討伐開始
魔物が討伐される残酷な描写があります。苦手な方は注意してください。
一通り心が穏やかになったところで、ニコラス様と会話をした。やっぱり話してみると優しい少年だ。…正直探るっていっても、まずはニコラス様がヒロインに恋に落ちないようにすればいいのでは…と思い始めた。だって…いい子なんだもん。今回の討伐、自分のお兄さんが指揮を執るはずだったけど、自分は今まで家でぬくぬくしてたから、頑張りたいっていうことと冒険者になるんだからいいでしょ!って訴えて勝ち取ったものらしい。我儘にも思えるけど、王族として頑張りたいんだなって思う。憶測だけど、冒険者に依頼したのって王様がニコラウス様が心配で、魔物討伐のエキスパートを頼むって感じだったのだろうか…まぁ、それはいいとして、惚れるのを防ぐというと、どうすればいいんだろう。…ほかの子を薦めるとか?んー…
なんやかんや二人での談笑を楽しんでいると、机に騎士が囲むようにして集まってきた。
「そろそろ話し合いが始まるのかな」
「そうですね、ジルさん改めてよろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしく」
皆が集まると、アルフォンス様が話し始めた。
「今回の討伐は、ニコラス様が指揮官であられるが、私が代行し指揮を執る。ニコラス様が、よろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
まぁ、初めてなのにこれでニコラス様が指揮を執ったらやべぇって思ったからよかった。
「では、初めに皆も知ってはいるが、今回はギルドからギルドマスター推薦の冒険者が加勢してくれる。紹介を頼む」
そういうと、アルフォンス様の隣にいたパトリックが挨拶を始めた。え、なに?こうもお堅いの?普通にいつもみたいに「ジルです。よろしくお願いします!」じゃだめ?
どうしようかと悩んでいると、
「そして向かい側にいる彼女がジル・トイです」
「あ、ジル・トイです。よろしくお願いいたします」
…あっさりおわった。
話し合いもスムーズに終わった。流石騎士、なのかな?ギルドみたいに情報が整頓されていて分かりやすかった。今いるところはダウの森の北西、この付近で魔物に襲われた人がいるという。怪我をしたけど、命からがら逃げられたらしい。ここに到着するまで魔物には遭遇しなかったし、ここら辺に縄張りをつくっているのだろうという考えのもと、2班に分かれて探索することとなった。
私は班に組み込まれ、パトリックは居残りとなった。何かあればパトリックは転移魔術使えるし、便利な人材だからね。ニコラス様は私の班に加わることになった。それに対して騎士たちが何も言わなかったのがすごいと思った。いや、思ってはいるのかもしれないけど。基本、はじめての人と依頼をするとなると、「女は呼んでない!」っていう態度をとられることがたまにある。実際に私が魔物を討伐する姿を見せれば納得してくれるけど、それまでが大変。だから、態度に表れないのはすごいと思う。流石騎士。
そんなわけで、騎士の方を先頭に、私とニコラス様が列の真ん中で探索が始まった。道中は何かが見つかるまでは無言。ニコラス様は初めてのことだからか、わくわくした様子だ。
…かわいい。
15分ほど探索をし続けていたら、木々に引っ搔き回した跡が残っていた。思っていた以上に魔物は大きいやつなのかもしれない。この爪の感じ…四つ足の魔物、話し合いで魔物の情報は「四つ足で、全身が黒い毛でおおわれていた」としかなかった。四つ足は間違いない。縄張りを主張している。ここは貴族の狩りの場、熊みたいに大きな動物はいない。いても雄鹿くらいだと話していた。つまりは、この魔物は、どこかから連れてこられた。縄張りを張るということは、他の魔物と争いをするタイプ。戦いは避けられないな、せめてこちらが強いと思ったら退散してくれるタイプだといいなーって思っておこう…
「ジルさん、何かわかりましたか?」
「あ、まぁ皆さまが考えていることと一緒ですよ」
けれども、一応ここで情報がでてきたからには、皆でまとめないと。
ニコラス様と二人の騎士とともに一旦情報の共有をしあった。ニコラス様はこういったのが初めてだろうし、丁度いいだろうと思った。やはり、ニコラス様以外の皆は同じ考えだった。もう一組は多分外れ、こっちが当たりだろうと。
「一度引き返しましょうか?」
騎士の一人のトマス様がそう提案してきたが、それはない。どんな魔物なのか確認をしていないのに戻ったら襲われる可能性がある。それに私がいくら能力無効の加護を持っていても、相手を見ていないと発動しない。
「いえ、行きましょう。もう魔物は縄張りに別の生き物が入ってきたことを感づいている可能性があります。拠点に戻ってそこを襲われたらだめです。ここで殺します」
はっきり言ったためか、もう一度提案してはこなかった。
これ、面倒な奴が来ちまった…って思われてないかな?はーつらい。でも、これで誰か死んだらボスの面子が潰れる。当たりを引いた手前、絶対ぶっ殺す。
それから周囲の警戒を高めて探索を続けると、ニコラス様が立ち止まった。それに気づき、皆歩みを止める。
「この先から、魔力を感じます…」
緊張した顔で、周囲に気を遣ってか小声でそう話した。
「ニコラス様、それは一つですか?一度周囲を見回してください」
そうお願いすると、辺りをゆっくりと見回し、再度同じ方向を見て、あそこからだけです、と言った。
「…私が行きます。皆さんはニコラス様の警護を」
「いや、一人で行かれるなど、」
「複数で行く方が困ります、私一人で行かせてください」
そう言い切ると、列から抜けて、ニコラス様が指した方へ素早く駆けてく。
音を立てず、静かに、素早く。
そうすれば、すぐに見えた。黒い毛並み、四つ足の魔物。あれはファング…いや、図体がでかい、森のサイズに合ってないというか、場違い感がすごい。エルダーかな?なるほど、あの引っ搔いた跡は牙で付けてたのか。
ぐっと拳を握り、距離をさらに詰める。魔物も私に気づいたが、遅い。
胴体の下に潜り、一気に拳を突き上げる。
フゴッという魔物の息を詰める鳴き声が聞こえたが、関係ない。
軽く宙を舞い、すぐに地面に横たわる。口の端から泡を吹いて、全身が硬直している。あ、心臓はいった?戦闘意欲を言うか、殺気が感じられない。これは気絶したね!
「心臓採っとくかなー」
心臓なきゃ大抵の生き物は生きていられないからねー
ちょうどいい長さの枝を探していると、他の3人がこちらに駆けてきた。
「大丈夫ですか?!」
すごく息切れしてる。なんか申し訳ない気持ちになる…
「大丈夫ですよ。それより、皆様大丈夫ですか?」
「いや、我々は何も…魔物は?」
グレアム様がそう聞いてきたため、魔物のいる方を指す。
「一応気絶はしているんですけど、まだ生きてるので近づかないでくださいね」
気をつけてねーくらいの気持ちで言ったのだが、それとは違い、皆一様にしてこちらを凝視してくる。…怖いんですけど。
「ジルさん、これは精霊がやったのですか?」
ニコラス様がそう聞いてくる。
「半分正解で、半分不正解。私が精霊の加護で魔物の心臓に向かって殴ったの」
殴った…そう繰り返して、また魔物の方を見ている。…見たかったのかな…
ちょうどいい長さの枝を見つけたため、短刀で切り落とす。葉を落とし、ポーチに入っている紐で坊主になった枝の先端に縛り付ける。簡易槍の完成!
「これから殺すので、見ますか?」
「それは、我々が」
「いや、まだ気絶してるだけですし、絶対殺しますから私にやらせてください」
そうして魔物に近づく。
「っよっと」
槍で一気に心臓のあたりを刺す。刺した後、更に奥へと少し進める。
引き抜いてから目を確認する。瞳孔が開いている、死んだ。
死んでいるから刺した箇所から血が出ていく。体格的に木には吊るせないし、仰向けにもできないし川もない。このままやるしかない。こんな重量級だと、体重のかかっている方に鬱血して、肉がだめになっちゃうな。…血抜きしたい…でも今は心臓を取り出すのが優先だ。
槍を解体して、短刀で魔物の腹を裂いていく。被膜に覆われた内臓が見えてきた。内臓が傷つかないように脂肪をある程度削いでいく。咽頭付近と直腸を切っていき、内臓が傷つかないように膜を削いでから外に出し、心臓を切りとった。しっかり心臓に短刀の切れ目が入っている。しっかり刺せた証拠だ、よかった。
両手よりも大きく赤い心臓がみるみるうちに小さくなり、短刀の切れ目も閉じていき、片手に収まるサイズの魔石に変わった。魔物の心臓は、体外に出ると魔石になる。魔物の討伐は、魔石を取り出すことで討伐完了となる。
つまりは、終わったのだ。
後ろにいる3人に向けて話しかける。
「終わりました」
「…お疲れ様です。ジルさんは凄いですね」
「え?そうですか?」
えへへ~騎士様に褒められたー。嬉しいー
顔が緩んでいるのがわかる。でも、嬉しいんだもん。中々褒められることってないからね!褒められたことを堪能しよう!
「いやぁ、流石はギルドマスターの推薦者ですね」
「え、いや、それほどでも…」
「いやいや、そう謙遜なされなくとも!胸を張ってください!」
え?なに?褒め褒めフィーバータイム?
恥ずかしくなってくるんですけど…!でも、嬉しい…
顔が熱い、これは絶対に赤くなってる!だって、ふたりともよいしょしてくる!見た感じ、なんか吹っ切れているようにも感じる…なんだ?私の様子を見てからかっているのかな。
でも嬉しい…
よいしょタイムはニコラス様が止めに入るまで繰り返された。先生として、失態を見せてしまいました、反省します。




