盗人団 赤猫
林高政は廻船問屋福多屋に押し入る数日前、用心棒として福多屋に雇われた。用心棒は他にも数人雇われていた。夜は交代で邸内を見回ることになっていた。
酒は非番の者以外はご法度になっていたが、高政はお近づきの印にと酒を振舞ってまわった。
「いや、やはりまずかろう」
「まあまあ、これ程に猛者が揃っていてどんな賊が来ましょうや、賊といえども命あってのモノダネでござりましょう」
「そりゃそうなんだが……」
「皆様は寝てて結構にございます、賊の五人や十人拙者一人で十分でござる」
「まあ少しだけならよかろう、酔いもすぐ醒めよう」
皆が寝たころ高政の合図で盗人団赤猫、静かに侵入。蔵から数百両を取り、赤筆で赤猫を描いた手拭をその蔵に置いた。
翌日、担当の用心棒達はお役御免となる。福多屋は被害はそれ程ではないとして役所には届けなかった。
それからしばらくして福多屋にまた賊が入る。その時、福多屋の主人が頭を殴打され、一時意識不明の重体となった。賊は蔵から数千両を取り、蔵には主人がとっておいていた赤猫の手拭をその蔵に置いた。
福多屋の主人はその後、意識を取り戻したが、その時の記憶が思い出せないらしい。そしてまだ臥せっているらしい。
同心の田中が探索していたが、犯人の目星はついていた。抜け荷の件を片付けてから、犯人を捕まえるつもりだった。
赤猫の隠れ家に高政が姿をあらわす。赤猫のカシラ、白吉が言う。
「冗談じゃねえぜ、福多屋の主人が大怪我して役人が乗り込んじまった。赤猫の手拭が置いてあったそうじゃないか、俺たちもトバッチリうけるじゃねえか。いったいどこのアホどもだよ」
高政が言う。
「白吉、昨日その福多屋に雇われてた用心棒を見かけた。落ち着かない様子で足早に通り過ぎていったので、気になってその後をつけたら町の外れの廃屋に入っていった。そこには仲間の用心棒二人が待ってた。思い切って拙者も中にはいってみると、千両箱が二つはあった。そこで問いただした」
福多屋の元用心棒は酒を飲みながら言った。
「あの時不覚をとったにせよ、いきなりお役御免は無礼であろう。だから正当な報酬を受け取りにいったまで」
元用心棒は福多屋にいる用心棒と顔見知りなので、『許されてまた雇ってくれることになった、主人に挨拶してくる』と嘘を言った。
「それで千両箱がこんなに要るのか? 店の主人も瀕死の重傷というじゃないか」と高政。元用心棒は、
「あそこの主人は俺たちの正当な主張を突っぱねたばかりか、役所に突き出すという、あまりにも無礼すぎるのじゃ。それで主人が大声を出そうとしていたから思わず止めようとしただけで……。そもそもお前が悪いのではないか、その上お前も役所に突き出すとか無礼な振る舞いはすまいな」
「ならどうする」と高政。元用心棒は、
「決まっておろう」
荒れ屋も高政も他の用心棒も血に染まった
白吉が困った顔で言う。
「高さんよ、それで皆斬っちまったのかい」
「そうだ。千両箱も全部置いてきた。これで賊は彼らだと分かろう」
「いや高さん、それじゃ賊はまだいないかと探索は終わらないぜ。ていうか仲間割れで何人か逃げたと思われるぜ。あんたが余計な事しなけりゃ、用心棒もそのうち捕まるだろうし、そのうちほとぼりも冷めたのによ」
「あんたさー、あんたは泥棒なんだよ、泥棒は侍じゃない、人殺しでもない、勘違いしてんじゃねーよ」と光の源。
「とにかく、どっかに雲隠れするしかねえ」と白吉。
林高政は以前、赤猫のカシラ白吉に助けられた事がある。
高政は博打好きでよく借金していたが、とうとう返せなくなり、殺されそうになった。そこで白吉が立て替えてくれた。それから高政は赤猫団を手伝うようになった。
小夜は虎之助の事を白吉に話した。その後虎之助は、小夜、光の源とともに赤猫の隠れ家に行く事になった。白吉は言った。
「あんた、オランダ語話せるんだろ? そこで頼みがあるんだ。出島のカピタンと話してくれよ」
「何を話すんです?」
「俺たちゃ、オランダに行ってみたいのよ。カピタンは抜け荷に深く関わってるからな、上手く話してくれれば何とかなると思うんだよ」
代わりに虎之助たちを逃がすという。虎之助は白吉に聞いた。
「何故、盗みなんかやってるんです?」
「俺たちゃ、贅沢品やら怪しい品をみつけて ちょっとだけその上前をはねてるだけさ、盗みにゃあたらねえ」
虎之助は違うと言いたかったが、ただ苦笑しただけだった。
仲間の黒酢の三太が聞いた。
「オランダってどこや? 呂宋あたりか」
「呂宋よりもっとずっと、ずうっと先のほうだよ」と光の源が答えた。
「そんな先までいったら海の滝に落っこちるだろ」と三太。光の源は、
「いや、そこまでは行かないから安心しろ。……ってお前地球儀見たことないのかよ、オランダ人が持ってるだろ。地球は丸いんだよ。だから海はずっと繋がってるの。ってオレもみたことないけどな、地球儀」
「ちきゅう?」
虎之助は白吉達の手引きにより、お咲を知り合いの寺に預けた。




