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第5章 運命は変えるためにある(5)

***


《アルブレヒト皇子の復讐心から生まれた驕り。

それが、彼の足を大きく引きずることになるでしょう》


予測報告書の一文が、耳元で囁かれたようによみがえる。


胸の奥がざわつく。


《リューネの日。

舞踏会場に引き出される三皇子クラウデルンは――

七皇子アルブレヒトに対してテロを試みると推測されます》


《その手段は、オブロフ製の超小型の結晶式魔導工学爆弾《ちょうこがたけっしょうしきまどうこうがくばくだん》。

三皇子が腹心の秘書名義で、急ぎ購入した履歴が確認されています》


……報告書通りなら、テロは今、この舞踏会場で起こる。


背筋を、冷たいものが滑り落ちた。


外の警備はあれほど厳しいのに。

肝心の皇子のそばは、まるで虚を突かれたように手薄だ。


三皇子は、衣服のどこかに爆弾を隠しているはず。

でも……。


私はネックレスの小さな真珠に指先を添えた。


……爆弾はどこに隠されているの?

そしてそれは、いつ?


「くっ……くくく……ふっ……ははは……」


下げていた頭を上げた三皇子の口から、狂気じみた笑いがあふれ出す。

すべてを諦めた者だけが放つ、破滅の色を帯びた笑い。


両目には不穏な狂気。

揺らめく瞳が、アルブレヒトを射抜いた。


「そうか……。ずっと胸に誓っていたのだな?

小賢しい野郎よ! ああ、俺は敗れた。

だが、お前ごときを誰一人認めはしない。断じて!」


「……」


「骨の髄まで高貴な貴族たちが、卑しいお前を?

くはっ……! それだけは、絶対に変わらんぞ!

帝国の恥だ! お前も、男を食い物にする汚いお前の姉も! くはははははは!」

「クラウデルン――!」


アルブレヒトの顔が、初めて険しく歪んだ。


《三皇子は七皇子をわざと挑発し――

自分の側に引き寄せた瞬間、自爆する》


「おお、哀れなアルブレヒトよ! おお、哀れなる帝国よ!」


私は体を強張らせた。


……あの超小型爆弾で、皇子とエーリヒが共に死ぬ確率は、約十パーセント。

エーリヒが死に、皇子が重傷を負いながら生き残る確率は、約八十五パーセント。


報告書の通りなら、もうすぐだ。

真珠のネックレスを握る指が震える。


三皇子は、止まることなく笑い続けた。

世界で一番楽しいことでも見つけたかのように。

子供のように笑いながら、涙をこぼしている。


誰もが、その異様な熱に釘付けになった。


私は息を殺し、アルブレヒトとエーリヒの側へ静かに忍び寄る。


一歩。二歩。


軍服を着た男たちが、私をちらりと見る。

けれど、制止の声はかからない。


……怖がった私が、エーリヒの側に避難したがっていると思っているのだろう。

そう誤解してくれるなら、むしろ好都合だ。


ドレスの裾を握る手のひらは、じっとりと濡れていた。


《ここまでは、すべて三皇子の思惑どおりに進むでしょう。

ですが、当情報部では変数の介入を想定しています》


エーリヒ・フォン・ハルデンベルク。

極限の忠誠心に加え、卓越した身体能力を持つ――七皇子の唯一の親友。


『予言』によれば、彼はこれからアルブレヒト皇子の前に立つ。

そして、全身で彼を守る。

たとえ、その身を犠牲にしても――。


報告書の通り、怒りに駆られたアルブレヒト皇子が三皇子へと歩み寄る。

彼の部下たちは、数歩下がった場所に立っていた。


――すべて、書かれていた通りに。


真珠のネックレスを握りしめた私の指が、細かく震える。


オブロフ製の結晶式爆弾。

爆発範囲は極めて狭い。

だが、その範囲内での殺傷力は比類ない。


……そして今の私は、すでにその射程内にいる。


防げなければ、エーリヒもアルブレヒト皇子も、私も。

この場で即死する。


膝が、今にも崩れそうにわなないた。

ドレスがそれを隠してくれるのは、この上ない幸運だった。


……あとは、すべてが思い描いた通りに進むよう、祈るしかない。


萎えかけた足に力を込め、耐える。


もうすぐだ。

本当に、もうすぐ。


転がったまま頭をもたげた三皇子の顔が、醜く歪む。

ワインに濡れた頬の上で、血走った瞳が悪鬼のようにぎらついた。


「くくっ、ふはは――!

卑しい血筋に汚れる帝国なら! いっそ滅びてしまえ!」

「何だと!?」

「死ね、アルブレヒト!

卑賤の分際で皇位を狙い、兄弟たちを手にかけた外道め!」

「……貴様!!」


足が、高く振り上げられる。


その瞬間、理解した。


――あの靴だ。

結晶式爆弾は、靴底に隠されていたのだ。


……発見できなくても当然だと、納得する暇すらない。


――二秒。


三皇子の靴が下がり始める。


私は真珠のネックレスを握りしめ、思い切り引き裂いた。


お願い。

どうか、間に合って……!


――一秒。


「危ないです! 殿下!」


結晶式爆弾の存在を知らずとも、エーリヒは直感で悟った。

これは、何か取り返しのつかない危険だと。


早く、アルブレヒト殿下を!

自分がどうなっても構わない。


ただ、あの方だけは。

あの方だけは、絶対に守らなければならない……!


驚いた顔でこちらを見る、親友にして主君。


エーリヒは驚異的な瞬発力でアルブレヒトを強く押しのけ、前へと飛び出した。


その刹那、彼は己の最期を予感し、ぎゅっと目を閉じる。


……アルブレヒト様、どうか――


――零秒。


ぱらぱらっ――!


真珠の粒が床いっぱいに弾け、転がる音が響いた。


ほぼ同時に、三皇子の足が床を強く踏みしめた。

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