アラクネの巣
「こ……ここは……?」
どれほど時間が経ったのか分からない。
目を覚ますと、私は淡い光に照らされた広間の床に仰向けに寝かされていた。
(確か……アラクネに捕まって……)
記憶を辿った瞬間、胸がざわつく。
「ミリアさん……ジェストさん……!」
身体を起こそうとするが、動かない。
両手両脚が蜘蛛の糸で床に固定され、大の字に拘束されていた。
「おや、もう目が覚めたかい。催眠毒が弱かったかな?」
声の方を見ると、アラクネが邪悪な笑みを浮かべて立っていた。
「ここはどこ……!?私をどうする気なの……っ!」
「ここは私の巣だ。お前には私の可愛い子供達を産んでもらうのさ。ここに卵をいっぱい産み付けてね」
アラクネは先が鋭く尖った蜘蛛の前足の一つで私の下腹部をなぞるように触って来た。
「ま……まさか……、私のお腹の中に……?」
「その通り。お前の胎内にたっぷりと卵を産み付けてやるのさ。そして、そこにいる人間のように、お前もじきに私の可愛い子供達の餌になるのさ」
アラクネが指差した先には――お腹を喰い破られ、息絶えた女性冒険者3人の姿があった。
その身体には無数の小蜘蛛が群がり、今も肉を食い漁っていた。
確か、ディンさん達との訓練初日の夜に、冒険者ギルドのお風呂で会った女性3人だった。
(あの人たち……確か、ディンさん達との訓練初日の夜に、冒険者ギルドのお風呂で会った……)
このダンジョンに挑み、そして大蜘蛛達の苗床とされて絶命したのだろう……、その無残な光景に胸が締め付けられる。
さらに周囲には食い尽くされた人骨が散乱していた。
「目を逸らすことはないよ。お前もすぐに同じになる。仲間も、もう子供たちの餌になっているだろうね。お前は、私の卵をその身に宿すために生かしてやっているのだ。その役割を果たしてもらうぞ」
アラクネの腹部から、管のような産卵器官が出入りしている。
「さて、まずはこの邪魔な衣服を剥ぎ取らせてもらうぞ」
鋭い脚が、私の服を裂こうと振り上げられる。
「いや……いやぁぁぁーーっ!!」
蜘蛛の子なんて産みたくない!
泣き叫びながら必死にもがくが、糸はびくともしない。
その瞬間――
広間の壁が轟音とともに吹き飛んだ!
『どうやらここで合っていたようだな』
「カナちゃん! 大丈夫っ!?」
煙の中から、ミリアさんとジェストさんが現れた。
「ミリアさんっ! ジェストさんっ!!」
『ひとまず無事のようだが……大蜘蛛の数が多いな』
「私にかかればこんなの物の数じゃないわ!」
ミリアさんが魔力弓を構え、無数の魔力矢を放つ。
矢は分裂し、大蜘蛛たちの頭部を次々と撃ち抜いた。
「おのれ……!よくも私の子供たちを……!」
アラクネが鋭い爪を伸ばし、ミリアさんへ襲いかかる。
『むんっ!!』
ジェストさんがその腕を掴み、握り潰した。
「あ゛あ゛ぁぁぁーーっ!!」
アラクネが絶叫する。
え……?確か大蜘蛛の甲殻は鋼鉄より硬いって言ったよね……?アラクネともなればきっとそれ以上……。
それをいとも容易く握りつぶしたジェストさんに私は度肝を抜かされた。
「カナちゃん! 今助けるわ!」
ミリアさんが炎の魔法で私を拘束する糸を焼き切ってくれた。
「ありがとうございます!」
私は装備を拾い、剣を構える。
しかし、剣は抜いたがどこを攻撃すれば良いのか分からない……。
大蜘蛛でさえ、鋼鉄のような甲殻を持っているのなら、アラクネはそれ以上のはず……!
『カナ!甲殻の隙間の関節だ!そこなら剣が通るっ!!』
「分かりました!」
アラクネの脚が襲いかかる。
私はそれを避け、一瞬の隙を突いて左前脚を斬り落とした。
『おお……!』
ジェストさんはその間に右脚を三本も斬り落としていた。
「『ハングストリング』!!」
「この私を捕らえようなどとは小癪な……っ!!」
アラクネの動きが鈍った隙にミリアさんが魔法のロープでアラクネを拘束しようとするが、アラクネの怪力に引きずられそうになる。
「ジェスト!手伝って……!こいつ思った以上に馬鹿力よ……っ!!」
『任せろ!』
ジェストさんがロープを掴み、アラクネの動きを封じた。
「カナちゃん!今のうちにアラクネの首を斬るのよ……っ!!」
「はいっ!!」
「やめろ……! やめろぉーーっ!!」
私は跳び上がり、アラクネの首を横薙ぎに斬り払った。
首を斬られたアラクネは絶叫ひながら右脚の大半を斬られていたこともあり、右へと前のめりに倒れた。
「はぁ……はぁ……っ! 勝った……!」
剣についたアラクネの青い血を払うと鞘へと納めた。
「カナちゃんっ!!大丈夫だったっ!?卵を産み付けられなかった……っ!?」
剣を納めるとミリアさんが強く抱きしめてくる。
「大丈夫ですよ、ミリアさん。卵を産み付けられる前に助けて貰ったので」
「よかった~っ!危うくカナちゃんの初めてをアラクネなんかに取られるところだったわ~!カナちゃんの初めては私が貰うんだから~っ!!」
ミリアさんは喜びながら私のお腹を撫で回してくる。
いや、そもそもミリアさんに私の初めてをあげないといけない理由が見当たらないんだけど……。
それにどうやってと聞こうと思ったけど、嫌な予感がしたので止めておいた。
「あの……それより犠牲者の方が……」
視線を向けると、亡くなった3人の女性冒険者に目をやると、今だに小さな蜘蛛にその身体を貪り食われている。
「……せめて、安らかに眠らせてあげましょう」
ミリアさんはファイヤーボールでアラクネの死体と小蜘蛛たち、そして犠牲者たちを炎で包み、静かに祈りを捧げた。
『おい、こっちを見てみろ!』
ジェストさんが広間の奥で手招きしている。
そこには祭壇のような場所があり、金の燭台や宝石が並んでいた。
中央には大きな赤い宝石が埋め込まれ、足元には宝箱が置かれている。
「宝箱ねえ~……。開けてみたいのは山々だけど……、場所が場所なだけに開けたら蜘蛛の子を散らすように罠が発動した、なんて事はないでしょうね~……」
ミリアさんが怪しげな目で宝箱を見つめる。
『なら、俺が開ける。2人は下がっていろ』
ジェストさんが開けると、中には金貨と宝石がぎっしり詰まっていた。
「おお~っ!」
「これはすごいわ……!」
『やったぞ!』
私たちはアラクネの首と宝を回収し、街へ戻ることにした。
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