二人の旅立ち
空が青く澄んだ真冬の朝、ルイが村を発った。
年を越す前から決まっていたし、しょうがないことだってわかっている。
でも、でもっ
「あーーールイーーーーーっ」
ルイが出て行ってからずっとベッドでうずくまり、枕を抱え込み叫んでいた。
悲しい…私が王都のギルドに行く時ぐらい、いや、それ以上にツラい。大切な弟が、私の元を離れるなんて…胸が苦しい…ルイが一人で王都まで行けることは、今までのルイの実力を知っているから、安心している。けれども!わかってはいても!心配なのです!!ルイ、大丈夫かなーお姉ちゃんいなくて寂しい気持ちになってないかな?今から陰でこっそりルイの旅を見守ろうかしら…いや、最近余所余所しいというか、反抗期なルイのことだから見つかったらめっちゃ怒られそう。はぁ…子供の成長を感じる…冷たくされるのは少し寂しい気もするけれど、これもルイの成長の証と思えば、その成長をこの目で見守っていきたい……やっぱり追いかけようかなー
「ジル、何してるんですか」
私以外いないはずの部屋に、人を小ばかにしたような声が聞こえる。
この声の主を知っている、なぜここにいる。無視だ、無視。
「貴女ね…人のこと呼んでおいて、その態度はいけないでしょう…」
「あーー聞こえない、聞こえません!」
布団を被り、丸くうずくまると、チッと舌打ちが聞こえた。相変わらず態度が悪い。
こいつは魔術師のパトリック。それなりにすごい奴だけど、口がうるさい。そしてあなたを呼んだ覚えはありません。
「面倒なので、早く支度してください。でないとそのまま連れていきますよ」
「どこに?!」
ちょ、どこに連れて行く気だ?!
反射的に布団を蹴飛ばし、声の主を睨み付ける。そこにはやはりパトリックがいる。相変わらず長い銀髪を下ろして神経質な顔をしている。
こいつに「ちょとそこまで行きましょう」とか言って、散々振り回されてきた過去がある。そのせいで、家に帰る日がどんどん遠ざかっていったことが、何度あったことか…
パトリックは眉間に深く縦じわを寄せ、その神経質な顔をこちらに向けていた。
「どこにって、レヴィアにです」
「レヴィア…あぁ!ボスが迎えに寄こすっていってたの、あなたなの?!」
レヴィアは王都の名称、そして、冒険者ギルドの本部と養成所がある場所だ。
ギルドマスター…私はボスって呼んでるけど、誰か手の空いている奴を迎えに寄こすと連絡をしてくれていた。…手が空いてたのこいつだけだったの?正直、いやだわ…
「ところで、なんで私の部屋にいるんですか…」
そこまで気にもしていなかったけど、なんでいるんだここに…
「ノックはしました。ですが、叫んでばかりでこちらに全く気付きもしなかったので、貴女のお母様の了承を得て入らせてもらいました」
「母さん…」
いや、私が悪いのはわかっているけど、男の人を娘の部屋に入れちゃうのか…
「ほら、早くしてください。向こうでもやることが貴女にはあるんですよ」
そう言うと、私がまとめておいた荷物を足元に置き、ワンドをかざして魔術の展開を始めようとしていた。
「いや、早い!早いよ!っちょっと待って!」
急いで母さんの元へ行く。母さんがいるであろう作業場に駆けこむと、手慣れた動作で浅黄色の布を織っていた。
「母さん!行ってきます!」
入り口でそう叫び、蹄を返すと後ろから「いってらっしゃい!」と聞こえた。
母さん、私、行ってくるよ。絶対にルイを当て馬なんかにさせないからね!




