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第十六話:下手くそな脅迫 〜小学生必死編〜

ーーーー放課後。

朝登校した際に、チラつかせた写真が効果テキメンだったため、放課後に二人きりになるまで教室で一木と見つめ合い待機する。一木は気が気ではない様子だ。

俺は十枚のうち一枚を自宅で保管し、六枚を無言で一枚ずつ机に並べていった。


「残り九十数枚、教室や学校の至る所に隠した。残り三日間で見つけられなければ、家に保管している残りの数十枚を学校中にばら撒く、なんなら手渡しで先生方、君のご友人たちににプレゼントしていく、あーあと、野球クラブのみんなにもプレゼントしようね。ちなみに家に置いてきた君の笛ぺろ写真の一部は、俺の部屋の額縁にきちんと飾ってあるからね。」


(もちろんブラフである、家においては俺の方が余裕はないのだから...)


一木は、文字通り抜け殻のようになっていた。机に並べられた滑稽な自分の写真を涙を浮かべて直視していた。


(デポルの癖に一応悪いことをしているという認識はあるんだな)


差別したいわけではないが、こちらとしても感情的にならないように、殴り倒したいのを必死に抑えこんで対話している。これくらい思っても仕方ないと言い聞かせる。自問自答していると、一木の顔色が土色に変化してきたので、ここで畳み掛ける。


「もしかして、はったりだ!とか思っているのかな?じゃあ特別サービスだ、今回だけだぜ?黒板右横の時間割表の裏、キャビネットの左の引き出しの一番奥、君のロッカーの中」


とニヤニヤしながら告げてみる。

一木は俺が言い終わる前に時間割表の画鋲を一生懸命外していた。数秒ほど固まって肩で呼吸をしているのが遠目にでもわかる。


(くくく、効いてる効いてる!)


早朝の準備だったため、三枚しかセットできなかったが十分だったようだ。

俺は一木の左肩に手を添え、丁寧な口調で教えて差し上げる。


「次、キャビネットを開けてみてはどうかな?」


一木は震える左手を右手で押さえつけ、引き出しを開けた。指先が何かに触れた瞬間、過呼吸でも起こしそうなほど息が荒くなる。ゆっくりと引き出された左手には、二枚目の「笛ペロ写真」。その場でへたり込み、嘔吐と失禁を始めた一木を見て、俺は本腰を入れる。


「机の上の六枚、君が見つけた二枚、残りのヒントの一枚、計九枚獲得、おめでとう。ヒントはさっきので最後だけど、この調子で残り三日間で九一枚探しきろうね!」


そもそも十枚しか持っていないのだが、小学生といえば、百円だとか百万円ちょうだい!などと、やたらと『百』という数字を使うイメージがあったので、残九一枚としてみたが『こうかはバツグン』のようだ。そして目の前に九枚もあるのだ。あと何枚あるか、というのは問題ではない。複数枚あるという事実が必要なのだ。

先ほどまで土色だった顔は、瞬時に青くなっている。もしかしたら、俺が死んだ時もこんな色をしていたのかもな……感傷に浸りながら、一木のネクストアクションを待つ。

罪悪感と恐怖に支配された七歳の脳裏には、校舎のあらゆる隙間に自分の醜態が潜んでいるように見えたはずだ。


「……ひ、ひいぃ……ふぅー、ふぅー、ふぅー、おえぇぇっ」


嗚咽を漏らし、過呼吸寸前の一木の前に、俺は写真をヒラヒラと見せつけた。リコーダーを舐め、悦に浸るその顔。それを「性犯罪」という冷徹な言葉で定義し、うずら笑いを浮かべて宣告する。

「お前がやったことは、犯罪。俺はそれを絶対に許さない。……なあ、一木。お前の家族はどう思うだろうね?」


一木の肩がビクンと跳ねた。小二にとって、家族は世界の全てだ。衣食住の基盤であり、絶対的な寄る辺。そこを失うことは、死と同義であることを俺は知っている。

「リコーダーを舐める、嫌がる女の子に頬擦りする……普通の親なら、自分の息子を化け物だと思うんじゃない??どこか施設にぶち込まれて、死ぬまで一人きりかもよ?」


俺の声は、あえて抑揚を失わせた。感情的な怒りよりも、事務的な「事実確認」としての冷たさが、一木の過呼吸を加速させる。


「ごめんなさい……ごめんなさい!……」

「謝る相手が違うだろうが!!」


俺の怒号が、静まり返った教室に響いた。一瞬で顔を真っ赤にして泣きじゃくる一木を見下ろし、俺は最後の一押し(クロージング)に入る。


「チャンスをやる。……二度と、俺と吉田さんに関わるな。視界にも入るな。それから、不登校は許さない。明日からも絶対に学校に来い。……もし休んだら、俺が毎日お前のお母さんに、この『写真』を届けに行く。大事なことだからもう一度。一度でも休んだら君のお母さんに写真を届ける!そしてその写真を見た時のお母さんの顔の写真も撮ってあげるからね?」


それは、許しではない。

「一生、俺の監視下で怯えながら生きろ」という、逃げ場のない終身刑の宣告、のつもりだ。

意識が飛びそうな一木に対して最終確認ならぬ、ネクストアクションの確認を行う。これはビジネスでも大切なことだ。顧客との次の行動や決め事を商談の最後に確認を行う。


一、二度と俺たちに関わるな

二、学校を休むことは絶対に許さない

三、他三人が明日から吉田さんに何かしようとしたら、問答無用で写真をばら撒く

四、十枚の写真は君にプレゼントだよ


翌日。一木は顔色を土色にしながらも、這うようにして登校してきた。それまで吉田さんを囲んでいた他の三人も、一木の変わり果てた姿を見て、完全に戦意を喪失している。


(やはりリーダー格を潰すのが手っ取り早かったけど、彼は三人になんと言ったのかな?笑)


…などと思いながらも、内心上手くいってよかったと、ホッとしているのは俺の方だった。

他三人の醜態はゲットできていない。吉田さんの負担を考え、早期解決を念頭に、リーダー格の一木を張っていたからこそ、たまたまうまく行ったに過ぎない。大人だったのだから、もっといい方法は無かったのかと思考するが、これが俺のスペックなのだから仕方ない。

とにかく、デポルも性犯罪も許せない。今回は、一木を暴力で片付けず、ギリギリ理性を保ち、決着できただけ偉い。

前世では…何も守れなかったのだから。自分も、冴子さんのことも。

感傷に浸っていると、吉田さんに声をかけられた。


「……久世くん、ありがとう。話つけてくれたんだよね。もう嫌がらせもなくなったんだ。むしろ避けられてる気がするくらい。」


吉田さんが、少しだけ晴れやかな顔で俺に言った。俺は「良かったね」と短く返し、教科書を開く。


(……これでいい)


暴力で解決すれば、モンスターペアレントが出てきたり、より吉田さんが傷つく期間が長引いたかもしれない。そしてもっとスマートなやり方も確実にあったと思う。

だが、俺は完全無欠のスーパーヒーローでも、誰にでも優しい人間でも、法の使者でもない。いかなる方法でも、敵を殲滅し、自分が守ると決めたものを守れればそれでいい。それでも法を学ぶのは、多数の理不尽な輩に対して、効果を与えられるのが、「法」だと思ったからだ。


ーーーー後日談。

音楽の授業までに、吉田さんのリコーダーは机に叩きつけて壊した。図書館でみことさんに会った際、吉田さんがいない間に、簡潔に真実を話した。どうやら吉田さんの雰囲気で何かがあったのは察知していたようだが、内容までは知らなかったようだ。リコーダーの弁償費用について話したが、丁重に断られた。貧乏と聞いていたので非常に心苦しかったが、みことさんにはとても感謝された。


感極まったみことさんに抱き寄せられた瞬間、視界が真っ白になった。鼻腔をくすぐる彼女の匂いと、顔を包み込む柔らかな感触。三十五歳の理性が「これは感謝のハグだ」と叫ぶが、小二の俺の「俺」は正直だった。……これだけは前世の記憶が有無は関係のないことだ。これでよかったのだ…豊満な双丘のことではない。


感情的になり、暴力をぶつけるだけでは、解決できないこともある。そう、きっとこれでよかったのだ。おっぱいおっぱいの頭の中を整理し、自分に踏ん切りをつけるように、何度も反芻し言い聞かせた。


窓の外では、夏の終わりを告げるヒグラシが鳴いている。ひとまず難は去り、また日常に戻る。学校が終わり、図書館に行き、勉強が終わったら、全力で帰路につく。その後の父からのしつけ(トレーニング)に耐える日々を何度も繰り返す。


ーーーー日々を積み重ねる俺の時間は、ついに「父との対決」へと一気に加速していく。父との対決まで、あと一話。

次回で、小学生必死編は最終話です。

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