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『約束を守っていただけなのに、なぜか天下が近づいてきました。』〜和議の娘と、遅刻魔の韋駄天〜  作者: 藤乃澪
第三章 偽報の火種

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第二十九話 今回は覚えておきます

城を出てしばらく歩いたところで、友政が口を開いた。


「もっと怒るかと思った」


澪は隣を見た。


「怒ってたよ」


「全然そう見えんかったけど」


「怒鳴らないと怒ってないことになるの?」


「いや、そういう意味ちゃうけど」


友政は少し考えてから続けた。


「もっと、同盟切るとか言うんかと思った」


澪は前を向いた。


街道の先には、まだ夕方の明るさが残っている。


「切ったら面倒だから」


「面倒?」


「関係切って終わりならいいけど、終わらないでしょ」


同盟を破棄する。


それだけなら、紙の上では簡単だ。


だが、その先に何が起きるかは別だった。


交易が止まる。


国境の緊張が増す。


互いに兵を置く。


小さな揉め事が増える。


そして、そのどれか一つがきっかけになれば、本当に戦になるかもしれない。


「嘘つかれたからって、すぐ関係切って戦争になったら意味ないじゃん」


「まあ、そうやけど」


「だから今回は切らない」


澪は少し間を置いた。


「でも、覚えておく」


友政が横を見る。


「怖」


「何が」


「その言い方」


「普通でしょ」


澪は肩をすくめた。


「信用って、一気に増えないのに一気に減るから」


小さな約束を何度も守る。


困った時に助ける。


言ったことを実行する。


そういうものを積み重ねて、やっと増える。


だが、一度大きく裏切れば、それまで積んできたものは簡単に崩れる。


「今回で、あの国への信用は減った」


「戻るん?」


「向こう次第」


「また信用してもらうの大変やな」


「そりゃそうでしょ」


少し歩いたところで、友政が急に言った。


「じゃあ俺は?」


「何が?」


「俺への信用度」


澪は足を止めた。


「聞きたい?」


「なんでそんな嫌な予感する聞き方すんねん」


澪は指を折りながら数え始める。


「仕事は高評価」


「お」


「人助けも高評価」


「おお」


「いざって時も頼れる」


友政の顔が少し得意げになる。


「じゃあ結構高いやん」


「ただし」


「来た」


澪は即答した。


「時間」


友政の表情が止まった。


「そこで大幅減点」


「いや、走れば間に合う時も――」


「それ禁止」


「まだ最後まで言ってへんやん」


「言うこと分かるもん」


澪は再び歩き出す。


友政が慌てて隣へ並んだ。


「でも結果間に合ったらええやろ」


「よくない」


「なんで」


「まず時間通り来い」


「厳し」


「信用の話したばっかりでしょ」


友政はしばらく黙った。


そして、ぼそりと言う。


「じゃあ時間さえ直したら、俺めっちゃ信用高いやん」


澪は横目で見た。


「そこ直せたらね」


「直せる」


「何回聞いたかな、それ」


「今回はほんま」


澪は思わず笑った。


「じゃあ、それも覚えておきます」


友政が顔をしかめる。


「今日その言葉怖いねん」


澪は答えず、そのまま歩いた。


今回の嘘も。


友政の今の言葉も。


信用は、言葉ではなく、その後で決まる。

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