた。
そして冒険者になった。
その結果--
「戻ってきちゃった」
大森林。
人生とは、ままならないものである。
「まあ、仕事だから仕方ないか」
肩から下げた袋を確認する。
依頼はアリネ草の採取。
最低十束。
それ以上は追加で買い取ってもらえる。
「どうせなら、いっぱい採って帰りたいわね」
問題は魔物だ。
腰の剣へ手をやる。
「無理に戦う必要はない、か」
受付嬢にも言われた。
これは討伐依頼ではない。
魔物を見つけたら逃げてもいい。
いや、むしろ逃げた方がいい。
「家に帰るまでが遠足!」
……ん?違う。
「生きて帰ってくる冒険者が、良い冒険者」
なのだ。
「よし。今日は薬草だけ」
りそなは森へ入った。
◇
「ない」
十分後。
「ない」
二十分後。
「……ない!」
三十分後。
りそなは地面を睨んでいた。
「どこにあるのよ、アリネ草!」
草なら大量にある。
むしろ草しかない。
問題は、その中から目的の草を見つけることだった。
細長い葉。
縁に小さな鋸歯。
根元が赤い。
ギルドで図鑑を見せてもらった。
ちゃんと覚えたつもりだった。
しかし。
「これ?」
しゃがむ。
葉を見る。
「違う」
次。
「これ?」
根元を見る。
「赤くない」
次。
「これは……」
よく似ている。
慎重に葉を確認すると、
縁に小さなギザギザ。
根元を見る。
赤い。
「あった!」
ようやく一株目である。
「これよね?」
周囲を見る。
当然、誰も答えてくれない。
「自分で考えるんも人生や、だっけ」
リュミエラの口調を真似してみる。
受付嬢に教わった通り、根を残して葉と茎を採取した。
一束目。
「あと九束」
先は長い。
◇
コツが分かると、意外と見つかった。
「七、八……九」
あと一束。
最低納品数まで、もう少し。
「これ、楽勝じゃない?」
最初こそ苦労したが、特徴を覚えてしまえば簡単だった。
しかも、アリネ草は一株だけで生えているとは限らない。
一つ見つけると、周囲に何株か生えていることもある。
「十束で終わるのはもったいないわね」
追加分は買い取ってもらえる。
手持ちのお金は少ない。
宿代(風呂付)。
食事代。
装備も必要になるかもしれない。
「採れるだけ採って帰ろ」
そう決めたときだった。
--ガサッ。
「……」
りそなの動きが止まった。
茂みを見る。
「まさかね」
--ガサガサッ。
「……いるよね」
ゆっくり立ち上がる。
右手を剣の柄へ。
茂みから飛び出してきたのは--
「またあんた?」
ホーンラビット。
「薬草だけって決めたんだけど」
当然、通じない。
ホーンラビットが頭を下げ、
りそなは剣を抜いた。
「仕方ない」
前回と同じ。
相手を見る。
間合いを見る。
動き出す瞬間を見る。
なんとなく--
「来た!」
横へかわす。
剣を振る。
--外した。
「また!?」
ホーンラビットが着地する。
「剣術Lv.2だからって、自動で当たるわけじゃないのね」
もう一度構える。
焦らない。
引きつける。
ホーンラビットが地面を蹴る。
三メートル。
二メートル。
一メートル。
「今!」
横へかわす。
すれ違いざまに剣を振った。
重い感触。
ホーンラビットが地面を転がる。
「……」
動かない。
剣には血が付いていた。
「うっ……」
前回ほどではないが、
やはり気持ち悪い。
「慣れたくないな……」
剣についた血を草で拭う。
「でも、死にたくもないし」
りそなは剣を鞘へ戻した。
◇
しばらくして、小さなスライムにも遭遇した。
「おお、本当にいた」
淡い緑色の身体が、草の上でぷるぷると揺れている。
「ちょっと可愛い--」
スライムが跳ねた。
「え?」
顔へ飛んでくる。
「うわっ!」
左腕で庇う。
べちゃっ。
「ぎゃ! 何これ!」
腕へ張り付いた。
振っても取れない。
「スライムって弱いんじゃないの!?」
誰に文句を言っているのか、自分でも分からない。
剣を抜こうとして止まる。
「これ斬ったら自分の腕も斬るじゃん!」
近くの木へ腕ごと叩きつける。
一回。
二回。
三回。
ようやくスライムが地面へ落ちた。
「おりゃぁ!」
剣を振り下ろす。
スライムが大きく震え--動かなくなった。
「はぁ……」
服には粘液。
腕も少し赤くなっている。
「最悪……」
生活魔法を使う。
「洗浄」
粘液と汚れが消えた。
「……便利」
地味だと思っていた生活魔法。
認識を改める必要がありそうだ。
◇
「そろそろ帰ろうかな」
採取したアリネ草は二十三束。
袋もかなり膨らんでいる。
陽も傾き始めた。
「あと一束だけ」
そう決めた直後。
「あった」
こういうときだけ妙に運がいい。
二十四束目を採取する。
「よし。帰ろ」
立ち上がった。
--ガルルルル。
「……」
低い唸り声。
ゆっくり振り返る。
木々の間に、灰褐色の獣がいた。
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