大蜘蛛の棲むダンジョン
街を出て森の奥へ進むと、崖の下に大きく口を開けた洞窟があった。
どうやらここがダンジョンの入口らしい。
洞窟からは冷たく湿った空気が流れ出し、入口の少し奥には大量の骨が散らばっている。
そのほとんどが――人骨だ。
「ねえ……ジェスト、これって……」
『ああ、間違いないだろうな』
ミリアさんとジェストさんが何かを察しているようだが、私にはまだ分からない。
(なんだろう、この白いロープ……?)
入口付近には、上から垂れ下がる白いロープのようなものがいくつも揺れていた。
私は何気なく手を伸ばす。
『よせっ!触るな!!』
次の瞬間、ジェストさんに腕を掴まれ、そのまま後ろへ投げ飛ばされた。
「痛っ……!ジェストさん、何するんですか!」
『これは“大蜘蛛”の糸だ!触れたら最後、餌にされて喰い殺されるぞ!周りの骨を見ろ、全部ヤツの犠牲者だ!』
「えっ……!」
散らばる骨が、急に生々しく見えた。
もしあのまま触っていたら――私も餌になっていた。
「ジェストさん……ありがとうございます……」
「カナちゃん、大蜘蛛がどんなのか見せてあげるわ。どうせ入口のを倒さないと進めないしね。二人とも下がって!」
ミリアさんが前に出て、魔法を構える。
「行くわよ……!『ファイヤーバレット』!!」
ミリアさんがファイヤーバレットを唱えると、握りこぶしより少し大きな火の玉が5つ上へと飛んでいった。
私がファイヤーバレットを唱えても、握りこぶしくらいの火の玉を一つしか出せないのに、ミリアさんは握りこぶしより少し大きな火の玉を5つも出している。
これがセーラさんやミリアの言っていた魔力容量の差と言うものらしい。
五つの火球が上空へ飛び、洞窟の天井付近で炸裂した。
燃え上がる炎の中から、体長二メートルほどの巨大な蜘蛛が落ちてくる。
同時に、垂れ下がっていた糸も燃え落ちた。
『まだ生きているようだな』
「なら、とどめよ!『ファイヤーボール』!!」
大きな火球が大蜘蛛を包み込み、炎が一気に燃え広がる。
やがて大蜘蛛は黒焦げになり、動かなくなった。
「ふぅ……終わったわ」
「すごい……あんな大きな蜘蛛を一撃で……」
「大蜘蛛の甲殻は鋼鉄並みに硬いのよ。剣士の天敵ね。でも炎には弱いの」
『吐く糸も鉄に匹敵する強度だ。太さも粘度も高い。一度捕まれば自力脱出はほぼ不可能だ』
さすが二人とも経験豊富だ。
魔物の知識が桁違い。
「さ、行きましょう」
私はランタンに照明魔法をかけると、白く安定した光が灯った。
まるでLEDライトのような明るさが洞窟の中を照らすと、私たちはダンジョンへ足を踏み入れた。
◆◆◆
中は自然の洞窟というより、人工的なトンネルのようだった。
床には石畳が敷かれ、通路は高さ三メートル、横幅二メートルほど。
しばらく進むと、ミリアさんがジェストさんに声をかけた。
「ねえジェスト、灯りなしで平気なの?」
『問題ない。なぜか知らんが、暗闇でも外と同じように見える』
「そういえば、私たちの声も普通に聞こえてますよね?」
『ああ。それも問題ない』
「便利ねそれ……他にも何かあるの?」
『魔力感知ができるようだ。範囲は広くないが、どこに何がいるか大体分かる』
「羨ましいわ……その能力、私にも欲しい」
『ならミリアもリビングアーマーになってみるか?』
「……遠慮するわ」
ミリアさんは肩をすくめた。
確かにリビングアーマーは嫌だけど、ジェストさんの能力は羨ましい。
そのとき――ジェストさんが急に立ち止まった。
『……待て。四十メートル先の分かれ道に大蜘蛛が潜んでいる』
「全然見えないわよ?」
ランタンをかざしても、暗闇の先は何も見えない。
イルネートでも三十メートルが限界らしい。
『俺にははっきり見える。こちらへ距離を詰めてきている』
「どの辺り?」
『真正面だ』
「分かったわ。『ファイヤーバレット』!!」
ミリアさんの火球が飛び、先のほうで爆発音が響いた。
炎が上がり、大蜘蛛の死骸が燃えているのが見える。
「どう?」
『……動いていない。仕留めたようだ』
「さてカナちゃん、分かれ道はどっちに行く?」
「なんで私に……?」
分かれ道は直進・右・左の三方向。
「リーダーの役目よ」
『そうだな』
「むぅ……ジェストさん、どっちに何があるか分かります?」
『壁の向こうまでは無理だ。ただ、どの道にも敵はいない』
「直進は?」
『今と同じ通路が続いている。右と左はすぐ曲がり角だ』
直進は一本道、左右は複雑そう。
「……では左に行きましょう。真っ直ぐ行って後ろから襲われたら危険ですし、まずは側道から」
「確かに後ろを取られるのは嫌ね」
『分かった。だが背後も警戒しながら進むぞ』
こうして私たちは左の通路へ進むことにした。
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