ギルドマスター、グレン
ラウルの街へ戻った俺達は、オーガグリズリー討伐の報告と、保護した女の子の介抱を頼むため、冒険者ギルドへ来ていた。
顔についていた血は、どうやら鼻の骨が折れたことによる鼻血だったらしく、セーラの回復魔法で骨折も含めてすでに癒えていた。
「それじゃあグレンさん、この娘のこと頼むよ」
「ああ、分かった。また何かあったら頼むよ」
俺は報酬を受け取り、その中から少女の世話代を出してギルマスのグレンさんに託し、ギルドを後にした。
◆◆◆
―カナ―
「う……、ここは……?」
私はどれくらい気を失っていたのだろう……?
気がつくと、見知らぬ建物の一室のベッドの上で寝かされていた。
「あ、気がつかれましたか?」
意識がはっきりしない中、女性の声が聞こえた。
声のする方へ顔を向けると、20代前半くらいに見える、耳の長い女性が立っていた。
「すぐにギルドマスターを呼んできますね」
そう言って、彼女は部屋を出ていった。
(ギルドマスター……?ここはどこなんだろう……?)
待っている間、部屋を見渡す。
木製の家具が多く、空の本棚やタンス、小さなテーブル、その上には燭台――ただしロウソクは差されていない。
見覚えのある物は何一つない。
さらに、テレビも電気もコンセントもない。
私にとって“当たり前”のものが、ここには存在しない。
(私は確か……)
記憶を辿る。
最後に覚えているのは、熊みたいな猛獣が倒れ、その後に何人かの男女が現れたところまで。
それ以降の記憶はないけれど、こうして寝かされているということは、保護されたのだろう。
---
「やあ、嬢ちゃん。気がついたんだってな。気分はどうだ?」
記憶を整理していると、体格の良い、銀髪と銀の顎髭を持つ耳の長い中年男性が入ってきた。
「えっと……ここは……?」
「ここはラウルの街の冒険者ギルドだ。俺はギルドマスターのグレン。見ての通りエルフだ。よければ、君のことをいくつか聞きたいんだが……」
グレンさんは優しげな笑みを浮かべて話しかけてくる。
私は促されるまま、自分の名前と、ここに来るまでの経緯をすべて話した。
「ふむ……つまりカナちゃんは“令和”という時代の“日本”という国――こことは全く違う世界から来た可能性がある、というわけか。にわかには信じられんが、その見たこともない服が証拠かもしれんな……」
グレンさんは私のブレザーを見ながら顎髭をいじる。
エルフ――。
日本どころか世界中どこを探しても存在しない、空想上の種族。
でも、目の前の男性はどう見ても作り物ではない耳を持っている。
ドッキリにしては規模が大きすぎるし、私を騙すメリットもない。
森の熊も、街の様子も、あまりにも現実離れしている。
――やっぱり、ここは異世界なんだ。
---
「おお、そうだ。ディン達――君を助けた冒険者達が、君の荷物を回収してくれているよ」
「あ……ありがとうございます」
受け取った荷物には、生々しい傷跡が残っていた。
通学用のリュックは斬り裂かれ、教科書やノートにも熊の爪痕が残っている。
使えるのはペンケースくらい。
リュックの傷跡を見るだけで、あれが夢でもドッキリでもなく、現実だったと痛感する。
本当に、よく無事だった……。
助けが少しでも遅れていたら、私は――。
「今度ディン達に会ったら礼を言うといい。それより、君はこれからどうするんだい?」
「私は……できれば元の世界に帰りたいと思います。そのための手がかりを探したいです」
私が突然いなくなって、家族も友達も心配しているはずだ。
「ふむ……ということは、冒険者志望……というわけか。だが、悪いことは言わん。やめておいたほうがいい。見たところ、君はごく普通の女の子だ。そんな君が剣を持って戦えるとは思えん」
確かにその通りだ。
戦えるなら、あの熊みたいなのに最初から対抗できていたはず。
「それに、敵と言っても色々いる。猛獣、魔物、野盗……。冒険者になるのは自由だが、どうなろうと自己責任だ。止めはしないが、勧めもしない」
グレンさんの言うことは正しい。
さっきの森みたいに足がすくんで動けなければ、殺されるだけだ。
でも――それでも。
「それでも……私は元の世界に戻る手がかりを探したいです」
危険でも、私は帰りたい。
家族の元へ、友達の元へ。
「はぁ~……わかったよ……」
グレンさんは頭をガシガシ掻きながら溜息をついた。
きっと“強情な娘だ”と思われたに違いない。
「だがなカナちゃん……、そんな服装で、しかも丸腰で何ができるんだ?」
「う……」
確かに、ブレザーは動きづらいし、武器もない。
冒険者になる以前の問題だ。
「とりあえず、カナちゃんは金を稼ぐことからだな」
「は……はい……」
「……なんなら、ウチでウェイトレスの仕事でもするか? ここは冒険者に仕事を紹介するだけじゃなく、食事や酒も提供している。仕事の紹介は無理だろうが、料理を運ぶくらいならできるだろう」
「い……いいんですか……?」
「ま、これも何かの縁ってやつだ。寝る所もこの部屋を貸してやるよ。住み込みで飯付きのバイトは安いが、それでも構わないか?」
「は……はい!お願いします……っ!」
こうして私は、ひとまずの仕事と住む場所を手に入れたのだった。
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