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アラクネ

―ジェスト―


 ミリアとカナはしばらくじゃれ合っていたが、いつの間にか眠っていた。

 二人とも静かな寝息を立てている。


 その間、俺には眠気というものが全く訪れない。空腹感も性欲もない。

 この身体には、そういった“人間らしい感覚”がもうないらしい。

 これが本当に俺なのかと思うこともあるが、グレンやミリアと旅をした記憶は確かに残っている。

 それだけが、俺が俺である証のように思えた。


(……ん?)


 ガサガサと、硬い脚が石畳を叩く音が聞こえる。

 大蜘蛛の足音だ。


 視線を向けると、百メートルほど先に一匹の大蜘蛛がこちらへ近づいていた。

 魔力感知は五十メートルが限界だが、目視なら問題ない。


(起こすか……いや、まだ寝かせておいてやるか)


 俺は大剣を手に取り、大蜘蛛へ向かって歩き出した。


 大蜘蛛は俺に気づき、糸を放ってくる。

 普通の冒険者なら絶望する場面だが――俺は脚を軽く上げただけで、その糸を断ち切った。


(……これはいい)


 そのまま走り、大剣を振り下ろす。


 このリビングアーマーの身体は便利な点もあるが不便な点も当然ある……。


 便利な点は、暗い所でも目が見える、魔力による感知で敵の位置が分かる、腹が減らない、眠くならない、疲れを知らない、限度はあると思うが、重いものでも軽々と持てる。


 実際、人間の頃だと重くて扱いが難しかった大剣を片手剣のように右手だけで軽々と扱えている。


 不便な点は、人としての温もりを感じられない、美味いものが食えない、匂いが分からない、感触が分からない、そして――力加減も分からない。


『むんっ!!』


 天井ごと叩き割る勢いの一撃が、大蜘蛛の甲殻を容易く断ち割り、大蜘蛛は絶命する。


 だが、その奥からさらに五匹の気配が近づいてくる。


(流石に二人を起こすべきだな)


『二人とも起きろ! 敵が来るぞ!』


---


―カナ―


「はっ!?」


 ジェストさんの声で目を覚ます。

 ミリアさんもすぐに起き上がり、装備を整えていた。

 脱ぐのも着るのも早い……。


『大蜘蛛が五体、前の広間から来る!』


「分かったわ!それにしても数が多い……マザーでもいるのかしら?」


「大蜘蛛の……マザー?」


『ああ。大蜘蛛の母体――アラクネだ。ヤツがいる限り、大蜘蛛は増え続ける!』


「ジェスト、下がって! 行くわよ!『ファイヤーボール』!!」


 ミリアさんの火球が前方で炸裂し、複数の大蜘蛛を焼き払う。


「やった……?」


『雑魚は倒したが……さらに奥から巨大な気配が来る……! あれは……!』


「よくも……私の可愛い子供たちを殺してくれたね。償いは、しっかりしてもらうよ……」


 奥から女性の声が響く。


 炎に照らされて姿を現したのは――上半身が青い肌の女性、下半身が巨大な蜘蛛の魔物。


「あれが……アラクネ……?」


『そうだ。このダンジョンはアラクネの巣だ!』


「おや……?女が2人……。丁度いい、そこの女達には私の可愛い子供達の苗床になってもらうとしようか」


 アラクネが背後を向いた瞬間、

 蜘蛛の腹部から大量の糸が高速で射出された。


「きゃっ!?」


 ミリアさんは回避したが、私は糸に絡め取られ、

 そのままアラクネのほうへ引き寄せられる。


「カナちゃんっ!?」

『カナ!!』


「ふむ、捕らえられたのは1人だけか……。まあ良い、この女に沢山の卵を産み付けてやるとするか。お前達、その2人は好きにしていいよ」


 アラクネは引き連れていた大蜘蛛達に指示を出すと、大蜘蛛達はミリアさんとジェストさんに襲いかかる。


「ミリアさん! ジェストさん !くそ……離して……離してよ……っ!!」


 身体は糸でぐるぐる巻きにされ、ほとんど動けない。

 それでも必死にもがく。


「静かにしてもらおうか」


「う……!」


 首筋に鋭い痛み。

 毒だ――。


 意識が急速に薄れていく。


(だめ……まだ……戦わなきゃ……)


 視界が暗くなり、私はそのまま意識を失った。

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