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第八話:図書室の戦利品 〜小学生必死編〜

授業という名の「退屈な時間」をやり過ごし、俺は真っ先に図書室へ向かった。

目標は十五歳までの司法試験突破。小学校の図書室に「六法全書」があるとは露ほども期待していなかったが、案の定、棚に並ぶのは絵本と偉人の伝記、せいぜい学研の図鑑止まりだった。

あとは、かいけつゾ○リくらいか。

(やはり法律関係は、図書館まで行くしかないかぁ……小学校の近所にあるけど、図書館寄って親父より先に家にたどり着けるかな...)

放課後は父・大毅が現場から帰ってくる。それまでに帰宅し、彼が「練習を始めるぞ」と言う時に庭に立っていなければ、暴力の口実を与えることになる。小学校から図書館までは、大人の足ならすぐだが、小二のこの体では全力のダッシュが前提だ。

(勉強と心肺機能の強化を同時に……一石二鳥、ではある。しかし俺は足が遅い。)

一瞬、喉の奥がひりつく。息を整え、思考を切り替える。棚の奥へ手を伸ばし、今の自分に足りないものを探すように指を滑らせると、二冊の本が目に留まった。


『ひとのからだ:ふしぎな工場』

『なるほど! 人体工学への第一歩』


「……これだ。いや、これしかない!」

全く法律とは関係ないが、俺は吸い寄せられるようにその本を手に取った。

今の俺は、この「子供の体」を最短ルートで使える形にしなければならない。ただ闇雲にバットを振るのではなく、構造を知る必要がある。

いつか訪れる大毅との直接対決。そして、街に潜むデポルとの戦い。子供の筋力ではどうすることもできないが、備えておく必要はある。父のような百八十センチを越える大男を止めるには、構造的な弱点を突く方法も知っておいて損はない。


貸し出しカードを手に取り、自分の名前を書き込む。「久世恒一」という四文字。脳内では流麗なビジネスサインをイメージしているのに、実際に動く子供の手首は、ミミズが這ったような拙い文字しか生み出せない……まあ、前世でも字は汚かったが。

俺は本をカバンに押し込み、夕暮れの通学路を、全力で駆け抜けた。


玄関の引き戸を開けた瞬間、腕を掴まれた。

「遅い!」

「……っ」

息が整う前に、頬に衝撃が走る。

視界が白く弾け、足元が揺れる。

「すみません」

反射的に言葉が出る。口の中に広がる鉄の味を、飲み込んだ。

「言い訳はいい。時間通り動け」

父の手が離れる。

居間の奥では、祖父が野球中継を見ている、何も言わない。

(いつも通りだね)

頬の熱だけが、じんわりと残る。


庭に出てトレーニングが始まる。

(さすがにお腹が空いた...殴られたのも腹が立つ。絶対数えておいて、同じ数だけやり直してやる)

「今日は素振りの後にランニングと筋トレだ。ついてこい」

「はい」

わずかに遅れて返事をする。


空腹が、腹の奥で鈍くうねる。

胃が、きしむように痛む。


バットを握る。

いつも重いが今日はさらに重く感じる。

一回。二回。三回目で、もう軌道がぶれる。


「おい、振れてねえぞ」

「はい!...」


段々と身体に力が入らなくなってきた。腕に力を込めようとすると、代わりに腹が縮む。

呼吸が浅くなる。


「っ……」


バットが手から滑り落ちた。


「……すみません。今、拾います」


「なにチンタラしてんだよ!さっさと拾えよ!」


次の瞬間、背中に衝撃が走る。

息が詰まり、前のめりに崩れかける。

(今日だけで三回殴られたな...ムカつく)


もう一度、バットを振ろうとした瞬間。

指の感覚が消え身体が、前に崩れ、そのまま地面に倒れ込んだ。

(なるほど、本当にしんどい時はこうやって倒れておけばよかったのか。いいズル休みを...思い

、つい、た)


意識は完全に途絶えた。

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