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増長

 図書館で魔法の勉強をしたあと、私は街の外にある平原へと来ていた。


 平原は街の東門を出た先に広がっており、見渡す限り緑の絨毯のような草原が続いている。

 身を隠すものがほとんどないせいか、獣や魔物の姿は見当たらない。


「それにしても、魔法の練習はいいけど……的はどうしようかな」


 周囲を見渡していると、誰かの落とし物なのか、使い古された木の剣が地面に転がっていた。


「これでいいか……」


 私は木の剣を地面に突き刺し、魔法のスペルを書き写したノートを開いた。


「えーと……火の精よ、我が声に応え、その力を示せ――『火球(ファイヤーバレット)』!」


 スペルを唱えると、掌の上に握りこぶしほどの火の玉が生まれ、木の剣へ向かって飛んでいく。


 しかし、私の放った火球は木の剣を外れ、空中を進んだあと、燃え尽きて消えた。


「で……出た……っ!」


 初級攻撃魔法・ファイヤーバレット。

 命中はしなかったが、魔法が“出た”という事実に胸が高鳴る。

 まさか自分が魔法を使える日が来るなんて、夢にも思わなかった。


 命中精度は練習あるのみだ。


 その後、私は氷の初級魔法・アイスニードル、風のウインドカッター、雷のライトニングバレット、光のマジックバレットと、各属性の初級魔法を順番に練習していった。



◆◆◆



 その日の夜。


「皆さんこんばんは。もし良ければご一緒させてもらってもいいですか?」


 冒険者ギルドのホールで食事を終えた私は、ディンさんたち四人を見かけ、声をかけた。


「よお、カナ。いいぜ」


「あら、カナちゃんこんばんは。今日はどうしたの?」


「はい。今日は魔法の勉強をして、そのあとずっと練習していました」


「へえ、魔法を覚えることにしたんだな。魔法が使えるようになると戦いの幅が広がるぞ。……なあディン、お前もそろそろ覚えたらどうだ?」


「魔法は俺の性に合わねえんだよ!」


「でも、まだ初級魔法だけですけどね」


「初級でも、使えるのと使えないのとでは大違いよ」


「そうだね。昨日も一人でブルラビットを倒したんでしょ? 本当にキミの成長の速さには驚かされるよ」


「いえ、そんな……」


 確かに、冒険者になって二日目でブルラビットを倒せた。

 魔法も覚えた今なら、もっと戦えるはずだ。


(この調子なら、私一人でも狼くらい余裕で勝てるかもしれない……)


 グレンさんは「狼には気をつけろ」と言っていたけれど、今の私なら――たとえ狼が何匹束になってきても、きっと大丈夫。


「そうだな……だが、そういう時期が一番危ないんだ」


 私の心を見透かしたように、ディンさんが険しい表情で言った。


「ああ、ディンの言う通りだ。順調なやつほど、自分の力を過信して命を落とす……そんな話はいくらでもある」


「カナちゃん、上手くいってるからって油断しちゃだめよ?」


「はい、気をつけます」


 ……でも、きっと私は大丈夫。

 命を落とした人たちとは違う。

 私はうまくやれるはず。


 何たって、冒険者になって二日目でブルラビットを倒し、魔法まで覚えたのだから。


(そう、たとえ狼が束になって来ても……私なら一人でも対処できるはず)


 この時の私は、自分の力を完全に過信していた。

 それが後に、自分の命を危険にさらすことになるとも知らずに――。



◆◆◆



サイドストーリー



―グレン―



 店内が冒険者たちのバカ騒ぎで賑わう中、ふと落ち着かない様子のファナが目に入った。

 ただ事ではないと感じ、声をかける。


「どうしたんだ、ファナ。何かあったのか?」


「あ……、グレンさん。実はカナちゃんの姿がないんです」


「なんだって……っ!?」


 その一言で不安を覚えた俺は、騒いでいる冒険者たちをかき分けながらすぐに店内を探し、ファナに二階のカナちゃんの部屋を確認させる。


 ――いない。


 店にも、部屋にも、どこにも……。

 その事実が胸の奥をざわつかせる。


「グレンさん、どうしたんだい?」


 異変に気づいたディンたちが近づいてきた。

 俺が事情を話すと、三人の顔色が同時に変わる。


「カナがいない……っ!?アルト、サラ、セーラ。カナを見なかったか?」


 ディンはアルト、サラ、セーラに問う。


「カナちゃん……?そう言えばいつの間にかいなくなってるな……?」


「少し前までここにいたよね……?」


「ええ、魔法を覚えたって言ってたわよ?」


 アルト、サラ、セーラも辺りを見渡すが、カナちゃんの姿はどこにもない。


(まさか……、店内にいない……?だが、それなら一体どこに……?)


 言いようのない不安が広がる。


 と、その時ディンがなにか思い当たったのか、口を開いた。


「もしかしたらアイツ……、一人で近くの森に行ったんじゃないのか?」


「近くの森に?夜に、しかも一人で行くなんて自殺行為よ……っ!?」


「いや、ディンの言うこともあながち的外れじゃないかもしれないよ?あの時のカナちゃん、やけに自慢げに話していたから……」


「おい、ディン……!もしそうだとしたらカナちゃんがヤバいぞ……!」


「ああ……!」


 ディンたちの話に俺の中の胸騒ぎが一気に現実味を帯びてくる。


「おい!みんな……っ!」


 気がつけば俺は大声をあげていた。

 俺の声に先ほどまでバカ騒ぎで盛り上がっていた冒険者たちが静まり返る。


「みんな……!カナちゃんがいなくなった……!すまないが探すのを手伝ってはくれないだろうか……?このとおりだ……!」


 俺はカウンターに手をつくと、冒険者やウェイトレスたちに頭を下げる。

 すると、最初はお互いの顔を見合わせていた彼らだったが、すぐに笑みを浮かべてみせた。


「分かったよ。他ならぬグレンさんの頼みだ!」


「いつもグレンさんには世話になってるからな」


「それに、ここでグレンさんに貸しを作っておくってのも悪くないかもな!」


「みんな!カナちゃんを探しに行くわよ!」


「お前たち……」


 彼らの言葉に俺の胸が熱くなる。


「よし!俺たちは街の中を探そう!職人通りに向かう!」


「じゃあ、私たちはメシ屋通りに行くわ!」


「一応スケベ通りも行ってみるか……?」


「バカ!そんなところにカナちゃんが行く訳ねえだろ!」


「よし……!なら俺は……!」


 俺もカナちゃんを探しに向かおうとするとディンたちに制された。


「グレンさんはここにいてくれ!入れ違いでカナが戻ってくる可能性もある」


「……分かった」


 ディンの言葉に俺は頷く。


「よし!アルト、サラ、セーラ!俺たちは近くの森に向かうぞ!」


 ディンをはじめとした冒険者たち、ファナをはじめとしたウェイトレスたちがカナちゃんを探しに向かう。


(カナちゃん……!早まったことだけはするなよ……!)


 俺はその様子を手を握りしめながら見つめる他なかった。

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