第197話 姫の為なら火の中水の中
―――キャルメル 視点―――
......なんか今、おかしなことを口走った気がする。
気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
気を取り直していこう。目の前のチェリー君は私にメロメロのはずだし。
「王様、実は私長旅で疲れてまして~。
だから、ここら辺で良い宿ないかなーと探してるんだけど、どこかおススメあります?」
「おススメか~。ごめん、僕もしばらくここを離れてたせいでわからないな。
良ければ、後で何か聞いて知らせるよ。
あ、いや、いっそここに泊ってもいいかもね」
「本当!?」
ラッキー、まさか王様本人から言質取れるなんて。
にしても、やっぱり気になって話しかけてみたけど、おかしなとこはなさそうね。
ふぅ、単なる気のせいか。
ま、普段は男が集まりすぎて切ってるし、久々に使って違和感を感じたのかもね。
あ、そうだ! せっかくだし王様自らにマッサージしてもらうとかどう?
さっきからやたら反応が薄いし、これだったらチェリー君も大きな反応しそうじゃない?
「ねぇ、王様~、実はもう一つお願いがあるんですけどぉ、聞いてもらっていいですか?」
「いいよ、何でも言って」
「さっき長旅をしていたって言ったじゃない?
そのせいで体のあっちこっちがもう凝っちゃって。
だから、王様にマッサージしてもらいたいなーって」
ついでに<魅了眼>もバチコーイ!
「それは僕の仕事じゃないかな」
「だよね、逆に私が王様にやるべきだよ......ん?」
私がウインクした瞬間、さらりと紅茶を飲んで躱される。
あれ、なんで私言葉を否定して......やっぱり、やっぱりなんかおかしい!
なんで今、私が王様にマッサージすることになってんの!?
明らかにマッサージさせるつもりで言ったのに!!
え、なにこれ、どういうこと?
まさか......コイツも実はインキュバス?
私の魅了効果をかき消すほど強い魅了を放っているってこと!?
でも、コイツからは魔法を使ったような干渉は無かった。
それに、この国の誰も魅了されてるような形跡も無かった。
魔族特有の魔力の気配も無いし......。
「どうかした?」
「あ、いえ......」
じーっと見たけど、確認できる場所で魔道具は見当たらない。
そもそも両手を見せてるから魔道具なんて使えない。
なら、常時発動型はどう.....ううん、それも無いわ。
そういう類は守護は出来ても、自動で仕掛ける昨日は無いし。
「それで、今日はどういった目的でこちらへ?」
不味い、向こうから話しかけられた。
こんなガバな状態で迂闊なことはしゃべれない。
特に姫様のことなんか。
とはいえ、仮に私が魅了されている場合、相手に攻撃が勘づかれている可能性がある。
もしその状態で、あえて泳がされているのだとしたら......下手な嘘は相手に機嫌を損ねる。
あーもう! ただ宿借りて、ついでに「悪役の偉業」のことを調べようと思っただけなのにー!
ともかく、やるっきゃないわ。この場を乗り切らねば。
「私はとある組織を探してここまでやってきたの」
「とある組織?」
「悪役の偉業って奴らよ。
たった数人で勇者が滞在する学院街に攻め込み、校長を殺し、挙句にあの剣姫から逃げ切ったって噂の」
「.......あぁ、噂程度なら確かに」
今、眉がピクッと動いた。
明らかに何かを知っている人のサイン。
しかし、返答は今思い出したかのような感じ。
もしかして――コイツ、悪役の偉業の協力者?(※ギリ不正解)
でも、考えてみれば、その線は無くはない。
だって、人里離れたこんな森の中で、こんな国があるのは明らかにおかしい。
それにここに気づいたのだって、不自然な結界があったからだし。
それを考慮すれば、コイツが悪役の偉業と縁を持っているのは明白。
ここに来てとんだビッグウェーブね。
だとすれば、迷っている暇はない。
姫様のためにも、乗れ! このビッグウェーブに!
「些細なことでも何でもいいわ。何か情報をいただけないかしら。
これまでどこかへ行ってきたんでしょ? そこで何か聞いてない?」
「噂以上のことは特に......どうしてその連中をお探しに?」
「それは言えないわ。こっちにも守秘義務ってのがあるし。
それよりも本当に何も知らない? どんなことでもいいの!」
そう訴えかけると、王様は腕を組み、目を閉じて考え始めた。
その姿を私はただじっと眺めることしかできない。
おかしい、さっきまで優位に立っていたのは私の方だったのに。
「......」
というか、本当に私の<魅了眼>もフェロモンも通用していないの?
実は耐性がものすごく強いだけで、私を騙すほどのポーカーフェイスをしてるとかでは?
いや、そうだとしても、性欲は本能に直結する生体反応だ。
股間部分に屋根が出来ている様子も無いし、肉体に影響が及んでいない。
つまり、コイツは本当に私の能力が効いていない。
「......やっぱりフェアじゃないな」
王様が目を開けると、唐突にそう言葉を言った。
フェアじゃない......この取引がってことよね?
まぁ、こちらは理由を言わずに要求してるんだから、そりゃそうよね。
でも、だからといってどうする?
このまま真実を話すつもり? 姫様の許可もないのに自己判断で?
ありえない、それだけは絶対に。姫様ファースト、それが私。
「やっぱり理由を教えてくれないかな?
僕達も悪役の偉業にはお世話になっている。
不義理になるようなことはしたくない。
それになにより、強いからね。死にたくないんだ」
それに話したところで、コイツが本当に悪役の偉業に伝えるかは別。
伝えても、奴らは盗賊でも野党でもない。どちらかと言えば、義賊だ。
私達魔族が戦力に加えたいからといって、素直に応じてくれるわけがない。
だとすれば、私に出来ることはその不確定要素を出来るだけ潰すこと。
「だから、話してくれないか?
どうして悪役の偉業を求めているのかを。
その理由はどんなものであれ、僕は悪役の偉業に話をつけることを約束するよ」
「っ!」
お、落ち着きなさい、私!
ここですぐに食いついては、私に言い寄る男達と同じよ。
この男はあからさまな餌をぶら下げてきた。
その餌に私がどう食いつくのかを見ているよ。
さっきも考えた通り、伝えるかどうかはコイツの任意。
その不確定要素を潰すためには、この言質を確定的なものにしなければいけない。
「それは......」
とはいえ、どうする? いつも通りなら<魅了眼>で一発だけど。
コイツに限っては、理由は定かじゃないけど使えない。
なら、武力で従わせる?......いや、現実的じゃない。
この男は強そうに見えないけど、少なくともあの鍛冶師の大男はヤバイ。
もし<魅了眼>を使えない状態で戦ったなら、百パー負ける。
そもそもあの男は勝てるかどうかって尺度で測っていい存在じゃない。
自然災害みたいなものだ。同じ存在でなければ、ただ畏怖して見守ることしかできない。
「言いづらいかな。まぁ、守秘義務って言ってたしね。
でも、それだと困るんだ。無駄に時間を奪うのは君にも悪いしね」
武力はあくまで最終手段.....そう、そうしよう。
となれば、どうにかして私の<魅了>でゴリ押しするしかない。
もし無効でなく耐性なのであれば、可能性はワンチャンあ――
「言い方を変えようか――理由を話せ、キャルメル」
突然意思の強い視線をぶつけ、胸がドキッと跳ねる。
だけど、言えと言われて言う私じゃ――
「はい、実は私、魔族でしてそこで戦力を――っ!?」
しゃ――、しゃべらされた!?
こ、この男、私が魅了するどころか、逆に魅了してきやがった!?
いや、でも、それはさすがにありえない。
だって、私はサキュバスの中でも<魅了無効>の特別な存在。
でも、それじゃ、今の現象はどう説明をつけるっていうの!?
コイツが魅了を使ったじゃなければ話が筋が通らないじゃない。
「魔族......キャルメルは魔族なのか。そして戦力を、ね。
うん、そっか......なら、やっぱり君はサキュバスなんだね」
私の正体がバレてる。
いえ、もはやそんなことはどうでもいいわ。
問題はこの状況をどう切り抜けるかということ。
「......私が魔族だと知って、どうするつもり?」
「別に、何も。驚きはしたけど、特に魔族に対しては良いも悪いも感じてないかな。
だって、魔族が僕達に何か被害をもたらしたわけじゃないしね」
この男、本気で言ってる。私は数々の男を見てきた。
魅了されて私に好意を寄せるけど、その本質は変わらない。
腐ってる男は私に好意を寄せても腐ってて、誠実な男はどこまでも誠実だ。
そんな私から見て、この男はどちらかと言えば後者。
まぁ、もっと言えば、そもそも魔族という存在にあまり興味も持ってない感じだけど。
これでも異世界から勇者を呼ばれるぐらいには、魔族は目立ってるんだけどね。
「しかし、戦力にするのは難しいと思うよ。
彼らは傭兵団じゃない。つまり、金じゃ動かない。
彼らは彼らの目的のために動いてるからね。
強いて動かせる要因があるとすれば、人情ぐらいじゃないかな」
「人情ね.....随分と親交が深いみたいね、悪役の偉業と」
「あ、まぁ、そうだね.......」
「?」
今何か隠すような素振りを見せたような?
まぁそれは後でいいわ。今じゃどうせ何もできないし。
あぁもう! 難しいこと考えるのやめやめ!
もっと行動をシンプル化するのよ!
「ハァ、もう白状するわ......」
時間を少しでもいい、稼げ! その間に思考をぶん回せ!
私が今やるべきことは何?
それは悪役の偉業に話を繋げること。
そのために私が取れる行動は?
目の前の男を<魅了>で無力化するか、武力による制圧の二択。
「正直、ここまで言うつもりは無かったんだけど.....」
その二択の優先順位は?
一が無力化で、二が武力制圧になるわ。
姫様のために覚悟は決めた?
えぇ、決めたわ。それ以外考えないとも言えるけど。
ならば、後は――ゴーよ!
「私はね、悪役の偉業と話がしたいのよ。
もっと言えば、お願いかもね。そのために――さっさと堕ちて!!」
私は両目に魔法陣を発動させ、<魅了眼>を発動させた。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




