子息と騎士と苛立つ同業者
貴族の護衛依頼当日、指定された場所であるダウの森の入り口で待つ。この森は王都の北東近くにある森で、貴族の嗜みの狩りの場にもなっている。そのため管理されており、人はいない、動物が多くいる森というのをボスから聞いた。確かに、ヴォイドの森とは違って明るい感じがする。パトリックは魔力が~地脈が~って言ってたけど、理解できなかった。
ぼーっと地面の石でも眺めてると、パカラ、パカラとリズムよく馬の蹄の音が聞こえる。四方を馬に乗った護衛の騎士が警備し、黒い二頭の馬が簡素な馬車を引いてこちらへ向かってきてる。あれが依頼者のいる馬車なのだろうか。
馬車は私たちの前でゆっくりと停まった。白馬に乗った騎士がパトリックと依頼の確認をしている。こういう事務作業的なものは私はしたことがない。というよりも、貴族と関わる仕事なんて初めてだ。それに比べでパトリックは転送魔術でばんばん人を転送させる仕事をしている。つまりはパトリックは色んな階級の人間と関わることがあるからその場に合った言葉遣いができる。田舎者の私は口を開かない方がいいってことだね!
再度ぼーっとしていると、話が終わったため、馬車の中に案内された。…え、護衛じゃなかったけ?
パトリックを見ると、早く入れと目で訴えてきた。せかされるまま馬車に入ろうとすると、パトリックと話していた騎士が手を添えてきた。これは…使った方がいいのでしょうか?手が無くても入れるんだけど…気持ちを無碍にもできず、されるがまま、手を取り中へ入る。
ちょと、恥ずかしかったけど、ありがとうございましたと伝えると、騎士の人は穏やかに微笑んで「お気になさらずに」と話した。騎士って様になるな…
馬車に入ると、ルイと同じくらいの年齢そうな騎士と少年がいた。この子が貴族の子息なんだろう。狩場にくる子息といえば、体格のいいガキ大将的なのを想像していたけど…かわいい!クリっとした瞳に、血色のいいふっくらとした頬。美少女…いや、男の娘?…男の娘ってなに?前世の記憶が、謎の言葉を連想させてくる…
(…あれ?この少年の顔、どこかで見た覚えがある…)
…ルイに似たブロンド髪にコバルトブルーの瞳だし、ルイのこと思い出すのかな…………今頃どこにいるのだろうか…あ~ルイ~ルイ~…ルイのふわふわの頭にもふもふしたい…
「いたっ!」
ルイのことを考えていたら頭を強く打たれた。
こいつしかいない…そう思い、パトリックを睨むと、ハッと鼻で笑われた。
「大体何を考えていたのかは想像できますが、今は依頼中なので後にしてくれませんかね」
「くっ」
せ、正論…
打たれたところが痛くて若干涙目になっているのを暖かいものが拭ってくれる。
「ありがとうね」
精霊さんだろうと思い、反射的に感謝をした。けれど、それはピタッと止まる。そう言えば、精霊は肉体がないから触れることが難しいはず…
はっとして横を見ると、依頼主の少年がハンカチを持ったまま固まっている。
や…やっちまった…?いや、何を…
少年の目線はどこか空を見つめている。これは話しかけていいのだろうかと思った矢先、馬車の中にいた護衛の騎士が「どうなされました」と少年に声を掛ける。ビクッと身体を震えさせると、周囲の目線が自分に向いていることに気がついたのか、慌てた様子で私に向き直る。
「すみません、勝手なことを…」
「?いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
そう答えても、少年はどこか落ち着かない様子だ。
なんなんだろうと思うと、パトリックが私の方に指をさし少年に話しかけた。
「この者は特殊でして、あなた様が気を遣われなさらなくともよいのです」
そういうと、私の方を見て、
「あなたも精霊に感謝を伝えなさい」
「?」
なにいってんだこいつ。少年は不安げな表情のまま、騎士の方は私を睨んでいる。なぜ睨む。…まぁそれでこの場の空気が変わるのなら言うけど…
「いつもありがとうね」
笑顔もつけて伝えると、頬を暖かい空気が撫でる。そう、これだ。いつもこんな感じなんだよねー次からは間違えないようにしないと。
一人納得している間に、パトリックは少年に何かを話していたようで、少年は、
「すごい人なんですね…」
私になにやらキラキラした眼差しを向けていた。ふふ、よくわかんないけど褒められるのは嬉しい…
少しいい気分になったら、パトリックが少年に向かって話を続ける。
「いえ、ただの価値を知らぬ者です」
こいつ…
「パトリック、本人の前で悪口ですか?」
「いや、事実ですから」
こいつ……!どこでも突っかかってくるな!なんなんだ本当に!
いがみ合っていても仕方がないので、悔しいけれど無視して空いている席に座る。向かい側に子息が居るが、窓の方を見る。護衛は多分これから向かう先で行うのだろう。それまでは、だんまりを決め込むしかない。
パトリックが最後に座り、ゆっくりと馬車が動いていく。面倒な依頼だ。次からは面倒な依頼ではパトリックとは組まないようにしてほしいと思う。




