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『約束を守っていただけなのに、なぜか天下が近づいてきました。』〜和議の娘と、遅刻魔の韋駄天〜  作者: 藤乃澪
第三章 偽報の火種

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第二十五話 南国が兵を集めています

数日後、城へ使者が駆け込んできた。

「南国が兵を集めています。数はおよそ二千。侵攻の準備に入ったものと思われます」

広間の空気が、一瞬で変わった。

「つきましては、共同で兵を出していただきたい」

家臣たちがざわめく中、澪だけはすぐには頷かなかった。

「その情報、誰からですか?」

使者が一瞬、言葉に詰まる。

「……現地からの報せです」

「現地の誰?」

「それは……」

「偵察? 商人? 現地の家臣? 実際に二千人を見た人はいるんですか?」

問いを重ねるたび、使者の返事は曖昧になっていく。

南国が兵を集めている。

それ自体が嘘だとは限らない。

けれど、二千という数字も、侵攻準備という判断も、どこから出てきたのか分からない。

「情報足りないので嫌です」

使者が目を見開いた。

「慎重すぎる! 敵が攻めてきてからでは遅いのですぞ!」

「戦争って慎重すぎるくらいでいいと思いますけど」

澪は平然と返した。

一度兵を出せば、簡単には戻せない。

噂ひとつで戦を始めるほど、安い決断ではない。

「まず確認します。兵を出すのはそのあとです」

澪は、出兵ではなく検証を選んだ。

そしてその判断は、ほどなく正しかったと証明されることになる。

――南国の兵二千。

その報せには、大きな嘘が混じっていた。

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