仕事初日(その1)
その日の夜、お風呂から上がった私は、冒険者ギルドの2階にある間借りしている部屋へ戻っていた。
このギルドの敷地内に大浴場のようなお風呂があるのは本当にありがたい。
しかも男女別!
異世界だから混浴なのかと思っていたけど、そこはしっかり区別されていた。
私が入ったときには誰もいなかったけど、時間帯によっては混むのかもしれない。
(そんなことより……)
私は手持ちの荷物を確認することにした。
使えるのはペンケースくらい。
リュックは使い物にならず、教科書も全滅。
ノートはよく調べると、一冊だけまともに使えそうなのが残っていた。
スマホはブレザーのポケットに入れていたが、画面がバキバキに割れ、電源すら入らない……。
(とりあえず、元の世界に帰るために頑張ってお金を貯めて、冒険に必要なものを買い揃えないと……)
絶対に必要なのは武器と防具。
あとは薬草とか……なのかな?
他に何がいるのか今は分からないけど、その時になればみんなに聞いてみればいい。
今日は異世界に飛ばされたり、死にかけたりと散々だったけど……
明日からは良いことがあるといいな。
そう思いながら、この日は早めに眠りについた。
◆◆◆
次の日。
私は朝から冒険者ギルドの食堂「グレンと愉快な仲間たち」で、メイド服のような制服を着て、パンを焼く匂い、スープの香りなど様々な料理の匂いに包まれた店内でホールスタッフとして働いていた。
グレンさんから他のスタッフへの紹介もそこそこに、すぐ仕事に入ることになった。
「カナちゃん、これ3番テーブルに持って行って!」
「は、はいっ!」
私は指導役の先輩スタッフ「ファナさん」の指示で、多くの冒険者たちの笑い声や椅子の軋む音が響くホールの中を歩きながらエールビールを4本を手に持って運んでいく。
ファナさんは私より少し年上で、青い髪に猫のような耳を持つ半獣人の女性。
話を聞く限り、ここでの経歴は長いらしい。
冒険者ギルドのホールは朝から賑わっている。
「お待たせしました、エール4本です!」
「ありがとう、カナちゃん。それじゃあ、カンパーイ!」
3番テーブルの冒険者達は、何度目かの乾杯をして勢いよく飲んでいる。
私の名前は、料理やお酒を運ぶたびに聞かれたので、もうすっかり覚えられてしまった。
そんなことより――。
「次こっちの注文いいかっ!?」
「あ!はーい!ただいまっ!」
次々に注文が入り、目が回りそうだ。
実家が喫茶店だったのでウェイトレスの手伝いは慣れているつもりだったけど、ここは桁違いに忙しい!
お酒を飲む人もいるが、朝から飲んでいるのは全体の2割ほど。
他のテーブルでは普通に食事をしている。
そして気づいたことがある。
ここにいるのはほぼ全員が冒険者で、人間やエルフだけでなく、獣人、半獣人、ドワーフなど様々な種族がいる。
さらに、エルフとドワーフは仲が悪いのか、同じテーブルどころか近くにも座ろうとしない。
元の世界のファンタジー設定そのままだ……。
掲示板の前には人だかりができ、依頼書を取っては受付へ持っていく。
(冒険者ギルドってこんな感じなんだ……)
「カナちゃん! ボーっとしてないで、この料理を1番テーブルに持っていって!」
「は、はいっ!」
周りを眺めていたらファナさんに怒られてしまった。
気をつけよう。
---
「お待たせいたしました!」
1番テーブルに料理を運ぶと、どこかで見たような人達がいた。
「よう、カナ! 調子はどうだ? もうすっかり良くなったみたいだな!」
この人達は……私を助けてくれた冒険者達だ!
「ちょっとカナちゃん! 早く次の料理を……って、ああ、カナちゃん、この人達だよ。カナちゃんを助けてくれたの」
やっぱりそうだったんだ。
「冒険者の皆さん、あの時は危ないところを助けていただき、ありがとうございました!」
私は深々と頭を下げた。
「いや、良いってことよ。何にしろ無事で良かったな!俺の名はディン、よろしくな!」
短めの黒髪で20代半ばくらいの男性。
剣をテーブルに立て掛け、屈託のない笑顔で肉にかぶりついている。
「俺の名はアルトだ、よろしく」
金髪で耳の長い男性エルフだ。
キノコのソテーを食べながら手を振ってくれる。
「私はセーラよ。鼻、大丈夫……? 鼻の骨が折れてたから回復魔法で治したけど、違和感とかない……?」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
茶色いロングヘアの魔術士風の女性。
心配そうに覗き込んでくれる。
「そして最後に私がサラね」
銀髪で褐色の肌、長い耳を持つ女性。
腰には短剣が二本。
ダークエルフ……なのかな?
「ディンさん、アルトさん、セーラさん、サラさん。改めて本当にありがとうございました!」
私がもう一度頭を下げると、4人は照れくさそうに笑った。
「それにしてもカナちゃん、ディンさん達に助けられたなんて本当に運が良かったね」
横で聞いていたファナさんが腕組みしながら頷く。
「ディンさん達はこの街でもかなりの凄腕パーティで、実力はトップクラスだよ。
この人達に憧れて冒険者を目指した人も何人もいるんだから!」
「そうなんですか……?」
そんなにすごい人達だったんだ……。
「さて、お喋りはおしまい!カナちゃん、仕事仕事っ!」
「は……はいっ!」
ファナさんに背中を押され、私は仕事へ戻った。
振り返ると、ディンさん達が手を振ってくれていた。
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