師としての覚悟
奥の部屋に通された?あと、部屋の真ん中にあるソファーに降ろされる。ボスはそのまま向かい側に腰を掛け、無表情のまま口を開く。
「これから養成所の教員での雇用について話すが、その前に」
「はい?」
なんですかね?
「お前、散々断ってきたこの依頼を弟の成長が見たいだとかどうでもいい理由で引き受けたんだってな」
私は驚いた。え?弟の成長を見たいことがどうでもいいことだと…?ボスはまだ何か言いかけていたが、私は身を乗り出し、ボスに噛みつくように反論した。
「ボス!何を言っているんですか!!めちゃくちゃ重要ですよ!!!ルイは今、反抗期なんです。悲しいことにとうとう私の元から独り立ちしていくんです…いつもお姉ちゃんって言って、私の後を追いかけて来ては私の真似をしていた子が、自分からお手伝いをするようになって、褒めれば顔に嬉しさを隠しきれない様子で、平気だもんって言っていたんです。それから、私が狩りに行くときは付いていきたいって言うようになって…今では一人で青銅等級の魔物を倒せるくらい強くなったんです。そんなルイが、私の元を離れて、暮らすんです…これからルイが大人の仲間入りをしていくんです。私はこれからも、ルイの成長を見守っていく使命があるんです。でも、15歳になった昨年から、反抗期が始まって…一緒に住もうなんていっても絶対に聞いてくれないはずです!でも!私は反抗期なルイの成長姿を見たい!!じゃあどうすればルイの成長を見守れるのか…そう、この養成所の教員になることのほか、方法はないんです。散々断ったのは謝りますから、仕事の話しましょう」
ルイの当て馬の件は避け、言いたいことを言ってすっきりした。さっさと仕事の話をしたい。静かにソファーに座り直し、そう思っていると、いつの間にかボスは片手で頭を抱え、重たいため息をついていた。
「お前と話していると頭が痛くなってくる…」
入口の近くで立っているパトリックはこちらを露骨に嫌な顔を向けてくる。なぜ…
「なるほど、私は実技の教員なんですね」
「そうだな」
教員としての雇用の話になり、私は座学ではなく、実技…つまり実習で魔物の討伐の教員に任命された。内心安心していた。正直養成所でてないし、座学なんて全く教え方がわからない。けれども、魔物の狩り方なら教えられる。ルイに教え込んできた技術をフルに活用させてもらおう。
そのあとも給与のことや授業方針の説明を聞き、最後にシラバスを渡された。
「それに載っていることが取得できるように指導してくれ」
「わかりました」
もう話も終わりかな?
そう思った。けれども、この場を離れていい雰囲気ではない。
「ジル、聞け」
「はい」
「さっきも言ったが、俺はお前が弟のためにこの依頼を引き受けたのはどうでもいいと思っている」
「…」
「養成所の教員は未来の冒険者の教育を行うことが目的だ。そして、冒険者の証が取れるまではただの一般人と一緒だ。技術も未熟だが、可能性に満ちた奴らがここにくる。教えるだけでなく、そいつら全員の命を守る仕事でもある。その覚悟はお前にあるのか?」
つまりは、ルイのこと目的でこの依頼を受けた私に忠告してくれている、もしくは釘を刺している。弟のことを優先することなく、誰に対しても平等に、生きていくための技術と知恵を与えることがでいるのかと。
向かい側にいるボスをまっすぐ見つめる。
「無論あります。確かに弟のことを贔屓目に見てしまうことはあると思います。ですが、その子たちを受け持つ責任と義務を果たしていきます」
ボスとパトリックは黙ったままこちらを見ている。
信用されてないなー
「まぁ、私の言葉じゃ信用ないと思います。なので、これから見ていて下さい!全員立派な冒険者に育てて見せますから」
そう言い切り、そのまま背を向けて扉から出ていく。ここでいくら私の意気込みについて語っても仕方がない。これから証明していくしかない。私は確かにルイのためにこの依頼を受けたけど、他の子の命を預かる責任を持つことになることは承知で受けたんだ。




