討伐の依頼
「二週間ほど前にこのダウの森に魔物が出現した。しかし、この森は魔物が発生しない、魔力の生まれない森だ」
そう、魔物は元々魔力に影響を受けた生き物が狂暴化したものが多い。中には元々魔力を持ったものもいるが、そういうのは話がわかる貴重な存在だ。…魔力の発生しない森に魔物が自然と湧くのは道理に反している。
「この森に魔物が現れたその原因はわかっていない。現在調査中だが、恐らく魔物狩りをしようと秘密裏にこの森に魔物を放ったのではという話が出ている」
捕まえるのに一苦労する魔物をわざわざ娯楽のために捕まえるなんて、あほじゃないのかと思う。
パトリックも普段以上に苛立っているのが雰囲気で伝わってくる。私は父さんを魔物に殺されたけど、こいつは両親を目の前で魔物に食われたんだよね。
護衛と言いつつ、本当は魔物の討伐。この依頼をギルドが受けた訳…魔物を捕獲したのは冒険者の誰かかもしれないということなのだろうか?
殺すことと、生かしたまま捕獲するのこと。これは後者の方が断然難しい。魔物は動きを封じても何をしでかすのかわからない。身体を自由に収縮させる能力や、透過する能力、色々な能力を魔物は持っている。捕獲が難しいから、魔物の能力を研究することはできず、倒した者や遭遇した者の口伝えしか魔物の能力の話しかきかない。ギルドには冒険者から集めたそういった情報の書物がある。それはいつでも閲覧できるから、重宝されている。それに昔に魔物の生態に興味があり、ねぐらまで行って調査をした人物がいたらしく、魔物の生態をまとめた書物もある。けれど珍しかったり、討伐が困難だったりする魔物になるほど情報は依然として少ない。今回の魔物が捕獲されてきたものなら弱いのかな?あるいは、ギルドに依頼するほど厄介な魔物なのか…
「だからあなたが呼ばれたのですね」
「え?」
不意に私に話を振ってきた。けれど、考え事をしてたため、途中から全く話を聞いていなかった。脈絡もなく話を振られたも同然であるため、何も言えない。それを察したのか、パトリックは話を進める。
「ジルは精霊の加護を受けているだけでなく、精霊そのものが常に傍にいます。ジルのために魔法を使い、ジルのために加護を付加し続けます」
「そんなことができるんですか?!」
ニコラス様は驚いた声を上げる。アルフォンス様も同様に眉を上げ、私を見てくる。
「できない、というより前例がありませんでした。ですが、ジルとその精霊はそれを成しえました」
「ですが、どうして…」
「どうしてそれが出来たのかは見ての通り、精霊がジルのことをとても気に入って…そうですね、すみません、違いました。…深く愛していますからね」
話の途中、空を見つめたのちに言い直した。精霊さんが訂正を求めたんだろうな…
それが、精霊さんの気持ちだとしても、パトリックから愛しているとか、そんな発言を聞く羽目になるとか、何なの?今日は厄日かなにかなの?
不快な気持ちになっていると、パトリックも気持ちが悪いと言わんばかりに「私も言いたくはありませんでしたよ…」と私に聞こえるように話してきた。そうだよね、パトリックも言いたくはなかったよなね…少し可哀そうに思えてきた。
二人して気落ちしてしまったため、こちらの事情を把握できない向こう側の二人は不思議そうにしている。
私よりも早く立ち直ったパトリックが話を進める。
「すみませんでした。話を戻しますと、ジルは魔物の能力を無効にする加護を持っています。それを使えば、魔物の討伐は圧倒的に安全に行えます」
あぁ、そのことが言いたかったのね!納得。
この加護もあるから、ギルドが私を教員にしたいと思った一因だろうと思う。すると、アルフォンス様が私をみて話し始めた。
「つまり、その加護かあれば魔物の捕獲も可能になるということでは?」
え。ここで私疑われちゃうの?
ニコラス様も「アル、失礼だよ!」と服の裾を引っ張っている。かわいい。
ってそうじゃない。なんか言わないと。
「確かに捕獲できなくはないと思いますけど、したことないですし。これからもする予定はないです」
そう言うと、はぁ、と隣からため息が聞こえる。まさがここで嫌味言われるのでは?
「…この者は昔、父親を魔物に殺され、村も魔物に襲われています。ギルマスターはジルが金目当てで魔物を捕獲するということは考えていません。私も他の理由がどうであれ、彼女が抵抗する術を持たない人々の元に魔物を連れてくるようなことをする人間ではないと信じています」
い、嫌味じゃなかった…
パトリック、信用してくれてるんだ…いつも無愛想なくそ野郎って思っててごめん…
「アルフォンス様、あなた様がニコラス様の安全を考えておられることを我々は承知しています。ですが、これから我々はあなた様方と同伴し魔物を討伐するのです。我々のギルドマスターの判断を信用していただきたい。」
そう言い切り、深く頭を下げた。私もつられて頭を下げる。
「アル、お願い。一緒に戦ってくれる人たちなんだよ、疑ったりしないで」
ニコラス様の言葉が効いたのか、申し訳なさそうな声色で「疑いをかけてしまい、申し訳ない」と頭上から聞こえた。パトリックが顔を上げるタイミングに合わせて自分も顔を上げる。
少し居心地が悪い。ちらっとアルフォンス様を見ると、目が合った。瞬時に目を背ける。
疑いは晴れたの?そう思っていいの?心臓に悪いんですけど!
なんだか気まずい空気の中、ニコラス様が明るく場を取り成そうとし、それにパトリックが乗っかる。私とアルフォンス様が相槌を打っている間に拠点となる場所についた。
馬車から降りると、簡易式のテントを張る準備をしている。準備を手伝おうと声を掛けると、女性の手を借りるなど騎士としてあかん!的なことを言われ、そのままお任せした。テントを張ったり、机を用意する様子を集団の外からみていると、パトリックが寄ってきた。眉間から皺が取れているが、どこか冷血漢のように感じる。でも私以外には優しいし、いいやつなのだと思う。
日差しの所為で、私を見下ろすその顔に影を落とす。
「あの二人の前では言いませんでしたが、あなたを動かせる方法が一つだけあります」
「ん?」
その話まだ続いてたの?
「それはあなたの弟のことです。私はあなたは弟が危険に晒されれば、どんな要求でも受けると思っています」
こちらに顧みることなく言い切ると、騎士たちの所へ先に向かっていった。
…確かにそうかも。ルイの命の危険と大勢の人の命、どちらが大切かと言われればルイの方だと思う。それでルイにどう思われてもいい。私はルイのことが好きだし、愛している。ルイのためならなんだってしてみせる。
微かに嫌な予感を感じるが、気のせいだろう。遅れてパトリックの後を追い、出来たテントの中に入った。




