第三話:地獄との再会 〜小学生必死編〜
ここは俺が「人生は地獄だ」と学び始めた、あの頃の自室だ。
幼少期の俺にとって、家庭は安らぎの場ではなかった。父・大毅にとって、俺は一人の人間ではなく、自分の所有物か、あるいはストレスをぶつけるためのサンドバッグに過ぎなかった。
父は体格がよく、前世では皮肉にも俺に遺伝していた。身長一八〇cm、体重九十kg。大柄で筋肉質のその体は、子供の俺にはただの“壁”だった。
そんな大男に「躾」と称して、事あるごとに頭を殴られ、蹴られた。肉体的な痛み以上に俺を蝕んだのは、耳にタコができるほど繰り返された呪いの言葉だ。
『どん臭い』『お前は何もできない』『俺の言うことだけに従え!!』
その言葉は毒のように俺の精神に浸透し、三十五歳になった今でも、消えない「自己肯定感の欠如」として根を張っている。
大人になった俺が、常に人の顔色を伺い、ミス一つで恐怖に近い感覚に襲われるほど仕事に打ち込んでいたのは、すべて「殴られないため」の防衛本能だった。皮肉にもその姿勢が、前世でのIT営業としての実績を作ったが、そこに達成感など微塵もなかった。
そして当時の俺は、さらに歪んだ結論に辿り着いていた。
『俺に母親がいないのは、俺の頭が悪く、父に気に入られなかったからだ。俺が悪い子だから、お母さんはいないんだ』
――今思えば、なんと愚かで、なんと残酷で浅はかな考えを植え付けられていたのか。
「……ふう」
俺は体を起こし、畳に足を下ろした。小さな体。軽い骨格。だが――中身は違う。
もう一度、姿見の前に立ってみる。
そこに映るのは、何も知らない子供の顔。
だがその奥には、三十五年分の絶望を煮詰めた意志が宿っている。
もう、心を折られることはない。暴力に屈して思考を止めることもない。
(……あの男も、この環境も)
すべて、知っている。
今なら、今世なら対処できる。
俺はゆっくりと息を吐いた。
まずは、この地獄に適応する。
そして――叩き潰す。
(きっと、、、多分、、、絶対。多分)
まずは、一番近い地獄から向き合おう。




