第二十六話 証拠ください
澪は、南国へ一人だけ使者を送ることはしなかった。
城下へ一人。
街道を行き来する商人へ一人。
国境近くの村へも一人。
同じ話を、別々の場所から確かめるためだった。
数日後、最初に戻ってきたのは城下へ向かった者だった。
「確かに、人は集められております」
広間がざわつく。
だが、報告には続きがあった。
「ただし、多くは兵ではありません。石を運ぶ者、木材を扱う者、道を直す者が多く見られました」
「城の修繕?」
「そのように見えます」
次に戻った商人も、似た話をした。
城下では人足が増えている。
木材や縄、鉄具の値も上がっている。
だが、槍や矢が大量に売れている様子はない。
最後に、国境からの報せが届いた。
「国境は静かです。見張りの数にも、大きな変化はありません」
澪は三つの報告を並べた。
人は集めている。
それは本当。
けれど――。
「侵攻準備って話、どこから出てきたんだろ」
隣で友政が腕を組む。
「最初の使者、嘘ついたん?」
「兵を集めてる部分は本当」
澪は報告書を指で叩いた。
「でも、“攻めてくる”は違う」
全部が嘘なら分かりやすい。
厄介なのは、本当のことに、嘘をひとつ混ぜることだった。
人を集めている。
だから兵だ。
兵を集めている。
だから侵攻だ。
一つずつなら、それらしく聞こえる。
けれど間にあるはずの証拠が、どこにもない。
「本人に聞いてくる」
友政が顔をしかめた。
「嘘ついた相手に直接聞きに行くん?」
「うん」
「普通、避けん?」
「避けたら理由分からないじゃん」
澪は立ち上がった。
「なんで戦にしたかったのか、それ聞かないと」
友政はしばらく黙ってから、ため息をついた。
「……俺も行く」
「護衛?」
「お前一人で行かせたら、何聞くか分からん」
「失礼だな」
「自覚ないん?」
澪は返事をせず、三つの報告をまとめた。
欲しいのは謝罪ではない。
なぜ、事実に嘘を混ぜたのか。
それを確かめるためだった。




